メディアグランプリ

人を頼ることを学んだ、人生修行。


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記事:森山はるか(ライティング・ゼミ10月コース)
 
 
ある程度、仕事経験も人生経験も積んだつもりの30代に妊娠したわたしにとって、
乳幼児の年子子育ては、突然連れて行かれた宇宙旅行のようだった。
異次元すぎて、何も分からず手も足も出ないという意味で。あるいは激流に翻弄される笹舟のような。
 
 
妊娠期間中は、人生で初といっていいくらい、ただただ赤ちゃんが育つのを待ち、
のんびりした時間を過ごしたけれど、その後に訪れた育児期間は凄まじいものだった。
 
何が凄まじいかって、自分の思い通りに事が運ぶことが何ひとつない。
 
育児の楽さ加減は、子どもの個性にもよるのだけど、
うちの長女は、なかなか寝付かない毎夜1時間毎に泣く子だったので、毎日寝不足で日中はフラフラ。日中お昼寝ばかりさせると夜ますます眠らないので、ボーっとしながら公園や子育て支援センターなどへ連れていく。
 
眠らせないという拷問があるそうだけど、ホントに拷問。
毎日毎日眠れない、長時間安眠なんて夢のまた夢。
思考力はぐんぐん低下し、自分の感情もわからなくなる。
そんな時間が何ヶ月も続く。
子どもを窓から放り出したくなって、育児相談に駆け込んだこともある。
 
そのうえ私は、下の子を年子で妊娠し、出産後はさらに悪夢のような日々だった。
子どもは本当に可愛いのに、それでも何一つ事が思い通りにはこばない状態は更に悪化。
 
おむつ、抱っこ、おんぶ、授乳と離乳食、家事、毎日があっという間に過ぎていく。
子どもたちがまつわりつくから、5分とひとりになることができず、同じ頃、高校の友達に頼まれ同窓会HP制作を引き受けてしまったけれど、とてもじゃないけど、乳幼児2人を抱えた状態で日中別のことなんてできるわけもなく。子どもを理不尽に叱る原因になってしまったので、後半は諦めた。
 
保育園にあずけていたらまた別だっただろうけど、24時間365日ずっといっしょの日々は楽しい場面もあったけど地獄でもあった。今でも記憶があまりないのは、あまりに大変でつらすぎたせいかもしれない。
 
仕事していた頃どんなにハードな仕事でも徹夜が続いても、なんとかこなして締切は死守してきた私が、どうにもならなくて根を上げたのは、雨の日に傘をさしながら、背中に息子をおんぶ、片腕に荷物をひっかけ娘と手をつないだ状態でタクシーを待っていたとき。
 
ふたりぶんの着替えやミルクおむつを入れてパンパンになったマザーズバッグは重くて、腕がプルプルしてる。
だけど、目の前は環七。車がブンブン走っていて、当時2歳の娘の手は一瞬だって離せない。
雨脚がつよくて、傘を持たないわけにいかない。
その状態で、タクシーにどうやって手をあげて合図したらいいんだろう。
 
当時はまだガラケーで、タクシーをアプリで呼ぶなんてことのできなかった10年以上前。
悲しくなって、半ベソかいた気がする。
 
30年以上生きてきて、誰かに頼み事をするって、それまでほとんどなかった。
何でも、なんとかこなして生きてきた。
幼少期の記憶はないけど、記憶がある小学生以上あたりからは、先生のいうこと、上司の指令はきちんとこなして、人に頼らず、なんとか生きてきた。
 
でも年子子育ての場面で、一人でぜんぶやる、なんてとても無理だった。
だってだって、どうにもならない。
わたしの手は2本しかないから。
 
その時は結局、まわりに人がいなかったから、傘を肩にひっかけて、半分ずぶ濡れになりながらタクシーを呼び止めて乗り、帰宅した。
でも、まわりに人がいても私は「タクシーを頼むために手を上げるのを手伝ってもらえませんか」って言えただろうか。
たぶん言えなかったんじゃないかと思う。当時はまだ、人に頼ることに抵抗があったから。
 
その日の夜、また眠らない娘に寄り添いながら、ひとりで全部やろうとしてもできない子育ての理不尽さに腹が立ったり、でも白旗上げるしかないんだって自分に言い聞かせたり、とても葛藤していたことを覚えている。
 
そんな私が、人に頼ることを少しづつ覚えていったのは、子どもが大きくなり、お友達と遊びはじめた時。年子だから、公園に行っても、それぞれバラバラな方向に走っていったり、別の子たちと遊び始めたりしてしまう。下の子に目が離せなくて付いていくと、上の子が放置になってしまう。そんなとき、公園で顔見知りになっていったほかのお母さんたちが、お姉ちゃん一緒に見てますよと笑顔で言ってくれた。とてもありがたかったし、お願いできるととても楽ということが実感として分かった。そして、人にお願いすることが徐々にできるようになっていった。
 
子育てはひとりじゃできないというけど、本当にそう。
自己完結できる大人の世界とは、全く別の時間。
 
そして子どもがもっと大きくなった時、今度は私が、乳幼児連れのお母さんに「お手伝いしましょうか?」と声をかけられるようになっていた。
お母さんが幼児の靴紐を結んであげている間、もう一人の子を見てるとか、バスの席が空いた時に抱っこのお母さんに譲るとか、ほんのささいなことだけど。
でも、それだけでもお母さんの緊張や負担はぜんぜん違うのはよく分かる。
きっと以前の私なら気づかなくてスルーしていたけど。
 
子育てで学んだことはたくさんあるけれど、最初に私が乗り越えた壁は、「人を頼ること」だったなと今にして思う。子育ては、やっぱり修行だ。
 
 
 
 
***
 
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2022-11-09 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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