メディアグランプリ

四十歳、まだまだ頑張るために特別製のエンジンが欲しい


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:吉田けい(ライティング実践教室)
 
 
新しいことを始めるのは、なかなかにエネルギーを要する。
 
結婚して子供が生まれると、子供のイベントや行事はあれど、自分自身は毎日同じことの繰り返しになってくる。仕事に行って家事育児をしておしまい。毎日同じだと思い込んでいるうちに、人は年を取り、ある日突然病気になったり死んでしまったりして、あの時こうしていれば、と後悔することになるのだ。
 
私は自分の四十歳の誕生日を目前にして、次の誕生日で八十になる義母のことを思った。義母は今のところ元気だがもともと心臓があまり強くなく、いつ倒れてもおかしくないと医者に言われている。もし義母に何かあったら、私はあることを後悔するだろうと自分でも分かっていた。義母は洋裁が得意で、古着の着物を洋服に仕立てる着物リメイクをもう何十年も続けていた。夫の実家があった名古屋では年にかなりの売上を立てる実力者だったそうなのだが、家族の都合でこちらに引っ越してもらってきたのだ。引っ越した後も着物リメイクは続けていたが、見知らぬ土地での顧客の新規開拓はそう容易にはいかない。売上がなかなか立たないまま、義母は着物リメイク服を作り続けていた。
 
もし今、義母に何かあったら。
着物リメイク服の販売を手伝わなかったことを、きっと私は後悔する。
 
もう私も四十歳だ。仕事があって子供もいて、出来ることも限られている。服を担いで店を回って売り歩くというわけにもいかない。今の状況の私にもできることは何だろうかと考え、思いついたのはInstagramの運営だった。義母の作品を写真にとって、一日一作品を投稿する。それをネットショップにリンクさせれば、少しは売り上げになるのではないか。これなら私にもできる、とアカウントを開設し、家事育児の合間を縫って投稿と作品の撮影を始めた。
 
始める前は、一日一回写真を投稿するだけだから数十分もあればできるだろうと高を括っていたが、いざ始めると細かいことが気になってきて時間を食う。写真の出来栄えも気になってきて、それもやっぱり時間を食う。ただでさえ要領の悪い私は、二児の母で在宅ワークというだけで日々精一杯だったのに、そこに自分でInstagramが加わったのだから、日々をこなすために様々なタスクを圧縮せざるを得ない。毎日がにわかに慌ただしくなり、いつも締切に追われるような心地になった。
 
ああ、今週もギリギリだった。どうしてもっと早く出来ないんだろう。
新しいことを始めるのって、こんなに大変だったかな。
それなら、もう少し余裕ができるまで、始めるのを見送った方が良かったのだろうか。
 
ふと脳裏に浮かんだのは、ライターズ倶楽部でも仲の良いある人の顔だった。その方は本業がありつつも副業ライターとして活躍し始めていて、天狼院のメディアで連載を二つも持っている。天狼院とは関係のない仕事も自分で応募したり依頼を受けたりするようで、記事掲載のお知らせの投稿を見る頻度が多くなってきた。本業の会社に配慮して青野まみこのペンネームを使っている彼女は、本当にバイタリティに溢れている。ライターズ倶楽部で連載の企画を出す時も、企画としての面白さと自分が出来ることをしっかりと見定めていた。そしてライターを目指すにあたって写真も撮れるようになりたいと、天狼院のフォト系のゼミも受講し始めた。更には紙面づくりや取材先に渡すリーフレットなどを自分で作れたらいいなと、デザイン系のゼミも受講していた。全然分からない、課題に時間がかかる、と当時は冗談のように言っていたが、それから一年ほど経つと、フォトライターとして着実に仕事を獲得している。
 
まみこさん、どうしてあんなにたくさん講座を取れるんだろう。
 
本業もあってご家族もいて、私と多少状況は似ているはずだ。それなのに、どんどん新しいことを始めてる。もしかすると何かスペシャルな秘密があるのだろうか? 特別なエンジンが搭載されてたりする? もしそうならそれを教えてもらいたい。新しいことを要領よく始められるようになる秘密、教えてもらいたい。そう思ってメッセージを送ると、すぐに返信が返ってきた。
 
「エンジンというか……もともと、大変なことがあっても、エイヤと頑張れちゃう気質ではある。お友達の占いでもそんなことを言われたよ。コツは何かをしながら何かもすること。今も横でおでんのゆで卵を茹でてるし。メールは30秒で返す! とか」
 
なるほど。やっぱりそういうことの積み重ねなんだ。それでも、本業をして、副業もして、スキルアップのためのインプットもたくさんして、しかもそれを全部ちゃんとこなせているの、本当にすごいと思う。
 
「私は今、五十代半ばだけど、どこに行っても私が最年長なんだよね。この意味分かる?」
 
五十代半ばで最年長。どこに行っても、というのはいろいろな講義のことだろうか。学ぶ場所に彼女より年上の人がいないという事は、同年代の人は学んでいないということ?
 
「そう。どこかで自分の人生こんなもんでしょ、って諦めが入るんだよね。怖いよ」
 
飄々とした彼女の返信を見て、指先から鳥肌が走る。
 
四十歳になった私は、ここで始めなければ後悔すると思ってInstagramを始めた。それは楽観的な想定よりもずっと大変だけど、SNSマーケティングの勉強にもなってとても面白い。新しいことを始めるのはいいことだな、でも大変だなと思っていたが、もし今始めなかったとして、五十歳になった私は、同じようにInstagramを始めることが出来ただろうか?
 
スカイダイビングだとか、着物の着付けだとか、英語を話せるようになるだとか。死ぬまでにやってみたいと思っていることを、五十になっても、六十になっても、さあ始めよう、と行動し始めることができるだろうか?
 
「何かしら自分をアップデートしていかないといけないなとは思うよね」
 
新しいことを始めるのは大変だ。骨が折れて、できればやりたくない気持ちもある。
それでも始め続けていかないと、そこで私のアップデートも終わってしまうんだ。
 
もしもInstagramをまだ始めていなかったら、未だに義母に対して申し訳ない気持ちを抱えたまま悶々としているだけだっただろう。SNSマーケティングの面白さと大変さを知らないまま、なかなか売れないね、どうしたらいいかな、なんて他人事のように心配しているそぶりを続けていたことだろう。Instagramを始めたから、私は自分をアップデートすることが出来た。
 
四十歳、もう子供や若者だとは決して言われなくなった。
何かを始め続けて、自分をアップデートし続けること、それがこの先を乗り切るための大人のエンジンなのかもしれないな。
 
とりあえずInstagramをもっと頑張ろうと、まみこさんにお礼の返信をしたのだった。
 
 
 
 
***
 
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2022-11-02 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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