メディアグランプリ

人生とフルマラソン


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記事:今津眞一(ライティング・ゼミ8月コース)
 
 
「小豆島でオリーブマラソンがあるけど、10km 一緒に出ない?」
ある日、友人から声を掛けられた。
そして、これが私の初マラソンとなった。
 
私とマラソンとの関係は、この時からである。
小さい頃から短距離は好きだったが、長距離は苦手だった。中学生の時メキシコ五輪で銅メダルを取ったサッカーの釜本選手や杉山選手にあこがれ、高校でサッカー部に入ろうとしたのだが、体験初日の練習であまりに走ることがきつく、入部を断念したことを覚えている。とにかく苦手だった。
 
50歳になり体力の衰えを感じていた私は、よしやるぞと自分にプレッシャーをかけた。ジムで2カ月前から走り始めた。時速10kmで走れば1時間で完走だ! が、なんと15分と持たなかった……
これを機に、時々吸ってた煙草もきっぱり止めた。
 
私の初マラソンは、何とか時間内に完走したものの足はふらふら、達成感よりも、もう二度と走らないぞと思った。そう、予想以上にきつかった。
 
そんな私が二度目に声を掛けられたのは、54歳の時、
この時は、お取引先の業者さんからだった。
「今度の総社吉備路マラソン走りません?」
「えっ? 走るんですか?」
4年前の記憶も薄すれていた。
 
この大会は10kmがなく、5kmかハーフの選択を迫られた。どうせ走るなら前回以上にと、ハーフマラソン(約21km)にエントリーすることにした。以前の倍の距離、ちょっと考えたがやるしかない。
格好つけて、「いいですよ!」と答えていた。
 
走ってる途中、若くて美しいランナーの後ろを追いかけるライオンのように? 見えたかどうかは別として、沿道からは容赦のないヤジも飛ぶ。
「ハアハア舌だしてないで、スピード出せ~!」
 
後半に、後ろからヒタヒタと迫る足音に抜かされた時には、ランナーを見てびっくり! なんと私よりはるかご高齢のお爺さんだった。しかも、ペットボトルを脇に抱え、半分曲がった腰で走られる姿は 今でも忘れられない。
 
このハーフマラソンも何とかクリアー。完走後に足がつったものの、今回は以前にも増して達成感を感じていた。
 
ここまでくると、いつかはフルマラソンを完走したくなっていた。
そこで還暦を機に、人生初のフルマラソンに挑戦することにした。3度目の正直ではないが、今回は自発的に申し込み参加した。
2016年2月14日の高知龍馬マラソンである。
 
5キロ辺りでは時速9kmで余裕を持って走っていた。
地元のラジオカーのアナウンサーが、マイク片手に走り寄ってきて、インタビューをしてきた。
「どちらからお越しですか?」
「岡山からです」
「えー? 岡山ですか。よく走られるんですか?」
「いいえ、フルマラソン初めてです!」
「えっ? どうして高知まで来て走ってるんです?」
「今月還暦なんですが、妻から課された罰ゲームですかね!(笑)」
このやり取りは同情を誘ったようで、大受けだった。まだまだ余裕があった。
 
10キロ過ぎたあたりで前を走っていた人が突然倒れた。人が何人かいたので自分のペースを守ろうと、そのまま走った。何しろ6時間以内に完走しようと思っているので、ここで立ち止まると挽回できそうにない。まだまだ先は長い。
 
途中の給水のタイミング、栄養補給のタイミング、6時間も走る予定なのでトイレの場所も確認しながら計画を練ったのだ。そのまま計画通りにやり抜くしかない。腕時計にもGPSが付いていて、走っているスピードや心拍数まで計測してくれる。
 
忘れもしないあの日の高知は、前日の大雨の後の快晴。気温は20℃を超えてどんどん上がり、湿度も高く、予想外の厳しい気象条件に見まわれた。
途中で救急車のサイレンが鳴り響く。大会関係者からは水分補給を促すアナウンスが多くなる。後で分かったことだが、その日ランナー10人が救急搬送、その内二人が一時心肺停止の状態だったそうだ。
 
ともあれ、人生初のフルマラソンは、何とか5時間58分35秒でのゴール。6時間以内で完走できた。
 
マラソンは確かに体力をつけておかないと走れない。しかし、それ以上にメンタル面の身体に与える影響は侮れない。
マラソンのエッセンスについて、村上春樹氏が彼の著書の中で引用されていたフレーズがある。
「Pain is inevitable. Suffering is optional」
つまり、走っていて「きつい」と感じるのは避けがたいが、それを苦しいと感じ「もう駄目だ」と感じるかどうかはあなた次第だ、という意味だ。
同じぐらいの力を持った選手が争った時、もう駄目だと思った方が先に負ける。この微妙な精神力の差が勝敗を分けることは勝負の世界で確かにある。
事前計画を入念に行い、走る前日に高知入りし、土砂降りの雨の中、レンタカーを走らせコースの下見をした。これがレース後半で大変役に立った。あそこまでいけばこうなるとコースの予測ができ、心の準備ができたからだ。何も知らずにぶっつけ本番で挑んでいたとしたら、不安で精神的に押しつぶされていたかもしれない。精神面の身体に与える影響力は半端ではない。それが実証できた。
 
「あんた、ゴール前 歩いとったやん」と、後で妻から言われた。
本人にすると 「走ってたんや、あれでも!」
私の目的はタイムではなく、時間内に完走することだった。だから絶対に歩かないぞと決めていた。他の人から見ると歩いているように見えたかもしれないが、私は「走っていた」のだ。
自分で目標を決め、確実に成長していく喜びは、何ものにも代えがたいものだ! と感じていた。
 
こうしてみると、結構、マラソンも人生も同じだ。
マラソンを通して、計画を立てて準備をしていく事の大切さ、心の身体に与える影響の大きさに気付くことが出来た。残念ながら目の前で倒れた人を助ける余裕はなかったが、ギリギリでも完走できたことは私にとって大きな自信となった。残りの人生、これからもゴールに向かって走り続けたい。
 
 
 
 
***
 
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2022-10-12 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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