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「ソロ活」できる人になれ! 〜しまなみ海道爆走編〜


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:南雲小夜花(ライティング・ゼミ10月コース)
 
 
「うひゃ〜〜〜〜‼︎ すっずし〜〜〜〜い‼︎」
どこまでも青い空。頬をくすぐる海風。絶好の「ソロ活」びよりだ。
ゴールデンウィーク初日の朝8時。私は本州と四国の間にかかる橋、瀬戸大橋にいた。南国チックな並木とどこまでも続く一本道。背中に羽が生えたように、ペダルを漕ぐ足はどんどん軽くなっていった。
 
そう、私は自由! どのコースを走ろうが、どんなペースで走ろうが、どこで休もうが自由!
なんてったって、1人なのだから。
 
ドラマ「ソロ活女子のススメ」に強烈に感化されたのは3月のこと。人付き合いに疲れたOLが、「ソロ活」を通じて人生を充実させていく物語だ。ソロ活とは、積極的に1人の時間を楽しむ活動のこと。「ソロ(単独)」と「活動」を組み合わせた言葉で、ひと昔前は「おひとりさま」や「ぼっち」などと表現されてきた。しかしソロ活は“あえて”1人の時間を作って楽しむ、というポジティプなニュアンスが強い活動だ。
 
主人公はさまざまなソロ活に挑戦している。遊園地やプラネタリウム、リムジンの貸切、アフタヌーンティー、ラブホテルetc……。え、ラブホテルに1人で行くの⁉︎ と思ったそこのあなた。実は楽しめるんです。一見、複数人で行くイメージがある場所・体験を1人で行い、そこでの気付きを楽しみ、自分自身を好きになっていく。そんな自立した女性になりたいと、私のソロ活はスタートしたのだった。
 
いくつかのチャレンジを経て掲げたのが「しまなみ海道を自転車で駆け抜ける」。さすがに初心者が約75㎞を走り切るのは無理なので、中級コースを進み途中で連絡船に乗ることにした。夜行バスに揺られること10時間。まともに自転車に乗るのは中学生ぶりだったが、体は覚えているもので漕ぎ始めると止まらない! 寝不足とか気にならない! 超楽しい!
 
 
1つだけ不安があるとしたら。
自転車が見るからにサイクリング向け“ではない”ことだろうか。
 
出発前に立ち寄ったレンタサイクル店は、朝6時だというのに長蛇の列。ようやく自分の番が来た時には、初心者でも走りやすいタイヤが大きな自転車はもうなかった。あと40分ほど待てば補充されると言われたが、しまなみ海道を目の前にして2時間並んでいた私は、飼い主の「待て」によだれを垂らしながら我慢し続ける犬のように飢えていた。
もう、あれでいい……。気付けば見るからに残り物の、タイヤが小さな自転車を指差していた。おそらく「ちょっとそこのスーパーまで」が最適であろう一台だ。
お気付きかと思うが、この判断はこの先大後悔を引き起こすことになる。
 
体力にそこそこ自信があった私は順調に20㎞を走破。誰の目を気にすることもなく、道端で花の写真を撮ったり公園で休んだり、好きな歌を口ずさんだり。行き交うサイクリストと挨拶を交わし、家族連れに「記念写真撮りましょうか⁉︎」なんて声をかけちゃってみたりして。ああ、なんて心地いいんだろう。自分がどんどん“ハイ”になっていく。
 
しかし、スタートから約5時間が過ぎた頃にはさすがに疲れが出始めた。足は痛いというより少し痺れている感覚に近い。自転車には乗り慣れていなのだから、多少の痛みは仕方ないことだ。連絡船の乗り場は15㎞先、もしくは20㎞先にある。体力への謎の自信とせっかくなら長く楽しみたい気持ちで、20㎞先の乗り場へとハンドルを切る。
 
