さよなら、また今度、 60。サンシャイン
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:佐和田 彩子(ライティング・ライブ東京会場)
2022年9月30日。
私は、池袋で一番高いビルの展望台にいた。
それは、必然だったのかもしれない。
気の迷いだったのかもしれない。
だけど、今、私は立っている。
眼下には、いつも通り、いくつものビルで埋め尽くされていた。
それを知ったのは偶然だった。
サンシャイン60展望台の休業。
人間が作った物には必ず寿命はある。
それはどんな大きさのものでも変わりはない。
渋谷や神保町、新宿と様々な建物が老朽化という問題に直面している。
補強やリニューアルのために一時閉鎖になるもの。
目途が立たずに解体するもの。
それぞれが様々な結末に進んでいる。
そんな中、その影響が池袋のシンボルともいえる建物にふりかかったのだ。
2022年10月2日をもって、サンシャイン60展望台は一時休業となる。
2023年にリニューアルするとはいえ、約半年足を踏み入れられない場所。
私は自分でもどうしようもない性格なのだ、とつくづく思う。
行けないと言われたら、どうしようもなく行きたくなってしまうのだから。
時刻はあと少しで午後5時となる頃合い。
私は、高速で上昇するエレベーターの中にいた。
胃や腸が重力に引っ張られる感じに若干気持ち悪くなりながら数分。エレベーターの扉がゆっくりと開く。
考えることはおなじなのだろう。
親子連れやカップルが展望台のチケット売り場に並んでいた。
その後ろにたった一人で並ぶのは少々肩身が狭く感じるのはなぜだろう?
一歩、また一歩と展望台に近付いていく。
じりじりと進む度に時計を見てしまう。
もう少し早く到着すればよかった、と今更ながら考える。
今日の日の入りは5時半前。あと数十分で夜になってしまう。
壮大な夕暮れが見たくて時間を合わせたはずなのに、これではぎりぎりだ。
「まいったなあ」
思わずぼやいてしまい、前に並んでいたカップルが怪訝そうにこちらを向く。
さらに居心地が悪くなったものの、やっとチケット売り場に到達できた。
チケットを購入していると、ふと、釣銭トレーの下に敷かれたチラシに目が留まる。
なるほど、だから人が多いのか。
今日は休業前のイベントとして、「まっくらないと」というものが予定されているようだ。
何でも、施設の照明を必要最低限まで落とし、ろうそくの炎と夜景を楽しむのだという。
とてもきれいですよ、とチケットを渡しながら答える職員さんの声が楽しそうだ。
やっとの思いで中に入ると、そこは、鮮やかなグラデーションになっていた。
ビル群よりも遠くにそびえる山に落ちていく夕日。
赤いその玉から徐々に暗くなっていく。
赤、橙、黄、僅かな緑を超えて青、そして紺。
ゆっくりと空の色が暗くなっていく。
私は、思わずシャッターを切る。
窓ガラスの反射を気にしながらも立て続けに写真を撮る。
より美しい写真を撮るためなのだろう、大きな望遠レンズを付けた一眼レフを持つ人たちの中にiPhone11を構える様子はちょっと恥ずかしい。
だけど、持っているカメラの中で一番性能がいいのはこれしかないのだから仕方ない。
すぐ写真フォルダがビルと夕焼けで埋まっていく。
「綺麗だ」
思わず、声に出してしまった。
だけど、すぐに自分で自分を鼻で笑った。
そんなに綺麗なら、なんでもっと早く見に来なかったのか、と。
後ろで子供たちの声が聞こえる。
どうやら反対側にはすでに三日月が出ているようだ。
ゆっくりと地上のネオンより強く輝いていくそれも気になり、足早にそちらへ向かう。
青の濃淡しかない空。
そこにぽっかりと浮かぶ細身の月。
一生懸命写真に収めているのだが、こちらはなぜかうまく写真に残すことができない。
目の錯覚のせいなのだろうか?
月が思ったよりも小さく映ってしまい、どこを重点的に撮影したものか分からない夜景がフォルダに入っていく。
私と一緒に移動してきたのだろう、一眼レフをしっかりと構えて撮影する人の口元が少しほころんでいる。どうやら、機材の性能の善し悪しはこんな所に出てしまうのかもしれない。
悔しいが、仕方がないことだろう。
それでも、眼下に広がるビル群にはネオンが灯り、幹線道路を走る車のヘッドライトが川のように流れていく。
一枚、また一枚。
風景が、夕日が、夕闇が、そして、夜景が、フォルダに入っていく。
来てよかった。
でも、もう、遅すぎた。
なんで、もうちっと早く気付かなかったのだろう。
池袋には月に2~3度は訪れる場所だ。
その際に必ずと言っていいほどサンシャインシティへ足を運ぶ。
ただ、それは買い物のためだったり、食事の為だったり。
店舗が入っているエリアばかり入り浸ってしまい、水族館やプラネタリウム、展望台に足を運ぶことは全くない。
よく、地元の観光地に現地の人は行かないと言われているが、まさにその通りだろう。
行きたい、と思えばいつでも行ける距離。
だからこそ、また今度行けばいいと思って優先順位が低くなってしまいがちなのだ。
リニューアルのための一時閉鎖という強力なテコ入れがあったからこそ行くことができたが、それでも行かない人は多々いるだろう。
近すぎるからこそ行かない。
それはあまりに勿体ないのかもしれない。
目の前に広がる雄大な夕焼けや夜景を何度も見たい。
真っ暗な展望台の中一心不乱に夜景を取りながら、私は思ってしまったのだから。
***
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