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ある日突然、畑を借りる~半農都会人という生き方

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記事:みしぇる(ライティングライブ東京会場)
 
 
世界中でコロナウイルスが流行し、この先どうなるのか不安な日々を過ごしていた2020年5月。私は、急に思いたって小さな畑を借りた。
 
市境にある川沿いの道を自転車で走っていた時、ふと空いている市民農園を見つけた私は、好奇心から畑のおじいさんに声をかけてみた。
「あの~。この畑、どうやったら借りられるんですか?」
「ああ、ここ? そこの坂をのぼったところの農家さんが貸しているから、行って話を聞いてごらんなさい。空いているから多分すぐ借りられますよ」
 
畑を借りたいなんて、その日の朝に目覚めた時はまったく考えていなかったし、そんな予定もなかったのだが、これも何かのご縁だろう。おじさまに声をかけてから1時間後。私は15㎡の畑の持ち主になっていた。
 
さてと、畑って何からすればいいんだっけ???
翌日、私はホームセンターで買ってきたばかりの「初心者用シャベルとクワセット」を手にして畑の前に立った。我ながら、行き当たりばったりだ。これまで、ちゃんと畑のやり方を学んだことはなく、どちらかというと観葉植物をすぐに枯らしてしまうタイプだ。いまさらながら、自分は本当に畑なんてできるのだろうか? と心配にもなったが、そんな不安よりもワクワク感が勝っていた。なんてったって今日から自分は、この空間を思う存分、自由に使えるのだ。
 
まずは手始めに畑を耕すことにした。ちょうど学校が休みだった中学生の息子を誘い、一緒に耕してもらった。畑を耕すなんて、十何年ぶりだ。
 
「ママね、お兄ちゃんが産まれる前の日に、畑を耕したんだよ~」
「え~!? なんで? ヤバくない?」
「まあね。陣痛がはじまったから『もう産まれそうです~』って助産院に行ったんだけど、助産師さんから、『子宮口がまだ少ししか開いていないから、まだまだ時間がかかりそうね。いったん家に帰って、また来てね』って言われて、なぜかクワを渡されたわけよ。『帰る前に畑を耕してみてね~』って。
「え~!」
「でね。はじめてのお産だし、そんなもんかなあと思って30分くらい畑を耕したの。こういうさ、畑を耕す動きがお産にいいみたいなの。結局、その日の夜中にお兄ちゃんが産まれたんだけどさ、本当に安産でね~。いやあ、クワを見ると思い出すなあ」
 
そんな話をしながら、息子と畑を耕して始めたら、へっぴり腰なクワ使いに見ていられなくなったのだろうか。隣の畑のおじさまがやってきて、
「クワで全部耕すのは大変だよ。これで一気に耕してあげるよ」と小型耕運機で、畑を一気に耕してくれた。その上、畝まで作ってくれ、さらに、「これ余ったから~」と、夏野菜の苗までくださった。畑のご縁。なんと親切でありがたいのだろう。
 
それからというもの、毎朝早く起きて畑の様子を見に行くのが楽しみになった。水をあげていると、野菜の小さな芽がひょっこり出てきて、それがまた愛おしい。トマト、ナス、トウモロコシ、ピーマン、ゴーヤ、きゅうり、青じそなどなど、周りの師匠たちからサポートしてもらいつつ、好きな野菜を気ままに育てた。
 
なんて豊かな時間なんだろう。道沿いには花も植えて、日除けにアーチを立て、緑のカーテンをつくった。私だけの秘密基地。畑にいると、コロナ感染の不安や閉塞感はまったく感じられなかった。土に触れている時間が愛しくてたまらない。朝日や夕日をこんなにゆっくり見たのはいつぶりだろう? ミツバチの羽音を聞くことも、鳥の声を聞くことも、すべてが心地よかった。
 
夏野菜の収穫時期になると、新たな楽しみが増えた。きゅうりやナスやミニトマトなど、食べるのが追いつかないくらい毎日収穫できた。そのうえ、周りの畑にいる野菜作り名人からも次々におすそ分けがくる。夏野菜フィーバーに嬉しい悲鳴をあげながら、友人や近所の人、果ては通りがかりの知らない親子連れにまで、おすそ分けした。
 
ある日、お散歩中の子連れ親子に「ねえねえ、このニンジン抜いてみない? と声をかけてみた。子どもが恐る恐る葉っぱを引っ張ると、スポンっとニンジンが地面から顔を出す。「すごい! こんなのはじめて。ありがとうございます!」お母さんもとても嬉しそう。まだ5歳という女の子は、自分で抜いたばかりのニンジンを大事そうに抱えて、何回も何回も振り返りながら、ずっと手を振って帰って行った。なんてかわいいのだろう! と、とても嬉しくなった。
 
都会の中に残された田畑地帯の中にポツンとある小さな畑。今はもう、畑が暮らしのベースにある。あの日たまたま借りた畑で、こんなにたくさんの「ありがとう」が生まれるなんて想像もしなかった。とても豊かで幸せな気分。
半農都会人という言葉がある。農ある暮らしをしながら都会に住む人々のことだが、ここで出会う人は皆、高齢者も小さな子も皆、笑顔で元気だ。もしかしたら、大地を耕すということは、心を耕すことに通じているのかもしれない。

 
 
 
 
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2022-10-26 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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