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早朝鼻フック大作戦


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:田盛稚佳子(ライティング実践教室)
 
 
月曜の朝は憂鬱だ。
しかも明らかに長びく会議が入っている日はなおさらだ。そんな時、私は決まって発する言葉がある。
「あぁ、今日だけ猫になりたい」
わが家のメス猫は、ぶつぶつとぼやく私をチラリと見ては、
「またそのセリフ? もう聞き飽きたわ」
と言わんばかりに、こちらに尻をむけてプイッと寝てしまう。
それでも、私は「今日だけ! 今日だけでいいから私と入れ替わって!」と、しつこく体を触りまくって食い下がり、挙句の果てに「シャーーッ!!」と怒られてしまう。
なれるわけないのに。人間が猫になれるわけなんてないのに。
 
猫を飼った経験がある方ならおわかりいただけるかもしれないが、猫は人間の言葉をある程度わかっているなと思うことがよくある。
「カリカリ(ドライフード)」
「ちゅーる(ペースト状のおやつ)」
という単語を聞くと、目をカッと見開きながら2階からダッシュしてくることがある。
また外出先から帰って来た際、留守番してくれたお礼に
「ありがとう」
「えらいね」
「すごいね」
と声をかけるとドヤ顔で返してくるのも、猫好きとしてはたまらない。
動物写真家で有名な岩合光昭さんが、テレビ番組で世界各地の猫たちに「いい子だね」と言うと、猫たちが彼にスリスリしてくるのも、何かしら理解しているからに他ならない。
 
一般的には猫の知能は、人間で言うと2~3歳くらいに相当すると言われている。
犬に比べると、猫の生態については解明されていないことも多いが、2019年4月にイギリスの科学誌「サイエンティフィック・リポート」には興味深い内容が掲載された。
飼い猫が「自分の名前」と「一般名詞」を聞き分けられることが実験によって証明されたというではないか。
しかも飼い主だけでなく、見知らぬ人が発する「自分の名前」や「一般名詞」でも同じような結果が出たという。
 
もうすぐ一緒に生活して6年を迎えようとしているが、私が彼女の性格や好きなことを次第にわかってきたように、私の性格も徐々に理解しているのだろう。
ここ1~2年で「自分の名前」や「一般名詞」を聞き分けることに加え、あることを覚えた。
 
「どうやったら、早朝に飼い主からカリカリをもらえるか」
私は朝にすこぶる弱い。スマホの目覚まし機能を使っていても、消しては寝るということを最低3回は繰り返す。朝からわが家はスヌーズ祭りである。
人間の聴力の3倍以上で聞こえる耳のいい猫にとって、スマホからの大音量は極めて迷惑な話である。
それでも初めの頃、彼女は控えめに鳴いて私を起こしていた。
「ニャオーン」(あの、お腹空いたんですけど……)
鳴いているなと頭の隅っこで思いつつも、私の眠気のほうが断然勝っているので、起きるはずがない。鳴くのはだいたい午前5時だが、早いときは午前3時のときもある。
 
そのうちに、「ウニャッ! ウニャーン」(ちょっと! 早く起きなさいよ)
と急かすようになってきた。よほどお腹が空いているのだろう。
私は半眼の状態で、おぼつかない手でカリカリをお皿に入れる。そしてそのまま、また深い眠りにつく。
次第に鳴き声だけでは飼い主が起きないことに気づいたようである。
そこで彼女がとった作戦は「肉球ペンペン作戦」だった。
掛布団から出ている私の体の一部をペンペンと叩くことで、起きるよう促してきたのである。
日によって、腕や肩など叩く場所が違う。まるで、どこを叩くのがより効果的かを試しているかのようだった。
そんな健気な彼女に「しょうがないな、せめてあと1時間寝かせてよ」と言いながら、カリカリを上げていたものの、またもや私の眠気のほうが勝る日が多くなっていった。
不思議と彼女はしばらく早朝に起こさなくなったのだ。
しめしめ、私が起きないから観念したか。猫もやはり学ぶのねと安心しきっていた。
 
そんなある日の早朝。
猛烈な鼻の痛みで目が覚めた。グイッと鼻の穴を引っ張り上げられたのだ。
「いったーーーい!」
一瞬、何が起こったかわからなかった。ふと枕元を見ると猫が鳴きもせず、じっと私を凝視していた。
「これなら、さすがに起きるやろ」
そう言わんばかりのドヤ顔だった。
「人間にも鼻フックされたことないのに……」
午前5時前に猫から鼻フックをくらうとは。なんたる失態。私は半泣き状態でカリカリを皿にいつもより多めに入れた。起きてきた家族に事の顛末を話すと爆笑された。
過去最高に両前足の爪が伸びていた時期であり、二つの鼻の穴に引っ掛けるには丁度いい長さとカーブだったようだ。
 
「鼻フック大作戦」が成功してからというもの、「なんでそんなことするのよ!」と私をたびたび怒らせながら、あの手この手を使って早朝に起こす術を使いこなしている。
彼女はついに気づいたのだ。
「皮膚の薄い部分に爪をひっかけて引っ張ると、必ず飼い主が起きる」という事実に。
そして、飼い主がちゃんと起きて仕事に行けば、「カリカリ」も定期的に補充されるということも。
どうやら、私より猫のほうが一枚上手だ。実は2~3歳を超える知能なのではなかろうか。
可愛がっているようで、実はいいように転がされているのは飼い主のほうなのかもしれない。
みなさんのおうちの猫ちゃんたちは、どうですか。
 
 
 
 
***
 
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2022-10-26 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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