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ただいま妄想列車に乗車中


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:タカイ(ライティング・ライブ大阪会場)
 
 
古本屋へ行ったある時、ふと目にとまった文庫本があった。
アニメや漫画っぽくない、抽象的に描かれたターコイズブルーの表紙だった。
安かったのでジャケ買いしてしまった。
 
「精霊の守り人」
 
それが上橋菜穂子という作家を、知るきっかけになった。
人の世と精霊たちの世が交錯する世界で、主人公の女用心棒バルサの活躍を描く物語である。
つまりファンタジーだ。
一旦読み始めると、ぐいぐい「精霊の守り人」の世界観に入り込んでしまった。
1冊をすぐに読み終わり、13冊ものシリーズを一気に読みきった。
「鹿の王」「獣の奏者」「月の森に、カミよ眠れ」「精霊の木」「狐笛のかなた」
ラッキーなことに近所に図書館があるので、借りては返し、借りては返しと図書館に通う。
図書館サマサマだ。
 
著者は児童文学作家というジャンルだというのを後から知った。最初に知っていたら、なかなか手を出さなかったかもしれない。子供向けの本と侮っていたはずだ。
しかし「守り人」シリーズを読むと、ジャンルやカテゴリーはちょっとした見分け程度でいいのではないかと思える。
食わず嫌いで、せっかくの良品を見逃すのはもったいない。
上橋作品の小説を読み漁る日々を過ごし、最後の一冊になった時は、ちびちびゆっくり読んだ。
上橋ロスに陥るのを恐れながら。
 
「守り人」シリーズを順番に読み進めていると、奇妙な本に気付いた。
「バルサの食卓」という本だ。
主人公バルサの名前がタイトルにあるからには、番外編のようなものだろうかと調べてみると、なんと、上橋作品に出てくる料理のレシピ本だった!
著者の作品って架空の世界観で、架空の食べ物だったハズ……。
 
全てのシリーズを読破する任務中なので、とりあえずその本も読むべしと図書館へ行く。
しかし上橋菜穂子コーナーに本がない。
他に誰かが借りているのか。
検索システムで調べてみると、まさかの料理本コーナーにあった。
ここに???
いや、確かに料理のレシピ集だからアリだけれども!
この本が小説たちと並べられている方が違和感があるかもしれないが、たくさんの料理本の中にあるのを見つけた時はちょっと笑ってしまった。
 
小説の中に出てくる料理を、料理人が現代風にアレンジしたものだという。
「物語の中で登場人物が食べた料理そのものではない」と著者が言うように、「今の日本で手に入る食材で作ってみたら、あの料理はきっとこういう味になるだろう」ということだった。
著者が日本の田舎や外国に行った時に食べた印象的な料理や、どういうイメージで架空の食べ物を描いたのかを織り交ぜながら書かれており、食べ物好きならではの作品となっている。
編集者が、小説の中の料理をレシピ集として出版しようと提案したことから始まった企画ということだが、架空の食べ物を現実化しようなんて、その発想力に驚き呆れもする。
世界的スーパースター、ラッパーのスヌープ・ドッグが料理本を出す時代なのだ。
なんでも来いだ。
 
カラーの写真付きで、材料や分量、作り方が書いてある。
まあ料理本だから当然なのだけれども……。
作品に出てくる料理はこういう感じなのかと、自分のイメージと照らし合わせながら読み進めた。
「守り人」シリーズの登場人物、バルサやタンダ、チャグムが食べていたのはコレか……。
いや架空の物語で、架空の食べ物だから!
 
ここまできたら、実際に作ってみるか。
『バム』を作ってみよう。
現代でいうところのパンみたいなもので、作品の中では一般庶民がよく食べているものだ。
まずは材料を計量してから、強力粉、塩、水を合わせてこねる。
こねこねこねこね……。
30分ほど寝かせて発酵させる。
手が汚れたので洗う。
バルサ達は水道なんてないから、川や井戸から水を汲んでいるだろう。
貴重な水だ。
大切に使わないと。
もしかしたら、これくらいの汚れなら洗わないかもしれないな。
いやいや、そもそも『バム』は想像上の食べ物だから!
 
そして寝かせた生地を薄く伸ばして、フライパンで焼く。
どれくらい焼けばいいのだろうか。
とりあえず焼き目がつくまで待つことにしよう。
なんだか色が濃くなってくる。
これ以上焼くと焦げそうだ。
これぐらいが潮時か。
あれ、写真と微妙に違うような……。
写真はうっすらキツネ色なのに。
歪な平たい、焼き小麦粉の塊ができた。
これは現代風にアレンジしたものだ。
正解が分からない。
なぜならファンタジーの中の食べ物だから!
 
食べてみると、素朴な小麦粉の味だった。
現代のナンに近いような……。
レシピにバターや蜂蜜をかけたり、チーズをはさんで食べるとある。
なるほど、どうりで素材の味しかしないわけだ。
バルサ達も、火を熾して焦がしたりしたのだろうか。
網を使って炙ったのかもしれない。
大小の大きさで取り合いしたり、半分こしたりしたのか。
牛から乳搾りして手作りバターやチーズを作ったり、養蜂で蜂蜜を集めたりしたに違いない。
いやいやいやいや、どれだけ妄想癖なんだ。
妄想列車に乗り込んだものの、なかなか下車できない。
「バルサの食卓」の発起人の策にまんまとハマってしまっている。
 
「人は文章の行間を想像し、イメージを膨らませることができる。人間の脳はすごい」と著者はあとがきで述べている。
異世界もの、架空の物語、ファンタジーであろうと、その世界の住人が生活し一喜一憂する姿がある。
登場人物の顔や声にはじまり、一生懸命奮闘する姿に応援したくなったり、悲しい場面ではもらい泣きしそうになったり、嬉しいことがあるとこちら側も嬉しく思う。
読者それぞれのイメージで、読者それぞれの世界観が構築される。
勝手に共感して、勝手に共存している世界を作り出しているのだ。
あたかも、自分もその場にいるように。
妄想でこのような作品をつくり、世界中の妄想を掻き立てることができる作家って素敵だ。
 
 
同じ釜の飯を食べると絆を強める効果があるという。
「バルサの食卓」のレシピで作った現実化した料理を囲んで、作家、上橋菜穂子談義に花を咲かせたいものだ。
妄想パーティーが始まってしまった……。
 
全席ふかふかのリクライニングシート!
ソファもあるよー!
妄想列車、乗車券販売中!!
 
 
 
 
***
 
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2022-11-09 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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