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食事のマナーが悪くなりそうな魚に出会ってしまった話


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:田盛稚佳子(ライティング実践教室)
 
 
全国から福岡に出張に来たサラリーマンは、口を揃えてこう言う。
「魚がめちゃくちゃ美味しい!」
福岡に転居してはや30年が経ったが、長年住んでいる私でもそう思う。
しかし、先日それを覆すような出来事が起こった。
「北海道物産大会」に足を踏み入れてしまったのだ。うっかりと。
 
その日は金曜日だった。予定より仕事が早く終わり、時間ができた私は、ほんの少し見るだけのつもりで催事場へと向かった。この時は本当に何も買うつもりはなかった。
なぜなら北海道物産大会と言えば、どこのデパートでも圧倒的な品揃えで集客は確実だからである。一人くらい買わなくても、何の支障もない。
しかも、ローカルニュースで中継なんぞあろうもんなら、有名店は行列で人・人・人のオンパレード! それが何店舗も軒を連ねるのだ。
「みなさーん、すでにこんなに行列ができています。ちょっとお客さまにお話を聞いてみましょう! 今日はどちらからお越しですか~?」
リポーターが現場から懸命に伝えてくれているが、私には残念ながら響かない。
「行列に並ぶ」ということが超絶苦手な私にとって、世の中に数多くある物産展の中でも「北海道物産大会」は唯一行かないと決めているものだったのである。
 
会場に着いてみると、目の前に30人ほどの行列ができていた。もうすでに人酔いしそうだ。
バレンタインの時期には必ず出店する有名なチョコレートのお店だった。
仕事で疲れていたものの、甘いものが欲しい気分でなかったので素通りした。
「バイバイ、また2月頃に会いましょ」と心の中で手を振る。
 
次に見たお店は、揚げたての天ぷらやすり身を扱うお店だった。
ほっかほかの湯気といい香り。適度にボリュームもあって、種類も多いし美味しそう! 今日の私のお腹にはちょうどいい感じの大きさだと思って値段を見た瞬間、固まってしまった。
「へっ? 天ぷら1枚で700円!?」
待て待て。普段のランチを極力500円台で済ませている私にとって、破格の値段だった。
天ぷら1枚にそんなに出せるかーっ! と財布をギュッと握りしめ、一人プリプリしながら他の店を探す。
しかし見れども見れども、食べたい、欲しいものは一向に見つからなかった。
 
なんだよー、北海道物産大会とか何も目ぼしいものないじゃない……。
と思っていると、ある干物のお店がものすごく気になった。
「ナメタ一夜干し」
味のある筆文字で書かれたその店の前に私は立ち尽くした。
ナメタガレイ? 初めて聞く名前なんだけど……。
「お姉さん、こんばんは。夕飯にどう? これね、煮つけもいいけどバター焼きもオススメ」
「普通のカレイと違うんですか? なんか大きくないですか?」と聞いてみる。
「ぜんっぜん、違うよ。普通の倍の大きさはあるね。一夜干ししているから旨味がぎゅうっと詰まってるし、もうとにかく身がふっくらしてるのよ。ご飯にもお酒のつまみにもホントに合うんだから! とにかく一度食べてみて」
たしかに、商品を見ると一夜干しとはいえ本当にカレイか!? と言いたくなるほど身が分厚い。この辺りではまず見かけない大きさの魚だ。
「しかも、この時期のメスは子持ちでね、身も卵も両方楽しめるよ。そうそう、ナメタガレイの由来はいくつかあるんだけど、地元では、お皿を舐めたくなるくらい美味しいって言われるカレイなんだから」
皿を舐めたくなるほどのカレイとか、気になるじゃないかっ!!
その押しのセールストークに、私の財布の紐はもうユルユルだった。
「この一夜干し、ください!」
「はーい、ありがとう! お家で2回は楽しんでね」
お店のお姉さんは、会計が終わるまで美味しい食べ方を事細かに教えてくれた。
ずっしりと重い一尾が1,000円で買えるとは、なんてお得感満載なんだろう。
さっきの700円の天ぷらを我慢してよかったとつくづく思った。
 
自宅に戻った私は、すぐにバター焼きにしてみた。
普段スーパーで見るカレイは身が薄く焦げやすいが、このナメタガレイは違った。
フライパンにバターを入れて、蓋をして中火で3~4分程度じっくり焼く。それでも身はしぼむことなく、ふっくらしているのがフライパンの外からでもわかる。蓋の隙間から香ばしい匂いが徐々にキッチンに広がった。
そして、実食!
家族も「こんな分厚いカレイがあるの?」と驚きながら、箸を入れる。
口に入れてみて、再び驚く。なんて優しい味だろう。
ふっくらとした身に適度にしみたバターの香りが、じわりと口中に広がっていく感じがたまらない。ご飯をかき込むというよりはカレイを十分味わったうえで、ご飯を一口入れるのがちょうどよい。卵もいい感じに火が通って、身とは違う少し濃厚な味だった。
やばー、福岡以外にも美味しい魚見つけちゃったよー。
その翌々日は煮つけにしてみたが、やはりこちらもウーンと唸るほどの味わいだった。煮つけではご飯を思わずかき込んでしまう飯泥棒状態だった。
ナメタガレイ、恐るべし。
 
後日調べてみると、別名はババガレイ、インドガレイなどとも呼ばれ、ナメタというのは体の表面に粘液が多くヌルヌルしているため、北日本で「滑多鰈(ナメタガレイ)」と呼ぶようになったそうである。
冬にかけて子持ちが増えることから「子孫繫栄」の縁起を、また卵が黄金色をしていることから「商売繁盛」の縁起をかつぐ魚なのだという。
たまたま見つけた一夜干しに、そんないわれがあるとは知らなかった。
あのナメタガレイを食べて以来、なんだか気分がいいのはその縁起を分けてもらっているからかもしれない。福岡もいいが、北海道だからこそ食べられる魚に出会えたことに感謝である。
またいつか北海道物産大会に行ったら、迷うことなくナメタガレイを買いに走ることだろう。
そして、きっとお皿を舐めたくなるんだろうな、と私はほくそ笑んだ。
 
 
 
 
***
 
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