メディアグランプリ

ベランダの裏の別世界への道


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記事:三好 健(ライティング・ゼミ10月コース)
 
 
ドルルルルルルルルッ……
トンテンカン、トンテンカン。
キィーーーーーーン!
「ソレ、モッテコイヨー!」
「ウィーッス」
 
朝から元気だなぁ。
遠くから聞こえる男達の声に、半ば感心する。
声が小さいと言われる僕からしたら、羨ましい限り。
 
自分が今住んでいるマンションで、補修工事が開始された。
今はガタイのいい男達が、足場を組んでいるところである。
 
改めて実感したのは、コンクリートは響くということだ。
足場を組むために、壁にボルトでも打っているのか、ドリルやハンマーの音が響く。
自宅内のどの部屋へ行っても、音が響く。ほぼ音量が変わらない。
ちょっとドキドキするほどの音量である。
自分がテレワークで仕事をしている時に同僚と通話をすると、なかなか雑音を拾うようだった。
 
夜、暗くなってからベランダに出ると、世界が一変していた。
ベランダの向こうに足場があり、そこに薄く透ける布のような物が掛かっていた。
手を伸ばすまでもなく、足場には触れることができる。
 
ベランダから半ば身を乗り出して、上下や、左右を見ると、そこには足場という名の道ができていた。
もしも今この足場に登り、左右に行けば、そこには知らない世界が待っているかもしれない。そんな妄想をしていると、興奮にも似た感情が沸いてきた。
この足場を歩いて行った先には、色んな家のベランダがあり、そこは外からでは見えない、秘密の世界が待っているのだろう。
自分の家のベランダという身近な所に突如現れた、別世界への道。
そんな道を自在に使いこなせる工事の兄ちゃん達が、羨ましいと思った。
 
でも実は、別世界への扉は、常にどこかで開いているのだと思う。
さすがに工事の足場に足を掛けるのは、危険だし倫理上でも良くないわけで、そこに抑止力が働くのは当然。
しかし、危険でもないのに、誰にも迷惑は掛けないのに、自分自身で別世界への道を閉ざしてしまうこともある。
 
今年の初め頃には、ITの資格を取るために勉強をしようだとか、オンラインの英会話をやろうとか思っていたはずだった。
副業を始めてみようだとか、会いに行ってみたい人いるだと、目標をいくつも掲げていたように思う。
 
思い返すと、その目標の家のいくつかは達成できたが、重要視している目標ほど達成できていなかった。
なぜだろう。怖いのか?
大事だと考えている事ほど、失敗を恐れるのか、できなかったときのことを思い二の足を踏むのか。
 
でもきっと、そういう重要だと考えている目標こそ、ベランダの裏の足場なのだと思う。
別世界への道。その道を行く先には、よその家のベランダではないけれど、色んな世界が見えてくるのだろう。
 
それにだ、来年は長女が中三。つまり、高校受験の年だ。
長女に向けて「勉強を頑張れ」と言うものの、今の僕ではどうも説得力に欠けてしまう。
すべきこと、したいと思ったこと、それを達成できていない自分に負い目がある。
そういう言葉の弱さには、長女も感じてしまうのではないかと思った。言葉に魂が入らない。
 
高校受験は人生における大きな分岐点のひとつ。
僕に似てしまってあまり頭の良くない長女だけれど、少しでもまともな道に進めるように、僕自身が日々目標に向けて積み重ねている姿を見せつつ,結果も出したい。
 
「来年こそ頑張ろう」はやめよう。
来年になったら、きっとまた次の来年、つまり再来年に頑張ることになるから。
僕に再来年はあるけれど、長女の高校受験に再来年はない。
大人になると目標を先延ばしてしまうのは、受験のような動かせない時間軸がなくなってしまうからなのかも知れない。
 
まずは12月に、その足がかりを作りたい。まず足場に足を掛けることくらいは始めよう。
年が明けると気が緩む。食い過ぎで腹も緩む。思考も緩む。
 
年の瀬が迫り、時間の経つのが早く感じ、緊張感があるなかで、まずはできることを進めていこう。
人生を大きく左右する高校受験に比べたら、僕の目標なんてなんてイージーで軽いのだろうか。
せいぜい資格だったり、勉強だったり、仕事の数字を上げることだったり、その程度。
 
 
別世界への道は、必ず近くにある。そしてそれを認識している。
後は、その道を行くか行かないか。
地図もある。
前人未踏の道を行くわけではない。先人が建ててくれた足場と知見を使って、僕はトレースするだけだ。
勉強の仕方にせよ、仕事の仕方にせよ、英知は世界に溢れている。
 
暗い夜の、寒空のベランダ。
そこにある金属の足場を、中指でノックしてみた。
コーーーーーン、と鈍い金属音がなった。
あと一月もすれば除夜の鐘だ。
 
 
 
 
***
 
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2022-11-30 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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