メディアグランプリ

生きた招き猫に逢いに。

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:佐和田彩子(ライティングライブ東京会場)
 
 
私が、その子を見たのは五年前だ。
当時、私はとてつもなくツキに見放されていた。
突然仕事をクビになり、恋人にも振られてしまった。
気のいい友人は全員多忙のため連絡が一切取れないし、家族も腫物に触るようにどこか他人行儀。
「辛い」と吐き出したくても、受け止めてくれる人がいない。
「助けて」と叫びたくても、手を差し伸べてくれる人がいない。
心をズタズタに切り裂くような思いが頭の中をグルグル回る。
私も分かってはいるのだ。このままではダメになってしまう、と。
深夜、口からあふれ出しそうな悲しみや苦しみに染まった言葉たちを押しとどめながらスマホの画面を指でなぞる。
誰でもいいから、助けてほしい。
何でもいいから、助けてほしい。
誰か! 誰か! 誰か!
登録しているSNSに思いの丈をぶつけても、なんの反応もなくネットの海に沈んでいく。
ハッシュタグに思いついた言葉を放り込んで、あてもなく情報を探していく。
マホの画面を指でなぞる。
誰でもいいから、助けてほしい。
何でもいいから、助けてほしい。
誰か! 誰か! 誰か!
画面を滑る指だけがせわしなく動く。
何時間くらい触っていたのだろう?
熱を帯び始めたスマホの画面は、久々に開けたインスタグラムが写っている。
痛みが出てきた目をこすりながら、ハッシュタグに「開運」や「縁結び」と言葉を放り込む。
人だけじゃだめだ。神様にも助けを求めないと!
若干ぼんやりした頭で、真四角に切り取られた写真たちを漁っていく。
「あ」
私は、一つの写真に釘付けになった。
ベルベットのような真っ赤な絨毯を敷いた階段に白い猫がちょこんと座っている。
白というよりちょっとクリーム色っぽい毛並みが柔らかそうだ。
日差しが気持ちいいのか、優しく目を閉じている。
かわいい。
写真の説明を見ると、面白い文章がそこにはあった。
生きた招き猫。
少し欠けた耳がトレードマークなその猫は浅草のとある神社にたまに出没するらしい。
出会う確率は低いものの、出会うことができれば幸運が舞い込む、とのこと。
優しそうな顔とちょっと欠けた耳がすごくかわいらしい。
「会いたいな」
ふと、スマホから目を離すと、いつの間にか窓の外が明るくなっていた。
窓を開けると、少し暗いものの雲一つない青空が広がっている。
「会いに行こう」
私は、すぐに支度にとりかかった。

それから数時間後、私は浅草駅に降り立った。
平日にも関わらず人が多く、日本語以外の言語がたまに飛んで来る。
私は、スマホのナビを頼りにゆっくりと歩いていく。
どんどん人の声から遠ざかっていくことに少し不安になるが、矢印を信じて突き進む。
私の横を人力車が走り去る。
あまりよく見えなかったが、多分、乗っていたのは綺麗な着物に身を包んだ女性二人。
いいなぁ、と思いながら進んでいくと、大きな横断歩道にたどり着いた。
赤信号のせいか、私を追い越していった人力車がそこに止まっていて、額から汗を流している車夫が指を指している。
釣られて私もそちらに目をやると。
「……すごい」
道路の向こうに巨大な塔が立っている。
東京スカイツリーだ。
写真では見たことがあったが、実物を見るのは初めてだ。
わー、すごい! と黄色い声が人力車から聞こえてきた。
そうだよね、すごいよね。
私は心の中でつぶやきながら、目的地に向かった。
 
浅草からどれだけ歩いたのだろう?
観光地をいうより住宅街と言った方がいい場所に、その神社はあった。
大きな石造りの鳥居が目に飛び込んでくる。
その横には、一対の立て看板があり、「招き猫発祥の地」「沖田総司終焉の地」と書かれている。それをうれしそうに見ながら女性が一人、また一人と鳥居をくぐっていく。
インスタグラムの写真に付いていた説明には、猫の写真はここの境内で撮ったと書かれていた。
あの猫はいるのだろうか?
少し緊張しながら、私も境内に入っていく。
あまり見たことのない丸い絵馬がびっしりと奉納された場所を過ぎ、本殿へ向かう。
すると、本殿の前に小さな人だかりができていた。
まさか!
私は、走り出しそうになるのを抑えながら急いでそちらへ向かう。
「あ!」
その猫は、居た。
本殿に続く階段の上、赤い絨毯が敷かれた部分にのんびりと眠っている。
私は急いでお参りをしてから再度人だかりに入っていく。
どうやら、日向ぼっこ中らしい。
ゆっくりと背を上下に動かすだけで、さっきの場所から全く動いていない。
「ラッキーですね!」
横にいた女性が小声ながらも興奮した口調で写真を撮っている。
「そうですね」
私もポケットからスマホを取り出した。
 
その後、上手く撮れた一枚を壁紙に設定して過ごしていた。
一緒に撮影していた女性曰く、そうすると幸運が舞い込むらしい。
そうしたらどうだろう!
何とか再就職先が決まり、ぎこちなかった家族とのやり取りも元に戻った。
職場の近くにあるジムに通うようになると、そこで新しい友人にも巡り合うことができた。
今も、私のスマホにはかわいい白い猫の寝姿が待ち受けになっている。
私のかわいい守り神。生きた招き猫。
この子に名前はあるのだろうか?
今度、出会った時に知りたいと思っている。

 
 
 
 
***
 
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2022-10-26 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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