メディアグランプリ

それは私達の足元にある


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記事:神雄大(ライティング・ゼミ8月コース)
 
 
過去に二回、人の亡骸を目の前にした。
一人は私の父方の祖父で、一人は母方の祖父だった。父方の祖父にはあまり会った事が無く、彼の亡骸を見たのは葬式の準備の時だった。
一方母方の祖父の方は祖父母の家と私の家が非常に近い事もあってか、幼少期の頃から親交があった。普段は寡黙で静かな人だったが、たまに私と一緒に散歩に出かけたりお小遣いをくれた事があり、まだ子供の私にとっては良いおじいちゃんだったように思う。祖父が愛用の椅子に座ってテレビを見ながら、コップになみなみと注がれた水とカロリーメイトを口にしている姿は今でも覚えている。
そして母方の祖父とは幼少期から親交があったためか、父方の祖父の時とは違い死に目にも立ち会う事が出来た。今考えてみると、私が人の死に目に立ち会ったのはあの時が初めてだったかもしれない。
私が高校生の時だった。携帯電話に祖父のお見舞いをしていた祖母からメールが届き、もう最期が近い事を知らされた私は母と一緒に祖父の病院へと向かった。病院のベッドの上で酸素マスクから酸素を吸引していた祖父は、私の目の前で息を引き取った。
初めて人の死を目にした私が最初に知ったのは、死は怖いものという事ではなく、人は死ぬ時は本当に眠るように息を引き取るのだという事だった。とは言っても祖父の死因は老衰で、特にこれといった重い病気にかかっての死では無かった。なので、もしかしたら死因によっては本当に苦しみながら死ぬ事もあるかもしれないが、少なくとも私の祖父の場合は眠るように息を引き取った。正直な話、祖父が息を引き取った後も私には祖父がただ眠っているようにしか見えなかった。
それは父方の祖父の時も同じだった。私の目の前ですでに心臓の鼓動を停止させていた父方の祖父は、まるで眠っているようだった。しばらく見つめ続けていたらぱっと目を覚まして、おうよく来たなと私に笑いかけてくるような気さえあった。こうして当時の事を思い返してみると、それほどまでに人の死というものはとても静かなものであると同時に、私達の身近にあるものだという事を感じさせる。そして死は、私にある一つの事実を突きつけてくる。
人はいずれ必ず死ぬ。
私達はテレビのニュースでどこで誰がこういった事で亡くなったという情報を毎日見ているが、もしかしたら明日のニュースで自分もしくは近くの誰かの事が流れるかもしれないとはまず思わない。明日も自分がそこに居られるなんて保障はないのに、明日も自分にとって大切な人が自分の横に居られるなんて断言できないのに。私達は隣人、あるいは家族のように常に近くにいる『死』を見て見ぬふりをして毎日を過ごしている。
だけど、ある意味それも無理のない事だ。毎日毎日死の事を考えて生きていたら、それこそ気分が暗くなってしまう。私も三年前ほど前に夢で父が死ぬ夢を見て、目を覚ましたら死ぬ事を一時的に強く恐れるようになってしまい、どうしようもなく気分が暗くなってしまう事があった。なので、死をできるだけ考えないようにするのはある意味正しい。
だが、人は必ず死ぬ。
そうなると、私達はどうすれば良いのか。
簡単な事だ。そばにいる大切な人のために、常に何かをしてあげれば良い。
別に大それた事をしろと言っているわけではない。ただそばにいて話を聞いてあげるだけで良い。ただ一緒にスポーツをしたり、家事を一緒にするだけで良い。大切な人が家族ならば家族と一緒にいる時間を増やしたり、家族と離れて過ごしている人ならばたまに顔を出して話をするだけでも良い。もしも金銭や時間に余裕があるのなら、一緒に旅行に行くのも良い。今はコロナウイルスのせいで外出するのが難しくなっているが、感染に気を付ければできない話でもないだろう。
もしかしたら中には、そんな事をするのは照れくさい、子供っぽくて恥ずかしいと思う人もいるかもしれない。私も似たような経験があるので、その気持ちは非常によく分かる。
だが、人は簡単に死んでしまう。もしかしたら明日突然の交通事故で命を失ってしまうかもしれないし、不治の病にかかって死んでしまうかもしれないし、もしかしたら心筋麻痺で死んでしまう事もあるかもしれない。私の親戚の一人は、突然の心臓の異変によりまだ二十代後半という若さでこの世を去った。死は、そんな風にとても簡単に私達の目の前に現れる。
いつそんな瞬間が私達の目の前に現れても不思議ではない。だからこそ、大切な人はいつまでも大切にして欲しい。この人はもしかしたら明日いないかもしれないと思って、その人と一緒の時間を少しでも長く過ごして欲しい。
例え死が目の前に来たとしても、今まで生きてきて良かったと思ってもらえるように。
この人と一緒にいる事ができて良かったと思ってもらえるように。
そうすれば、あなたの大切な人は最後まで笑って眠る事ができると、私は思う。
 
死はいつだって、私達の足元にある。
だからこそ死を意識し過ぎず、死を忘れる事無く、毎日を大切な人と過ごしながら生きる。
きっとそれが私達の人生の中で、決して忘れてはならない事なのだろう。
 
 
 
 
***
 
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2022-11-23 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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