メディアグランプリ

『すずめの戸締まり』が処方されたのかもしれない


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記事:赤羽かなえ(ライティング実践教室)
※この記事はネタバレを含みます
 
 
ここ数日、イマイチ調子が乗らない。
なんとなくついていなかったり、疲れていてやることが思うように進まなかったり。そんな時には、人間関係もなんとなくうまくいかなくてギスギスしてしまう。
モヤモヤを膨らませながら自分の存在価値って何なんだろうってぼんやりと考えてしまう。
ひどく自分が惨めな気持ちになってしまう、今朝の始まりはそんな気分だった。
 
浮かない気持ちをどうにか立て直して、午前中のオンラインの話を終えた。時計を見ると11時半、そろそろお昼ご飯か。今日は代休で長男が家にいる。一人だったら適当に済ませたり外食で済ませたりするけど、お昼作らないとだ……。
 
なんとなく勢いがつかなくて、ぼんやりとFacebookの画面を流し読みする。ここ数日、やたらと『すずめの戸締まり』の話題が目につく。始まったばかりだから、さすがに内容に触れるようなコメントは控えめで、ポスターばっかりが目に入る。すごい注目度、なんだな。
 
このまま、ボーっとするのも冴えないし、すずめの戸締まりでも見に行こうか。
そう決めたら、いきなり背中がしゃきっとした。今までぼんやりとしていたのが嘘のようにスマホの検索画面を開いて映画館情報を調べる。近所の映画館なら10分で着く。今は11時時45分だから上手くすれば12時の、それがだめでも12時15分開始に間に合う。どちらかに滑り込めば、15時の来客までには帰宅ができる。
 
「私、映画見に行ってくるわ!」
 
「ええ?! お昼は?」
 
長男が驚いたようにパソコンから顔を上げた。
 
「一緒に行く? それとも、家でお昼ご飯作っておいてくれる?」
 
「おもしろかったら今度、連れて行って。今日は宿題するわ」
 
真面目か! でも食い下がっている余裕はない。「わかった、じゃあ、お昼作って食べてね!」と言い残して、家を飛び出した。
 
思い立って15分で映画館に着席しているって素敵じゃないの……。ふかふかの座席に腰かけて、ちょっとシンデレラになったような気分になった。浮かなかった日々から、一転して非日常の空間に来て、なんとなく息苦しかった気持ちも少しだけ軽い。
 
世間を騒がせている話題作の世界にいざ出発!
 
2時間後、座席の中に深々と埋もれて立てなくなっている自分がいた。
 
ヤバイ、おかしい。さっきから二重人格にでもなったように、私の横でもう一人の私がおかしい、おかしい、と言っている。
 
何でもない場面、何の変哲もないはずのセリフに涙があふれ出てくる。そして、もう一人の私が、「そこ?! え、なんで、今、私、泣いてるの?」とツッコミを入れてくる。
 
そのくらい、随所の何気ないセリフや場面に泣かされっぱなしの映画だった。座っている人と席が離れていて良かった。泣きすぎて、嗚咽を隠すのをあきらめた。
 
なんであんなに泣いたんだろう……帰り道に理由を探そうと一生懸命考えたのに、明確に思い当たる要素がなかった。
 
けれど、今、落ち込んでいた、というのが一つのポイントだったのかもしれない。
 
主人公たちが無力感に襲われながらも、ひとつひとつ「戸締まり」をして、最後の場所に進むまであきらめない。しかも、彼らがやっていることは、誰からも褒められるわけでもなく、むしろ気づかれてもいない。それでも、行く先々で不思議な助けを得ながら一歩一歩真実を見つけるために進んでいく。
 
周りの大勢の人に認められなくても、自分と自分のことを本当に分かってくれる人達にだけ伝わればそれでいいじゃない。自分の中にくすぶっていた感情を認めてもらって、いらない感情はすべて置いて行っていいよ、と言われたようだ。腫れた目を隠すためにマスクをいつもより高くずり上げながら映画館を後にした。
 
今日、ぼんやりとしながらFacebookで目にした『すずめの戸締まり』の話題は、私にとっては薬の処方箋みたいなものだったのかもしれない。処方された映画は心によく効いたらしい、朝の浮かない気持ちは吹っ飛んでしまった。自分の気持ちが変わるだけで、普段見慣れている景色も変わって来るから不思議なものだ。
 
これからもしばらくは、『すずめの戸締まり』旋風は続くだろう。沢山の人の心をそっと癒しながら。
 
『すずめの戸締まり』の処方箋が、私みたいに元気をなくしたり、ちょっと疲れたりしている人の元に届きますように。そして、映画を見た人が優しい気持ちを取り戻せますように。
 
 
 
 
***
 
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2022-11-17 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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