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アントニオ猪木はウルトラマンである。


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:大野 敏美智(ライティング・ゼミ9月コース)
 
 
2022年10月1日午前7時40分。
 
プロレスラー・政治家として活躍したアントニオ猪木さんが亡くなった。
 
死因は、全身性トランスサイレチンアミロイドーシスによる心不全。
享年79歳。
猪木さんの病状は、本人の公式YouTubeチャンネルにて伝えられていたので、覚悟をしていたとはいえ、実際にお亡くなりになると悲しいよりも先に衝撃を受けた。
 
猪木さんは23年前に亡くなられたジャイアント馬場さんと並ぶ、日本人なら知らない人がいないぐらいの有名なプロレスラー。僕は昭和41年生まれなので、猪木さんの全盛期に少年時代を過ごしている。
 
猪木さんに関して思い起こせば数多くのトピックがあるのだが、中でも一番心に残っているのは1976年6月26日に行われた、当時ボクシング世界ヘビー級チャンピオンだったモハメド・アリ氏(故人)との異種格闘技戦だ。
 
異種格闘技戦は当時、世界初の試みで猪木さんのアリ氏へのアプローチで実現したのだが、ルールはアリ氏側にイニシャティブを握られた上にテレビ中継はアメリカのゴールデンタイムに合わせて日本時間の正午開始。
当時小学生だった僕は、学校から帰ってきた時にテレビで中継が放送され、真っ昼間から格闘技が放送されていることに違和感を憶え、猪木さんが終始リングに寝転んだままでアリ氏と対戦していたことに驚いた。
 
この試合で猪木さんの名前は世界中の格闘家に知られることとなり、以後極真空手のウィリー・ウィリアムズ選手、柔道の金メダリストであるウィレム・ルスカ氏(故人)と対戦し、異種格闘技戦は格闘技の1ジャンルを築くこととなった。
 
ここで筆者が猪木さんから感じたのは、未知のものを恐れず戦う魂だ。
 
日本国民で知らない人がいない、テレビの特撮番組のヒーローの一人にウルトラマンがいる。
 
ウルトラマンは自身が捕らえた怪獣ベムラーを輸送中にベムラーが脱走、追跡中に科学特捜隊のハヤタ隊員が搭乗するパトロール機と接触しハヤタの命を奪ってしまう。ウルトラマンは贖罪の気持ちからハヤタと同化し、以後地球人類社会の脅威である怪獣たちと戦うことになるのだが、これらはウルトラマンにとって未知のもの。ウルトラマンは毎週お茶の間でこの未知なる生物たちと戦っていた。
 
猪木さんもまた、プロレスとは違う挑戦として、異種格闘技戦という未知なる戦いに身を投じ、その戦いざまを国民に見せつけてくれた。
 
猪木さんが異種格闘技戦を始めたきっかけは、当時のプロレスがスポーツとみなされず、むしろキワモノ扱いされていたことへの反発と、プロレスが格闘技の中でナンバー1だというプライドからだった。
 
戦うきっかけや目的は違うが、未知なるものに怯むことなく果敢に戦い続ける姿は、僕をはじめとする同世代の子どもたちや若者たちの心を掴み、やがて神格化されていく。
 
ウルトラマンは創作されたヒーローだが、アントニオ猪木さんは現実にいるヒーローとして常に国民から期待される存在となったのである。
 
モハメド・アリ氏との世界初の異種格闘技戦から13年後の1989年、猪木さんは「スポーツを通じて国際平和に貢献する」ことをスローガンにスポーツ平和党を結成、当時の参議院選挙にて100万票近くを集め、プロレスラー初の国会議員に。彼の戦いの場はリングから国際社会に移っていった。
 
猪木さんが日本国民にとっての本当のヒーローになったのは、1990年の湾岸戦争だった。当時サダム・フセイン政権下だったイラクが隣国クウェートに侵攻。クウェートにいた日本人41人が事実上の人質となるが、猪木さんは現地に赴き、友人である元プロレスラー、ユセフ・トルコ氏(故人)に働きかけ、日本人人質を解放させるとともにトルコ航空のチャーター便で帰国の途に就かせた。
 
「猪木は現実世界に存在する本物のヒーローだ!」
 
当時の僕はそう確信した。
 
猪木さんはその後、プロレスラーと政治家の二足のわらじを履くが、政治家としてはスキャンダルに巻き込まれ落選。プロレスラーとしては1998年に引退するが、その後も縁起を担ぐと言われている「闘魂ビンタ」で悩める若者たちを鼓舞し、2011年に起きた東日本大震災の被災者を見舞い「1・2・3・ダァーッ」と呼ばれる掛け声を被災者たちとともにするなど、人々に元気と生きる勇気を与え続けてきた。
 
2010年代中盤になり再び政界に復帰するが、冒頭にも述べた「全身性トランスサイレチンアミロイドーシス」という国指定の難病に罹り、体力を落とし表舞台に現れる頻度が少なくなる。
 
2021年、猪木さんは公式YouTubeチャンネルで自分の姿を公開。全盛期からは考えられないぐらい痩せ細り、別人のように見え、僕は衝撃を受けた。
 
普通の感覚なら弱っている姿を見せたくないところだが、猪木さんは違った。
 
「全身性トランスサイレチンアミロイドーシス」いや病魔に侵された自分の身体と戦う自分の魂を見せてくれたのだ。
 
そして2022年10月1日。
 
猪木さんは力尽き、天に召された。
 
テレビ番組『ウルトラマン』の最終回「さらばウルトラマン」にて、ウルトラマンは地球のために最大の強敵ゼットンと戦い、力尽きる。
 
当時テレビの前でウルトラマンを応援していた子どもたちは、そのことが受け入れられなかったと聞く。
 
「全身性トランスサイレチンアミロイドーシス」という名のゼットンと戦い、力尽きた”ウルトラマン”猪木さん。
 
覚悟していたとはいえ、実際にお亡くなりになると、そのことをなかなか受け入れられなかった。
 
猪木さんが亡くなられてから数時間後、亡くなる10日前の猪木さんの姿がYouTubeで公開された。
 
そこで猪木さんが声を振り絞るようにして語ったのは、
 
「誰にも見てもらいたくないのだけど、自分に期待してくれる人がいるのならそれに応えないといけない」
 
という主旨の言葉。
 
猪木さんは命尽きるまで、自分を応援してくれる人に向き合って、”戦う生きざま”を見せてくれた。
 
僕にはそんな猪木さんとウルトラマンが重なって見えるのである。
 
 
 
 
***
 
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2022-10-05 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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