誇り高きダークヒーローからの挑戦状。
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:千々岩 康治(ライティング・ライブ福岡会場)
今日は研修の日だ。今持っている資格の更に上位をとるために受けなければならない。
自腹で来ている。自然と力が入り席も前に座った。
暫くすると講師が入ってきた。
今日の講師は誰だろう。入り口に目を向けた途端、私は動悸と激しい吐き気に襲われた。
入ってきた講師はなんと元職場の施設長だった。
私は施設長が嫌いだった。
一番言ってはいけないタイミングで一番言ってはいけないことをいう人だったからだ。
自分の元上司を勉強が足りない・使えないと言いながら自分の失敗などを元上司に後始末をさせていた。
言い方に腹を立て退職していった同僚は1人や2人ではなかった。
こんな無神経で恥知らずな人間がいるのかと最初は驚愕したものだ。同じ職種だと思うと恥ずかしかった。
だが私は施設長がかわいそうに感じていた。仲間が一人も居なかったからだ。職場には勿論外部にもだ。何処にも居場所がないのかいつもイライラしていたのを今でも覚えている。
研修などでも仲良くなった人に所属を伝えると必ず名前が出ていた。そしてなんとも微妙な顔を向けられた。
仲間になりそうな人も少しでも意見が違うと敵意をむき出し手を払いのける。見たいものや聞きたいものだけのほうを見て目と耳を塞ぐ。施設長は理想を求め一人で誰もいない砂漠をさ迷っている。それが私のイメージだった。
だが同時に私は施設長はすごい人だとも感じていた。自分の高い理想に向かって突き進んでいたからだ。理想に正直で意見を曲げることも決してなかった。勉強も沢山しており、知識量もすごかった。施設長の担当する研修は内容も話し方も用意された資料も他の講師とは別格だった。私は今現在でもこれほど勉強をしている人間を見たことがない。施設長は努力の人だった。
そして何より私は施設長に感謝をしている。「反骨」の精神を私に教えてくれ、国家試験に合格するきっかけをくれたからだ。
自分のやるべきことや一生かけての目標を見つけることができ仕事に関しての根っこを作ってもらった。
あの人が私の考えに賛同したり理解のある人だったらここに座っていなかったはずだ。
周りの同僚や後輩を守るため、先輩に恩返しするには力や知識が必要であることを教えてくれた。
ぬるま湯ではなく厳しい環境であったからこそここまで成長することができた。
私や施設長の仕事は一人では何もできない。多職種の調整役だからだ。
「みんなで仲良く手をつないで」私はこの考えは嫌いではない。
一人では人間は生きていけないからだ。
だが施設長はいまこの瞬間も私に問い続けてくる。
「隣の人間の顔色をみてまともな仕事ができるのか?」
「たとえ全世界が敵になっても意見や職種の考えを貫き通す覚悟がなければプロとして言えないのではないか?」
施設長は卑怯な子悪党ではない。
誇り高きダークヒーローだ。
「決して逃げたりせず、全世界が敵になろうとも自分の理想の為に戦え」
そう私に語り掛けてくる。いまだに答えは出ない。
だがその強さと覚悟に憧れていた。
一瞬意識がとんでいたようだ。気が付いたら動悸と吐き気は収まっていた。
施設長の目線が一瞬こちらに向いたような気がする。
気付かれたか?
前に座ったことを後悔した。
施設長が教壇にたつ。
目が合う。やはり気付かれているようだ。
施設長の目線を真正面から受け止める。
バチリッ!
火花が散った。
……ような気がした。
軽く会釈をすると目の奥が笑った。
視線は私に賞賛と挑発を送っていた。
「ようこそこちら側に。だがここに座っただけで俺に勝てると思うなよ。かかってこい」
目がそう語っている。
私も負けずに視線に感謝と挑戦をのせる。
「ありがとうございます。そこら辺の人と一緒にしないで頂きたい。私を甘く見ていると痛い目をみますよ」
誇り高きダークヒーローからの挑戦状だ。
受けるしかないだろう。
こちらとしても負ける訳にはいかない。
あの人と同じように私にも目指すべき理想と守るべき仲間がいるからだ。
……と、考えつつもっと仲良くできないものだろうかと自分の心の狭さに若干呆れてしまう。
私は当時施設長が誇りに思っていた資格を持ってこの場にいる。
追いついたと思ったが実際は違う。私の講師をしているのだから少なくとの私の数段上だ。
あれからも努力をしているのだと痛感した。ダークヒーローはやはり強敵だ。
負けたくない。
あの人に認めてもらいたい。
施設長が講義を始めた。
私も資料に目を落とす。
これから6時間の長丁場だ。
椅子に座り直し気合を入れなおす。前に座ってやはり良かった。
もう動悸も吐き気もしない。代わりに私の中に「反骨」の火種が灯っていた。
私は今でも施設長が嫌いだ。
だがあの人はすごい人だ。
そして尊敬している。
***
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