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「空白」は恐怖ではない


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記事:峰岸亜衣(ライティング・ゼミ10月コース)
 
 
空白恐怖症。
「第3回大辞泉が選ぶ新語大賞2018」の大賞として選ばれた言葉。
「スケジュール帳に空白が多く、予定が記入されていない状態に不安を感じること。そういう気持ちになることを病気の症状になぞらえた言葉。」(デジタル大辞泉,2019)。
 
 
私は自分のことを数年前から空白恐怖症だと思っている。アナログ派でずっと紙のスケジュール手帳を使っているが、とにかく週末の欄が黒くないと落ち着かない。予定が決まって書き込む瞬間はなんとも言えない満足感があるし、2ヶ月先の予定まで埋まっていることに安心感を覚える。
 
空白恐怖症という心理自体は新しいものではなく、1959年、アメリカの循環器内科医が提唱している。「仕事に追われ、常に仕事でスケジュールを埋めておかなければ他人から評価されていないと感じる承認欲求の強さ」が根源にあるらしい。
最近で言う空白恐怖症は、「充実している他人のSNSと自分を比較してしまう」と表現されている。やはり根源は承認欲求の強さなのだろうが、私自身はそこまで他人のSNSに関心はない。
 
 
とにかく私は「何かをしなければならない、もったいない」と感じてしまう。
「天気がいいのに家にいて何もしない」、「昼過ぎまで寝てしまう」、「気づいたら夕方」
そんなことはもうしばらくやっていない(二日酔いの時以外)。
趣味のアニメ鑑賞は出かける前にメイクをしながら見るので、「予定」にはなり得ない。
遊ぶ友人が捕まらないときは近くで済む買い物をわざわざ電車で1時間かかる場所に行ってみたり、観たいと思ってもいない映画を観に行ってしまうこともある。
 
「それって何が楽しいの?」
 
まあそう言われても仕方ないよねと友人に返す。だってとにかく落ち着かない。そわそわする。終いには泣きたくなることもある。
晴れている日に外に出ないのあの焦燥感を、味わいたくないのだ。
 
世間ではどちら派が優勢なのかと気になり、Twitterで「暇」「予定ない」「一日家」など検索をかける。すると(私にとっては)新鮮な意見がいくつか目に止まった。
 
「家でダラダラする予定って返したら、それって暇じゃんと返された! ダラダラする“予定”は“予定”なのに」
「家にいるし、やることはないけど暇ではない」
理解ができなかった。
 
 
そんな私にも、ついに強制的に家にいなければならない瞬間が訪れた。
GW直前に新型コロナウイルスに感染し、10日間の自宅療養が始まったのだ。
 
「遊ぶ予定も全部キャンセル、こんなに晴れてるのに外にも出られない…!」
 
幸いにも症状が軽く、3日目には喉の違和感以外は全快だった。
こんな元気なのにあと一週間外に出られず、人と会えない。どう過ごしたらいいものか……。
 
 
まずはアニメを見始める。気になっていたタイトルを深夜までかけて一気に見終えた。
翌日。今度は映画を3本連続で見た。さすがに疲れて、ソファーでうたた寝をした。
その翌日。実家から送ってもらったホットケーキミックスを使って、甘い系としょっぱい系の2パターンのホットケーキをつくってみた。意外と時間が潰せた。
その翌日。ちょっと動きたくなったので、動画を見ながらヨガをやる。普段ホットヨガのレッスンに通っているが、家から出られないので家ヨガだ。筋トレも加えてみたらへとへとになって昼寝した。
 
……。もう折返しか。
その後3日間も病むことなく過ごし、気づいたら療養期間が明ける前日になっていた。
 
いや意外と……家にいるのも悪くないな……。
 
家にいなければならな状況になって初めて、家にいるだけでやることは無限にあることに気付かされた。
料理だって極めればいいし、ずっとアニメや映画をぼーっと見るのもいい。疲れていればひたすら寝ればいい。
それは「暇」ではなく、れっきとした「予定」だったのだ!(私の大発見)
 
空白恐怖症は病気でもなければ、好きでやっていることだから治す必要はない。
しかし、「1日中家にいる=充実していない」なんて、そんなことはもう思わなくなった。
 
家での時間を楽しむために、これまでインスタントだったコーヒーをドリップにしてみたり、散らかっていた推しキャラクターのグッズをきれいに収納するために、ミニDIYで置き棚を作ってみたりもした。ちょっと高いディフューザーを買って、性に合わない造花を置いた。
私の城で、私が楽しく過ごすために。
どんなに疲れていても外に出ることに対して義務感さえ感じていた過去の私に、「家での時間もそう悪くないよ」と伝えたい。
 
 
以前とは打って変わって、予定がない週末もワクワクするようになった。
とはいえ、根っからの外が好き人間の性格はなかなか変わらない。
今でも、暇さえあれば、ふらっとヨガや献血に行ってしまうが、そのあとは家に帰ってゆっくりしている。これはこれで良い。
 
11月は心地の良い気温が続くので外に出る予定をたくさん立ててしまったが、これから寒くなったら家での時間を心置きなく楽しもう。
 
 
 
 
***
 
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2022-11-09 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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