ハンデを認めて見つけた幸せ
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記事:ちー(ライティング・ゼミ10月コース)
私はハンデを抱えている。
小さなハンデかも知れないが、私はそのハンデに長い間、苦しめられた。
でも、そんなハンデを抱えた私だからこそ、見つけることができた幸せがある。
「おい!生ビールまだ?」
私はハッとした。また、やってしまった。
「すみません!すぐお持ちします」
すぐに生ビールを作り、急いで席に持って行く。
「なんだよ、ほんと使えねえな」
使えない。そんな言葉はあながち間違っていない。
私は左耳が聞こえない。
幼い頃におたふく風邪にかかり、そのウイルスによって、左耳が聞こえなくなってしまった。
幼い頃であったので、私はあまり覚えてはいない。
病気が発覚したとき、両親は大変ショックを受けたという。
幼い頃までは、そのハンデに悩まされることは少なかった。
しかし、成長するにつれ、左耳が聞こえないという事実に悩まされた。
そして、左耳が聞こえないことは私にとってコンプレックスになっていった。
私は居酒屋でアルバイトをしている。
「すみませーん!注文お願いしまーす!」
居酒屋はいつでも賑やかだ。お客さんも上機嫌で大きな声を上げてお酒を飲む。
「すみません、注文頼んだんですけど、まだ届いていなくて……」
「さっきの注文まだー」
騒がしい居酒屋の中では、お客さんの声を聞き逃してしまうことが稀にある。
しかし、私の場合は、注文を聞き逃してしまうミスが圧倒的に多い。
左側、即ち、聞こえない耳側から話しかけられると、ほぼ何も聞こえないのだ。
あまりにもミスが多い。
仕方が無いとは分っているとは言え、お客さんを困らしてしまっている。
他にも、左耳が聞こえなくて困ることがある。
例えば、ドライブだ。
「風がきもちいいね~」
助手席に座る母が私に話しかける。
「え、何、ごめん。聞こえない」
私は窓を開けて運転をすることができない。音楽を聴くこともできない。
窓を開けると、風の音で、他の音は何も聞こえなくなってしまう。聞こえてくるのは風の音だけだ。
私と他者の間には、いつでも、目に見えない透明で薄い壁がある。
それはちょうど飲食店にある、アクリル板のようだ。
話が途切れてしまったり、伝わらなかったりする。
ただ、人と話したいだけなのに、その障害物のせいで、うまく話すことができない。
会話ができないわけではない。
しかし、確かに、目に見えない壁がそこにはある。
学校の授業のペアワークでは、ペアの声が聞こえなくて、相手にされなかったこともある。
イヤホンも片方しか使うことができない。
困ることは挙げればきりが無い。
それでも、ハンデを抱えた私だからこそ、気がついた幸せがある。
私は高校生の頃、仲のいい友人Fがいた。
Fとは部活動も塾も一緒でとても親しかった。昼休みに一緒に弁当を食べたり、よくふざけ合ってたりしていた。そして、何でも話せる良き相談相手でもあった。
しかし、左耳が聞こえないと言うことは長い間、Fにも話せないでいた。
当時、左耳が聞こえないことは私にとってコンプレックスであった。また、誰にも言えない秘密でもあった。耳が聞こえないことを知られてしまうと、気を遣わせてしまったり、距離を置かれてしまう事を恐れていたからだ。
私は普段から、Fにハンデの事を悟られないように注意して行動していた。
しかし、どうしてもハンデが隠せない時もあった。
私はFと学校まで自転車で片道30分ほどかけて通学していた。
自転車をこぐときは特別にFの左側に位置するように心がけていた。そうしないと、会話は滞ってしまうからだ。
風を受けながら走る自転車に乗りながら、話しかけられても、私の耳には声は届かない。
私は注意を払って、できるだけFの左側で自転車をこぐように努めていた。
しかし、事件は突然起きた。
あるときの帰り道から、Fが自ら黙って右側に来るようになった。
私は焦った。
もしかしたら、耳が聞こえないことがばれてしまったのではないかと思った。
どうして。
私はそう聞きたかったが、口に出すことはできなかった。
するとFがとても自然に言った。
「左耳悪いんでしょ?こっち側の方がよく話せる?」
Fには全てばれていた。
しかし、その顔には怒りも困惑もない。
いつも通りのFの顔だった。
そして、
「悩みとかあるなら話してよ、友達なんだから」
と少し照れくさそうに言った。
私はその言葉に救われた。
私はFにハンデの事を全て話した。
そして、その日以来、自分コンプレックスを認め、ハンデと向き合う用になった。
私は左耳が聞こえない。
そのハンデを認めるようになって、私は自分の大切な人の存在の大切さに気がつくことができた。
家族や友人がいることが当たり前ではない。
美味しいご飯が食べれて、暖かい布団で寝ることができる。
今与えられている生活で感じることができる幸せを見落としてしまっていたことに、私は気がつけていなかった。しかし、自分は左耳が聞こえない、と言う事実を認めてしまうことで、かえって、今手にあるものの幸せを見つけることができた。
確かに私は左耳が聞こえない。困ることだってたくさんある。
けど、人は皆生きている以上、何かしらのハンデを抱えている。
皆何かに苦しんだりして活きている。
はたまた、他人は自分の持っていない何かを持っているかも知れない。
しかし、人と比べても仕方が無い。
私には愛すべき生活がある。大切な人がいる。
それに気がつかせてくれたのは私の欠けている部分、左耳が聞こえないというハンデだった。
私は今日も左耳が聞こえない。
でも、とても満ち足りている。
***
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