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周りが大炎上(物理)して大変だった話


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記事:濱田征太郎(ライティング・ゼミ8月コース)

 
 
最初の兆候は風に乗ってくる煙の臭いだった、一キロメートルほど北にある山の中腹で火災は発生した。炎は瞬く間に広がり、乾燥した茂みを次から次へと飲みこんだ。どこへも逃げることはできなかった。気づいた時には四方を火に囲まれ、晩夏でただでさえ熱かった気温を百度まで押し上げた。このくらい近くで炎に包まれたのは生まれて初めてのことった、だが耐えられない熱さではない。1時間近くたち、周りに燃えるものがなくなってくると周りの温度も徐々に下がっていった。近くには甲羅が黒焦げになったリクガメがゆっくりと歩いている。
地面に近い上部の組織が一部死んだ。高温に耐えられなかったようだ。惜しいが特に大きな問題ではない。生長点は芋の底についているため、高温からは守られている。芋の横を沿うようにしてエリオスペルマム・パラドクスムは地上に芽を伸ばした。
こんなに広い空を見たのは生れてはじめてだった。去年まで低木が生い茂っていた草原は今や焼け野原となり、太陽を覆い隠すものはもはや何もなかった。素晴らしい環境だった。ほかの小さな植物が至る所に同じように葉や花を出してきた。去年までは日光が足りずひょろひょろだったのに、今年はがっしりとした葉をつけている。
花を咲かせた。強いバニラのような香りに誘われて虫たちが寄ってくる。火災を生き延びたようだ。しばらくして実ができた、実が開くと中から綿毛のついた種がこぼれ落ち、風に乗って遠くへと運ばれていった。風通しも最高だった、かなり遠くまで運ばれたに違いない。
南アフリカ、ケープ地方のこの地域一帯は約十年に一回火災が起こる。確かに大災害には違いないが、この地域の植物にとって火は水と同じくらい重要なのだ。この地域の茂みは燃えやすい。ある程度低木が大きく成長してくると、夏の強い日光で自然発火し、広範囲に広がる火災を起こすのだ。そうしてその地域の環境がリセットされる。背の低い植物は低木が育ってくるとその陰になり、日光を十分浴びることができなくなってくる。そうなるとどんどん成長が鈍ってきて、最後にはやせ細っていってしまうのだ。火災で低木が燃えることで、また日光を存分に浴びることができるようになる。
この地域の植物は基本的に火災に耐えられるようになっている。球根や芋、根っこの状態で地中に避難するものもあれば、タネの状態で火災をやり過ごす植物もある。むしろ火災の後でないと発芽しないタネもあったりする。
普通植物は場所ごとで住み分けをする。大きい植物が生えている場所には背の低い植物は育たないので別の場所に追いやられる。しかしここでは時間で住み分けをしているのだ。十年ごとのサイクルで最初は小さい植物の時間、後半は低木の時間という風に。そのサイクルのカギとなる火は、ここでは水と同じくらい大切なのだ。
パラドクスムは葉を伸ばした。種を飛ばした後は芋を大きくすることに専念する。今年は太陽を遮るものは何もない。思う存分光合成できる。
しかし良いことばかりではなかった。強い日差しが急激に土中の水分を奪っていく。今までは低木の陰に隠れていたので程よい湿度が保たれていたのだが、その低木は今や三本に枝分かれした炭の柱になっている、日陰は望めそうにない。何とかして水を確保しなければならない。
パラドクスムの葉は細かい毛玉のような形をしている。細かく枝分かれした葉の間にたくさんの綿毛がついているのだ。この綿毛で夜露を集め、水分の足しにすることができる。
この地域の植物には奇妙な見た目をしたものが多い。葉がねじのようにくるくる巻いたり、パラドクスムのように綿毛があったり、ほかの地域で目にする植物とは相当かけ離れた見た目をしている。太陽光のタイムシェアリングがこの奇妙な形を作り出している。普通植物は適した環境が決まっている。その適した環境だけに適応した形をしているのが私たちがよく目にする植物だ。しかしここでは環境が時期によってガラッと変わってしまう。火災によって区切られるサイクルの前半が日なた、後半が日陰になる。その両方の環境に適応するために奇妙な見た目に進化することになったのだ。
パラドクスムは何十年も生きる。芋一個から数十本も葉をはやすまでに大きくなる。十年後の火災が終わったとき、そこには本当に小さな花畑が、むせかえるようなバニラの香りを放っているだろう。
 
 
 
 
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