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イケオジの運命を切り開く力と贈り物


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記事:笹尾和代子(ライティング・ゼミ8月コース)
 
 
「イケオジ」
それは、見た目だけでなく人生経験も豊富で内面も魅力的なイケてるおじさんのことだ。
そんなイケオジが我が家にもいた。
彼の名前は、「笹尾いちご」
男性なのに、いちご!?
名前の正確な由来は分からないが、濃いピンク色の鼻が苺を連想させたからだろうか。
そう、彼は猫界のイケオジだ。
キリリとした端正な顔立ちに、左右対称のきれいな縞模様と、ぽてっとしたクリームパンみたいな手足が愛らしい猫だった。
マンチカンという短足が特徴的な猫の種類であり、彼もその特徴をしっかり持ち合わせていた。
短足だからなのか、むっちりとした体格だからなのか、歩く時のうしろ姿はおしりをフリフリさせていて、これまた愛らしい。
 
そんな愛らしいイケオジが我が家にやってきたのは、思いがけない偶然からだった。
 
職場の先輩と2人と東京旅行をしていた時、行ってみたいペットショップがあると言われ、猫が好きな私も興味をそそられて一緒に行ってみた。
そのペットショップは3階建ての比較的大きなショップで、子猫だけでなくブリーディングの役目を終えた成猫の里親探しも行っていた。
先輩は、前々から気になっていた成猫に会いたかったらしく、その間、私は里親探し中の成猫がたくさんいるフロアで先輩を待つことにした。
「色んな子がいるな。どの子も可愛い、いい飼い主さんが見つかるといいね~」
と思いながら、猫に囲まれる至福の時間を過ごしていると、グイグイと私の膝に乗ってくる猫がいた。
「いつの間にか膝に乗っちゃった。ちょっと重いな……」
と思うと、ドテッと膝から降りて、おしりをフリフリしながら去っていった。
「重かったけど、うしろ姿、可愛いかも……」
その後も他の猫と遊んでいると、またやってきて私の膝にグイグイと乗ってくる。
もしかして、私、この子に気に入られたのだろうか?
すると、
「何でこの子がここにいるんですか?!」
と、後ろから先輩の驚きの声が聞こえてきた。
「この子、いちご君ですよね? 雑誌で見たことがあるんです」
「そう、いちご君ですよ。8歳でブリーディングを終えたんですが、ブリーダーさんも多くの猫さんを抱えていて、十分に甘えさせてあげられなくてかわいそうだから、仕方なく里親を探すことにしたそうなんです」
私は、それを聞き、ちょっと切ない気持ちになりつつ、店員さんに聞いてしまった……。
「私、3歳の三毛猫の女の子を飼っているんですが、相性ってどうなんでしょうか?」
「いちご君は、ブリーディングでも女の子に嫌われることがなかったから、大丈夫だと思いますよ」
しばらく迷ったが、お店の人が大丈夫と言ってくれているなら大丈夫かなと信じ、決断した。
「いちご君を、引き取りたいです」
こうして、イケオジは私と三毛猫のあんずとともに暮らすことになった。
 
しかし、
「いちごとあんず、仲良くなれるかな」
という、私の淡い期待はすぐに打ち砕かれた……。
 
あんずは、生後4か月で私と暮らし始めたため、オス猫はおろか他の猫と触れ合ったことがほとんどなかった。
つまりは、「箱入り娘」だったのだ。
それに対して、イケオジは様々な猫と触れ合っており、物怖じしない性格だった。
イケオジはグイグイとあんずに近づいてみるが、箱入り娘のあんずは毛嫌いするばかり。
毎日のように「ニ”ャアー!! ニ”ャアー!!」とあんずは怒り、私も心が休まらない。
あんずも私もいちごも穏やかに過ごすことができなくなっていった。
「いちごを幸せにしてあげたかったけど、お店の人の言うことだけを信じるとこういうことになるのか……」
私は、最初に感じた一抹の不安を軽く考えてしまったことを少し後悔し始めていた。
 
そんな折、思わぬ救世主が現れた!
 
「あんずは人見知りするけど、いちごは人見知りしなくて可愛いから、この子なら連れて帰ってもいいわよ」
 
私が5日間の海外旅行に行く間、遊びに来ていた両親に猫たちのお世話をしてもらっていた。
両親は動物を飼うことを一度も許可したことがなかった。
私が幼少の時からずっと動物を飼いたいと言い続けても、頑なに許可を出さなかった両親。
そんな両親の気持ちを、たったの5日間でコロッと変えてしまうとは……。
イケオジの運命を切り開く力はすごかった。
 
その後、実家で両親と兄に溺愛され、安住の地を得たいちごはイケオジから穏やかで甘えん坊のおじいちゃんに少しずつ変わっていった。
いちごが実家で暮らすようになってから、いちごを中心に家族の会話が増え、笑い声が増えた。
「子はかすがい」というけれど、我が家では「いちごはかすがい」だった。
我が家を虜にしたいちごだが、今年の2月に16歳でその生涯を終えた。
最期は、認知症状も出て、身体はみるみるやせ細っていき、かつてのイケオジの面影は薄れてしまったが、その心意気はまだ残っていた。
「いちごたん、いちごたん、今日も会いに来たよ」
動物病院の酸素部屋で、息も絶え絶えなのに、面会に行くとその身体を起こして呼びかけに応えようとするのだ。
私は、必死に私たちに応えようとしてくれる姿に、一生懸命に生きることの大切さや尊さを見たような気がした。
そして、いちごは眠るように虹の橋を渡っていった。
 
こんなにかっこよくて愛らしいイケオジにはきっともう出会えないだろう。
たくさんの幸せをありがとう。いちごたん。
 
 
 
 
***
 
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2022-12-22 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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