今も生きる私の初恋
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記事:新谷 幸菜(ライティング・ゼミ8月コース)
みなさんはご自身の初恋をおぼえていますか?
私の初恋は小学校6年生の時でした。今までにも父の同僚や、兄の同級生に恋心を抱くことはありました。しかしこの小学校6年生の時の恋愛は「あこがれ」ではなく、自分の全てを捧げてもいいほどに好きでした。朝から晩まで彼のことを考え、彼と話をする女子に嫉妬をして不安になり。全てが彼を中心にまわっていました。
彼はS.Rくんといい、私が小学6年生の時に一つ下の学年に編入してきた転校生でした。転校の理由は彼の両親の離婚でした。
私が暮らしていた地域は今では合併して岡山県真庭(まにわ)市になっていますが、当時はまだ真庭郡中和(ちゅうか)村という小さな村でした。コンビニも信号もないようなその村に、同じ県内とは言っても市内から転入してきた彼は随分とあか抜けて見えました。
Rくんは小柄でお調子者で周囲をよく笑わせ、その一方でどこか時々暗い目をするような男の子でした。今思うと、暗い目の先には両親の離婚があったのかもしれません。
彼は卓球が上手で彼が来てから小学校では卓球ブームが起き、みんながこぞって卓球をするようになりました。彼はまたたく間に私たちの小学校の人気者になりました。
当時の私は、明るく活発で勉強もスポーツもできて学校で目立つ存在でした。それもあったからなのか、Rくんと親しく話す相手は自然と私になっていました。毎日追いかけっこをしてふざけ合って。休日は遊ぶところが少ない村内で神社に集まって、自動販売機でジュースを買って大人の気分を味わいながら何時間も話をしました。
林間学校では狭いテントの中、キスのまね事をしました。その時に「もっと近くにいきたい」と思ったのを今でも覚えています。
私たちは付き合う瀬戸際でした。どちらかがもっと器用だったら今とは違う道もあったかも知れません。
ある日私たちはお互いの好きな人を当てるゲームをしていました。一日中「誰?」「誰々くん!」「本当?」「うそー」のようなやり取りを繰り返していました。その日の放課後、私は一世一代の勇気を出して彼の下駄箱に「R」と書いたメモを残し、逃げるように走って帰りました。もう大丈夫だろうと思って足をゆるめた時、
「おーーーーーい!」
と叫びながら走って追いかけてくるRの姿がありました。逃げようと思いましたが、
「待てって!」
というRに観念し、私は足を止めました。
R「これ、本当?」
私「……」
R「なあ、本当なん?」
限界でした。私は「うそ! 明日本当の人言う!」と言って逃げ帰りました。心臓が飛び跳ねていましたが、自分の心臓から逃げる場所はありませんでした。
そんな綱渡りの毎日を送っていた私たちでしたが、別れの時はやってきました。卒業式の日、私たちは最後の追いかけっこをしました。1年前は私が勝つことが多かった追いかけっこでしたが、1年経って私は女性らしい膨らみが付き、Rは男性らしい筋肉が付くようになって、私はRに追いつくことが難しくなっていました。捕まえて、腕を持って叩いて。それが私たちの最大のスキンシップでした。
追いかけっこが終わってRは私の親の車まで送ってくれました。珍しく始終無言だった私たちは、結局お互いの想いを伝えることはなく別れました。中学校に入るとお互いの世界も広がり、私たちは疎遠になっていきました。
これが私の淡い初恋の話ですが、今保健室の先生として中学校に勤めていて気づいたことがあります。私は、Rに似ているやんちゃな中学1年生に惹かれる傾向があります。
大人の体になりつつある2年生や3年生ではなく、少年のあどけなさの残る1年生なのです。それも誰でもいいわけではなく、やんちゃでお調子者で追いかけっこが好きで、どことなく陰のあるような子に惹かれるのです。
惹かれるからと言って、中学生とセックスしたいわけではありません。彼らが大人になるまで待つというわけでもありません。はたまた大人になったRと一緒になりたいというわけでもありません。
私はあのころの恋いこがれるような自分の記憶と体の感覚に恋しているのです。
今は年上のパートナーもいて、追いかけっこはしない大人の恋愛をしています。このまま結婚して一生を過ごしていくことになるのかもしれません。
しかし小学校の時の伝えられなかった私の想いは、ずっと記憶の中に残るのでしょう。記憶の中の私は、今はなき校舎の中でずっとRと追いかけっこをし続けるのでしょう。
この先誰と一緒になったとしても、好きな人に想いを伝えることができなかったシャイで不器用な少女の私は私の中の片隅に居続け、Rに似た男の子を見かけると全ての理性を蹴散らして走って出てくるのでしょう。そんな彼女が出てきているとき私は暴れ出す記憶をなだめつつ、切ない記憶に想いを馳せるのでしょう。
そうした記憶の中の私を抱えて、今の私は生きていくのでしょう。
生きる時間が長くなるにつれ、色々な自分が出てきます。過去に残してきた自分、恐がりな自分、全てを破壊したくなる自分。色々な自分が集まって「私」ができています。
色々な自分と一緒に生きていくこと。それが、大人になるということかもしれません。
***
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