10分後、体の痛みは悲鳴に変わった。さっきまで平坦な道だったのに、急に山道になったのだ。タイヤが小さいので、漕いでも漕いでも進まない。漕げば漕ぐほど足が痛い。なんならサドルのクッションも薄いからお尻が超痛い。もう全身が痛く感じてくる。
 
足を引きずって自転車を押しながら、山道を進む。気付けば、あんなにたくさんいたサイクリストは誰1人いない。どうやら私が目指す乗り場は邪道、よく言えば穴場スポットだったようだ。半泣きになりながらようやく乗り場についた頃には、乗りたかった連絡船はすでに出発した後だった。
 
小さな港町。コンテナ型の待合所から、切符販売のおじいさんがギョッとした目で見てきた。
「もしかして、船に乗りたいのかい? 次は2時間後に来る最終便だけど」
「そうなんです。大人1人と自転車1台お願いします」
「いいけど……。ここに着くまでにいくつか港を経由してくるから、もし連絡船の自転車乗せ場が満杯になっていたらお姉ちゃんのこと乗せられないよ?」
 
……は? マジかよ。
思わず初対面のおじいさんに向かってタメ口を使ってしまった。体中の激痛と戦いながらここまで辿り着いたのに、もし乗れなかったらあと20㎞自力で走破するしかない。いや、夜道を押して歩くしかない。想像しただけで思わず倒れ込みそうだ。おじいさんはあわあわと、自転車を乗せられるか船と交信してみるからね、ダメだったら知り合いのタクシー呼ぶからさ、などと励ましてくれる。とにかく信じて待つしかない。港の防波堤の上で、大の字に横たわった。
 
ポケットに入っていた飴を舐めながら考える。
ちゃんとした自転車が借りられるまで待てばよかった。欲を出さずに近い乗り場へ向かえば船に乗れたのかも。そもそもソロ活初心者には、この旅はハードルが高かったか……。1人の時間を楽しみ、自分に自信をつけたいと始めたソロ活だったのに、自問自答でどんどん嫌なところが見えてくる。
 
ため息をついていると、近所の人だろうか、おばあちゃんが話しかけてきた。「どこから来たの」「どこを通って来たの」「ご飯は食べた?」。色々答えていくうちに、この旅のきっかけやたくさんの失敗、それで落ち込んでいるのだと口から溢れていった。対話というよりは、2人で並んで海を眺め、ただ私の独り言を聞いてもらっている感覚だ。
 
おばあちゃんは静かにうんうんとうなずき、最後にこう言った。
「いいわねえ。最高に楽しい旅じゃない」。
え? 横を見ると、おばあちゃんはにっこりしている。確かに、今日これまでの失敗がもしなかったら、嫌なところを見つめ直すこともなかったかもしれない。こうして誰かに弱みを話す機会もなかっただろう。その一言には、何か不思議な力を感じた。
 
「そう……ですね。今、すっごく楽しいです」。
波の音に負けないよう、はっきり声に出す。次に立ち上がった時、体の痛みは軽くなっていた。船が出た途端、防波堤の上のおばあちゃんも、切符売り場のおじいさんもたちまち見えなくなっていった。
 
ソロ活は1人の時間を楽しむものだけれど、実は1人でできることではなかった。挨拶を交わしたサイクリスト、記念写真を撮った家族連れ、連絡船乗り場で会った2人。今日出会ったたくさんの人のおかげで私のソロ活は成り立ったし、何倍も楽しくなった。道中失敗もしたけれど、それでさえいいスパイスになった。ああそうか、ソロ活は自分のことも、他人のことも好きになれる時間だったのだ。それに気付けただけでも、満足だ。水平線を眺めながらそんなことを考えていると、あっと言う間に終点・今治港に到着した。
 
自転車の返却場までは実は港からさらに1㎞ほど走らなくてはいけなかったが、それもご愛嬌。さあ、次はどんなソロ活にチャレンジしようか。ペダルを漕ぐ足には力が入っていた。
 
 
 
 
***
 
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2022-11-23 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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