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ショートカットと永遠に戻らない愛


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記事:未来(ライティング・ゼミ8月コース)
 
 
2021の夏、30代最後にして7歳下の彼氏に振られた。私は失恋の清算と過去の思い出にけじめをつけたくて髪をバッサリと切った。20年以上ぶりのショートカットだ。私はずっとショートカットにしなかった、いや出来なかったのはもう二度と会えないあの人を思い出してしまうからだ。
 
初めてショートカットにしたのは高校3年生の時。渋谷をブラブラしていたらオシャレなイケメンに声かけられた。はじめはナンパかと思ってドキドキしていたら「俺、美容師の卵でカットモデルしてくれる人を探してるんだけど、髪切らせてもらえませんか?」とお願いされた。彼は名刺を差し出し、表参道の某有名美容院のアシスタントだと名乗った。私は「有名サロンでタダでカットしてもらえるならラッキー!」って軽い気持ちで引き受けた。
 
渋谷から表参道のお店まで10分くらい彼と歩いた。なんだかデート中のカップルみたいで隣を歩いている彼にドキドキした。当時、彼は23歳、奈良出身で一人前の美容師さんになる為に上京したばかりだと話してくれた。彼は高校生の私に「俺はもうオッさんだから、女子高生に声かけるのはめっちゃ緊張した」って笑顔で言った。今、思うと23歳は十分若いけど、手に職を持って頑張っている彼がすごく大人に見えて私にはすごく眩しく映った。きっとこの時から私は彼に恋に落ちていたと思う。
 
お店について、席に案内された。彼に「どんな髪型にしたい?俺は絶対ショートが似合うと思う!」と言われたが私はロングの髪を切ることに抵抗があったし、ショートカットが似合う自信がなかった。でも彼が自信たっぷりに「絶対かわいくしてあげるから大丈夫♪」と言ってくれたのでバッサリ30㎝以上カットすることにした。初めてのショートカットに緊張している私に彼はカット中に色んな話をしてくれて、すぐに仲良くなった。楽しくおしゃべりしているうちにあっという間に私のロングの髪はみるみる短くなり、30分後には鏡の向こうには今まで見たことのない姿の自分がいた。私は見慣れない自分の姿に戸惑いと恥ずかしさで鏡を直視出来なかったが彼は「やっぱりショート似合う。かわいい♪」と言ってくれた。くすぐったい気持ちになった。
 
カットが終わり受付で預けていた荷物を受け取った時、もう彼に会うことはないのかな? と寂しく思っていたら彼が「今日は突然、声かけたのに付き合ってくれてありがとう。お礼にこの後、お茶でも飲みに行かない?」と言ってくれた。私は「はい」と言って、彼は「急いで片づけるからちょっと座って待ってて」と言った。
 
彼と近くのカフェに行きお互いの色んな話をしていたらあっという間にお店が閉店の時間になってしまった。まだ帰りたくないと思っていたら彼が「もう少し一緒にいたいから俺の家来ない?」と言ってくれた。男の人の家に行くのは初めてだし、かなり迷ったが彼と一緒にいたい気持ちが優先して彼の家に行くことにした。緊張して彼の家のソファーに座っていたら彼の腕に包まれて優しくキスしてくれて。彼は「緊張して俺の方が震えてる」って笑ってた。
 
それから私たちは恋人関係になった。美容師さんの彼は忙しくてなかなかお休みはなかったけれど、時間がある時は出来るだけ一緒に過ごした。楽しかったし、幸せだった。
私が高校卒業のタイミングでもっと彼と一緒にいられると思っていた矢先に彼が転勤になった。
「奈良に帰らなきゃ行けなくなった」と伝えられたが東京で大学進学が決まっていて、自分で稼ぎがない私にはどうにも出来なく、彼とは遠距離になった。
彼が奈良に帰ってからしばらくは電話、メール、手紙のやり取りをしていたけれど、ある日突然、電話も繋がらなくなり、メールの返信も来なくなった。もう私のことなんてどうでもよくなったんだ、きっと奈良で新しい彼女が出来たんだって思いながらしばらくは毎日、泣いていたけれど、彼から連絡が来ることは二度となかった。
 
それから半年後、やっと自分の中で心の整理がついたくらいの時に1通のはがきが届いた。
喪中葉書だった。差出人は知らない名前だったが彼と同じ苗字の人からのはがきの隅に手書きで、
「弟が生前はお世話になりました」と一言添えられていた。
彼は半年前に事故で亡くなっていた。釣りに行って水難事故にあったのだ。恐らく彼のお兄さんが遺品整理をしていて、私の手紙を見つけて送って来てくれたんだと思う。私が彼に新しい彼女が出来たんだって思って泣いていた時には彼はもうこの世から旅立っていたのだった。ショックを通り越して言葉が出なかった。
奈良に行って彼の墓前で手を合わせたいって思ったけど、突然、東京からどこの誰だか分からないような人間が訪ねて行ってもご家族も迷惑だろうと思い奈良には行かなかった。
 
最後に彼がくれた手紙には「未来が大学卒業するまでにはもっと立派な美容師になるから卒業したら結婚しよう」って書いてあった。その手紙は今も大事にしまってある。
あれから20年、今でも美容院に行くと彼のことを思い出して、ショートカットにはずっと出来なかったけれど、失恋をきっかけにやっと彼が可愛いって言ってくれたショートカットにすることが出来た。これで私自身も失恋とずっと忘れられない彼との思い出にやっと前向きになれそうだ。
 
 
 
 
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2022-09-28 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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