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アートに救われた!


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:武山世里子(ライティング・ゼミ9月コース)
 
 
私は絵が下手くそだ。
そんな私が、小学生の時に「おはなしを絵にするコンクール」で入賞したことがある。
絵で誰かの評価を受けるなんて、この時が最初で最後だった。
 
お話はほとんど忘れたが、漁師が、ありえない大きなカジキマグロを釣り上げる話だったように思う。
カジキマグロの必死の抵抗で、漁師の乗った船が何度もひっくり返りそうになりながら、
死闘の末に大魚を釣り上げる……そんなお話だった。
波しぶきを立てながら必死の抵抗をするカジキマグロの姿が、私の目に鮮明に浮かんでいた。
しかし、浮かんでいるのに、描けない。
特に、血走ったカジキマグロの表情が描けない。
描いては消し、書いては消しを繰り返していた。
時間切れとなった小さな私は、やけくそになり、魚の目に漁師のもりを突き刺した。
そして、そこから血が噴き出るかのように、一面真っ赤に塗りつぶした。
もはやそれが魚かどうかもわからないくらいに。
 
その絵が入賞した。
子どもながらに
「なんでもありやん」
と感じたのを今でもはっきりと覚えている。
 
 
先日、小学1年生の甥が作った、工作の「車」が、ユニーク賞を受賞したと連絡が来た。
「あの車が!うそやん!」としか言えなかった。
「信じられへんやろ?アートの世界、わらけるなあ」
甥の父親も「入賞なんてありえへん」と言っていた。
 
甥の工作の「車」が、アートとしての評価を受けたことを「うそや!ありえへん!」と言った理由は以下の通りである。
 
甥は学校が始まるギリギリになって、夏休みの工作の宿題に取り掛かった。
下書きもなしに、「車」をとりあえず作ったようだ。
甥の家に行き、その「車」を作ったと言われた時に、
「めっちゃ短時間で作ったんやろな」としか思えないような、荒削りの、かろうじて「車」とわかるような、そんな作品だった。
 
「お、車やん!」という、どうでもいい私のコメントに、甥は物足りない様子も見せなかった。
甥自身もそれほども思いれがないと思われた。
そこらへんの床の上に放置して、それっきりその「車」の存在はみなの視界から消えた。
 
その後はひたすら、忍者ごっこや、体操教室に付き合わされた。
明日の学校のために寝ないといけない時間になっても、甥が私に挑みかかってくるので、
「ほんまのほんまの最後やで」と言い聞かせて、
空手(ただの殴り合い)の対決をした。
 
「最後の最後に負けるわけにはいかない」
甥の表情は戦闘モードだった。
私も、その戦闘モードに応答した。
彼に苦戦を強いたあげく、最後の最後に傷だらけの勝利をあげよう、と筋書きをこしらえた。
 
対決は私の筋書き通りに進んだ。
そして、小学1年の甥をけっこうマジでやり込め、これから甥に反撃をゆるそう!
と思った瞬間、
「ぐちゃ」と私の足の裏に何かが触れた。
 
あの「車」だった。
床の隅に放置された、「車」だった。
私の体重で、「ぐちゃっと踏まれた車」に変わってしまっていたけれど。
 
「やばい、怒られる!」と思った時には遅かった。
甥は大泣きし、大人たちは暴れた私と甥、両方に向かって、
「あんたらいい加減にしいや!」
と不快感マックスの顔で怒り出した。
甥と彼の両親に謝りたおして、早々に退散した。
 
その後……
宿題の「車」については、そのまま提出したとのことだった。
あんだけ大泣きした甥も、翌朝、けろりとした様子で「車」をもって登校した。
そして「車」のことはみなの頭から消えていった。
 
そして、その「車」が入賞したのである。
入賞した「車」には甥の字でタイトルが記されていた。
「こわれたくるま」
 
 
もし甥が「こわれなかった車」を提出していたら、絶対入賞はしなかっただろう。
「こわれた車」だからこその入賞だ。
 
この入賞の知らせを聞いた時、自分の絵が入賞したと聞いた時に感じた
「なんでもありやん」がよみがえった。
 
 
それにしても、
アートの世界は優しい。
こわれたものに光があてられる。
アートの世界は寛容だ。
完璧でないところに価値が見出される。
アートの世界はサプライズだ。
こんなものが!というものに評価が与えられる。
 
私たちの社会がもっとアートの世界観になれたら……
ふっとそんなことを考えた。
 
この社会はもっと優しくなるかもしれない。
生産性のあるなしで、モノや人が切り捨てられなくなるだろう。
 
この社会はもっと寛容になるかもしれない。
よくわからなかったり、自分たちとは異なる、という理由で、目の前の人たちを排除しなくなるだろう。
異なることを「面白いね」「もっと知りたいね」と言い合えるようになるだろう。
 
この社会に、もっとサプライズが起きるかもしれない。
生産性がなくても、合理的でなくても、
ユニークで、楽しくて、そのままでくすっと笑えるようなものが評価される。
 
それにしても、壊してしまったものが、アートで救われた。
 
 
 
 
***
 
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2022-11-09 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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