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家庭内・戦略アドバイザー誕生


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:今津眞一(ライティング・ゼミ8月コース)
 
 
「お父さ~ん、早く持って行って!」と妻の声、
「は~い」と、努めて明るく返事をする。
 
毎週、月曜と木曜の朝のゴミ出しの一幕だ。
私は定年退職後、決まった仕事もなく年金生活に入っている。
最初、健康管理も兼ねて、自転車で新聞配達でもしようかと思ったものの、
「あんた、配達先 覚えられへんと思うよ!」
と妻に言われ、妙に納得し 諦めた。
 
今までが殆ど家に居なかったので、何かその時だけを繕えば何とかなったのだが、そんな人間が四六時中家に居るとなると、何もしていないと粗大ゴミ化してしまいそうなのだ。
「困った、何とかしな……」
 
「それ手伝おうか?」と、タイミングを見て妻に聞いてみた。
「手伝う? 何言うてんの、当たり前やんか。これは分担!」
相手も段々強くなってくる。
「そしたら、風呂掃除するわ」と、やっとの思いで切り返す。
 
一家の大黒柱のはずが、収入がなくなると厳しい現実が待っている。
毎朝シャワーを浴びるのが日課だったので、風呂掃除ならと申し出る。
 
しかし、やり始めてみると意外と楽しい。どうせやるなら手首を鍛える時間にしようと思い、ブラシを持った右手に力が入る。 ところが、二週間もすると手首に痛みを覚え整形外科へ。
診断は腱鞘炎、手首に注射を打たれる始末。
「とほほ……情けない、あれしきのことで……」と、心の中の自分がつぶやく。
 
時々「うちの婿さん、仕事忙しいのにちゃんとやってるわ、エライ!」
と、娘の旦那をほめる。何か、じわーっとボディーブローのように効いてくる。
最近は、食事を妻が作り、私はもっぱら皿洗いを受け持っている。
いつの間にか役割が分担されていく。
 
着々と老後の世界が出来上がっていくのだが、これからこうして二人で生活していくわけなので、仲よく事を運ぶ方がいいに決まっている。
 
老後の生活をより良いものにするにはどうしたらいいのか? 結構考えるようになった。そしてついには、その戦略を立てようと思い立った!
 
戦略とは?
一言でいうと、「目的+手段」のことだ。
こうなったらいいなという目的があり、そこに行きつくまでのやり方を考えることだ。マラソンにも戦略があり、ゴルフにも戦略がある。家庭内にも戦略があっても良いではないか。
 
私の場合、家に一日中いると耐えられそうにない。
そこで、午前中は外に出ることにした。といっても行くところは図書館とかカフェだ。本を読んだり考え事したり、デスクワークが中心だ。
午後は、体を動かすことを中心にし、スポーツクラブに行ったり、ウォーキングに行ったり。人と会ったりするのもこの時間帯と決め、外に出る。
要は、出来るだけ家に居ないようにすることだ。
 
好きで一緒に居たいと結婚した相手だが、二人になると相手の欠点が気になりだす。勿論私にも欠点は沢山あるが、二人がずっと一緒にいると、欠点を指摘し合って泥仕合に発展することがある。これだけは避けるようにした方がよい。
 
「円満の 秘訣はウソと 知らぬふり」
とは、誰かの川柳だが、言い得て妙である。ウソをつくのは良くないことだが、ウソも方便といった場合もある。
夫婦とはいえ、一緒になって初めて分かる相手の性分がある。好き嫌いの違いだってある。どっちが良くてどっちが悪いなんて話になると、収まらなくなる。結論から言うと、全て受け入れるしかないのだ。
 
相手の性格を変えようなんて思っても変えることは容易なことではない。相手が納得し、自分から変わりたいと思って初めて変わるものだ。家庭においてもこうだから、ましてや社会において他人を変えようなんて思うこと自体、大それた発想なのだ。
 
いつの間にか、こんな生活も1年半 経過した。
全てを受け入れるという「悟り」の境地? と思えるような心境である。毎朝起きてテレビ体操に始まり、毎食後の皿洗い、風呂掃除、定期的なゴミ出し、ちゃんと役割分担をこなしている。
それ以外の時間は自由だ。
 
ある日、妻に問いかけてみた。
「ウサギとカメの話、覚えてる?」
「えっ? あのイソップ寓話の話?」
「そうそう、それ!」
「それがどうしたん? 駆けっこしてウサギが負けた話やろ?」
話が続いた。
「あれって、なんでカメが勝ったと思う?」
「ウサギが自信過剰になって、油断したからやろ?」
「ちょっと違うんよね……」
「どういうこと!?」
予想以上に 喰いついてきた。
 
「あれは、そんな単純な話と違うねん。端的に言うと、ウサギとカメの 『見ているもんが違ってた』 からやねん」
「何、見てたん?」
「ウサギはカメ、カメはゴール見てたんや」
ちょっと怪訝そうな顔になってきた。
「だから油断したって言うたやんか?」
「ウサギは現代人に多いタイプで、周りを気にして比較して生きてるタイプ。カメはしっかり自分のゴールを目指してコツコツと一生懸命生きるタイプなんよ。この違い分かる?」
「ふ~ん……」
「ウサギみたいな生き方は、一喜一憂するタイプ。常に周りと比較して生きてるからしんどいんよ。それよりカメみたいに、自分の目指す北極星みたいなゴールを持ってたら、しんどいことがあっても方向を見失うことなく頑張れるんや。それがレジリエンス(復元力)って言う力やねん」
 
こんな会話から、自分の立ち位置を確認することができた。妻と向き合うのでなく、お互いのゴールを目指して共に歩んでいけばいいのだ。小さいことなど気にする必要はない。
人生100年時代、これからの第二の人生を乗り切っていくべく、お互いのゴールを設定することにした。こうして、私の新たな人生戦略は家庭内から始まったのだ。
 
 
 
 
***
 
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