メディアグランプリ

正義を行うときは常に自分にも痛みを伴う


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記事:佐藤良樹(ライティング・ゼミ6月コース)
 
 
「もうそろそろ2学期始まるね、学級での最初の話はどうするの?」
ベテランの先生に言われた。私は、中学校の教員をしている。2学期には行事がたくさんある。また、1学期にやってきたルールを再確認することで良い2学期のスタートを切るために、生徒に話をする必要があるというのだ。
 
正直いつも通り話せばいいと思っていた。行事がたくさんあるからみんなで頑張って良い思い出にしよう。あとは、夏休みどんな感じに過ごしたかの確認をするぐらいでいいですよね? と聞いてみると。まあそうなんだけど、どう伝えるかが大切なんだよねと言いながら、少々不気味な笑みを浮かべていた。これは、今日は帰れないやつか!? と身構えていると。
 
「ちょっとここ読んでよ」
そう言って、一冊の本を開いて読ませてくれた。生徒を動かす話をするには、新しい発見のある例え話をしろ! ということが書かれていた。そもそも人は感動がなければ行動するという気持ちにはならない。だから、話の中に「そういうことだったのか!」と気づかせることができる話をすることで感動が生まれ行動につながる可能性が高くなるというのだ。
 
これを考えて話をしなさいと言われたようなものだと思った。今日は夏休み最終日。なかなか好きに休むことのできない教員にとっては、自由に休んで好きなことができる憩いの夏休みである。しかもその最終日だ。さっさと帰って、カフェに行ってゆっくりしたり、飽きたらお家に帰ってきてゲームをしたりしようと思っていた。でも、ベテラン先生の言うことだから仕方ない、やるかと最後の夏休みを諦めてやることにした。
 
「おすすめにこのアンパンマンの話があるんだけどちょっと読んでみてよ」
と、今度は3枚の実践事例プリントを渡してくれた。読んでみると、なるほど! と思った。アンパンマンが顔を割って仲間に上げるシーンがあるが、あれは作者が「正義を行うときは常に自分にも痛みを伴う。だから、その痛みに負けないで挑戦し続けてほしい」という願いが込められていることを知った。
 
この話と、生徒に促したい行動の話を紐づける。合唱コンクールで自分のパートの声量が足りないから、もっと声を出さなきゃいけないんだけど喉が痛くて辛いとか、強弱を意識するけど弱の部分で声を小さく出さなきゃいけないのにはっきり聞こえるように歌うのは難しいとかの辛いなと思うことはある。でも、そういう辛いことに負けず挑戦し続けようねと話せばいいのだなとイメージをすることができた。これならできそうだぞと思った。
 
これをこのままやってもいいよと言われたが、少々考えたのち、折角夏休みにワンピースの映画を見に行ったのでそれをネタにしてやってみることにした。2学期が始まる前日に、2時間かけてたった15分の話の構成を作った。そして、インパクトが出るようにと黒板にキャラクターを書いた。生徒たちは驚いてくれるだろうか? ワクワクしながら明日を待った。
 
そして翌日。
「わ! すごい! あれ、“ウタ”だよね!」
「先生が書いたのかな? すっごい上手じゃない?」
夏休みが明けた2学期がスタートする日、クラスに入って生徒が絵の書かれた黒板を見て話をしていた。
 
朝の会が始まり先生の話の時間になった。
「夏休みを終えて心に残ったことはありますか?」
「友達と花火を見に行った!」
「家族と旅行に行った!」
と生徒が明るく答えてくれた。とても良い夏休みを過ごすことができたのだと思った。
 
「先生が心に残ったことは“ワンピースフィルムRED”です!」
数人の生徒はだから黒板に映画のキャラクターの絵が描かれていたのか! と気づき頷いていた。
 
「この2学期、君達にはこの“ウタ”というキャラクターになってもらおうと思います!」
真顔でこちらを見つめたり、隣と顔を見合わせたりしていた。
ワンピースを知っている生徒はクラスの9割くらいで、夏休みにこの作品を見に行った生徒は5人いた。これなら、ある程度話が通じるかなと思った。
 
「ウタは明るく元気なキャラクターで、責任感が強いです。自分の得意な歌を歌うという行為を通して、海賊に生活を荒らされて困っている人たちのために、新しい世界を作ろうとしました。やり過ぎてしまって、多くの人を困らせる結果になってしまいましたが、“みんなのために自分のできることをすること”、“やろうとしたことに責任を持ち最後までやり切ったこと”これらのことに感動しました」
 
「来週には何がありますか?」
「体育祭!」
「そうです、体育祭があります。2学期はこのほかにも文化祭もあります。これらの行事を盛り上げて楽しいものにしたいと考えています。そのためには、この“ウタ”のように“みんなのために自分のできることをやること”、“やると決めたことを最後までやり切ること”が大切です。だから、みんなには“ウタ”のようになってもらいたいと思います」
 
話し終えた後、ウンウンと頷く生徒たち。その中に、一人少々涙ぐんでいる生徒がいたことにびっくりした。どうしたのか聞いてみると、映画の内容を思い出し感極まってしまったのだという。
 
たった15分の話で、心を揺さぶることができるものなのだと実感することができた。2時間の構成を練る時間も報われたし、何よりもベテラン先生の一声がなければ、痛みを受け入れ挑戦しなければこの経験をすることができなかった。こうやって教師側が意図していることを工夫して伝えることで、生徒が楽しんで聞いてくれるのが嬉しいなと感じた。ベテラン先生に感想を伝えると、生徒が“あの先生の話は面白いから、もっと話が聞きたい”となり、生徒の行動を促すこともできるから一石二鳥どころかもっとメリットがある。だから、これを毎日考えてねと言われてしまった。
 
ということで、今日もまた明日の朝に何を話すかを考えている。体育祭に向け話合いが活発になってきたので、相手の意見をまずは受け入れることが大切という話をしようと思う。さて、これと似たような例え話を探さなくっちゃ。
 
 
 
 
***
 
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2022-09-22 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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