カラコンへの異常な執着を消してくれた「あること」
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記事:宮脇真礼(ライディング・ゼミ10月コース)
この時代に生まれてよかったと思うことの一つは、コンプレックスと上手に付き合うための手段やアイテムが豊富であること。そんな涙ぐましい努力が否定されない価値観がある程度浸透しているのもありがたい。
大小あれど、コンプレックスのまるでない人は珍しいのではなかろうか。
もちろん私も御多分に漏れずで、そのうちの一つが「目つきの悪さ」である。
中学生の頃は性格もだいぶ尖っていたので、一部で「ジャックナイフ」と呼ばれていたらしい(成人式で知らされた)。
高校生になっても目つきの悪さは相変わらずだったけれど、性格の方が幾分穏やかになったおかげでジャックナイフは卒業できたはずだ。コンタクトをつけ始めたことで無駄に目を細めなくて良くなったことも大きな進歩だった。視力矯正くらい早くしなさいよという話である。
そんな私にとって、カラー付きのレンズが瞳を大きく見せてくれる「サークルレンズ」の存在を知ったときは衝撃的だった。一般的にいう「カラコン」である。
当時、俳優の杏さんが出演していたCMを見て、「なんだこのチートアイテムは」と震えたことを覚えている。
世の中の「盛れる」「かわいい」への探究心はとどまるところを知らない。
それは市場に溢れるコピーからもひしと伝わってくる。王道の「ちゅるん感」から始まり、ふわナチュうるみカラー、パールキャッツアイ、まるでゼリーなぷるるん甘かわレンズ……もはや瞳の表現を優に超えている。
自他共に認める目つき悪い女子の私が、これらのコピーに踊らされないわけもなく。大学1年生の秋、ついにカラコンデビューを果たした。
これが「ちゅるん」とした瞳か……!
実際にはどうあれ、これまで積み重ねてきた憧れもあり、それは控えめにいっても魔法に思えた。古今東西、津々浦々の乙女たちによる「かわいくなりたい」という願望が紡がれてきた結晶だ。ありがとうと心から思った。
それからの大学生活はカラコンにズブズブだった。社会人になってからはTPOをわきまえるようになったものの、やはり縁取りのないまっさらなコンタクトはどこか不安を感じてしまうし、何よりモチベーションの土台が違う。
数年前までは当たり前だったのに、瞳にまで何か纏わせないと恥じらいを覚えるようになってしまったのか……と冷静に考えることもあった。酒にもタバコにもパチンコにもまだ溺れずにいるけれど、少しだけ気持ちがわかった気がした。
そんな理想の瞳を手に入れたい私と、カラコンとの間で結ばれていた強固なミサンガみたいな糸が、思いがけないところで軽快にちぎれたのである。
その日はカラコンどころか、すっぴんで新宿まで赴くというちょっとしたアドベンチャーを乗り越える必要があった。マンションの一室に構えるサロンに入ると、並べられた色とりどりのドレープが目に入った。
目的はずばり「パーソナルカラー診断」である。
肌の色や瞳の色、髪の毛の色などから自分の似合う色を分析するパーソナルカラー診断は、基本的にすっぴん・裸眼で行う必要があるのだ。
春夏秋冬のどれに当てはまるかを分類する4シーズンタイプがオーソドックス。そこから色相や明度、彩度、清濁といった色の特徴で、さらに4つに細分化することもできるらしい。私がその日受けたのは、この「16タイプ別診断」というやつだった。
鏡の前ですっぴんの自分と対峙しながら、胸の前でありとあらゆる色のドレープをひたすら当て続けられる時間はちょっとした修行といえるかもしれない。とはいえ、友人と似合う色の違いを比較しながら和気あいあいと行えたのは楽しかった。
私の診断結果はブルベ冬の一つ、「ディープウィンター」だった。
あらゆる色を見すぎて自分でもよくわからなくなっていたけれど、プロがそうおっしゃるのだからそうなのだろう。
なんでも、これが日本人では何気にめちゃくちゃレアらしい。
「ディープウィンターさんって初めてです…! 瞳のお写真撮ってもいいですか?」
とアナリストさんにスマホを向けられ、一瞬戸惑いはしたが嫌な気はしない。
珍しいですね、と他のスタッフさんも集まり、どすっぴんの私を囲んでワイワイされ始めたので、さすがに恥ずかしくなった。
友人も「速い馬みたいでいいね」となんともいえない感想をくれた。
かくゆう「ディープウィンター」は、16タイプの中で最も暗く、最も濃くて深い色だった。16タイプが一目でわかるカラーパレットでは、その一角だけが暗い夜のようだった。
黒々として明度がなくて、ぼやぼやと縁の澱んだ自分の瞳。そこから伸びているのであろう暗い眼光。それらはずっと私の中で「よくないもの」「隠すべきもの」だと思っていた。
その観念に縛られていたからこそ、「ディープタイプは暗い色が得意なんですよ!」と言われたときにはっとした。「得意」というポジティブな言葉。似合う、という発想があってもいいのかと思えた。
私の数あるコンプレックスの中のこれについてはきっと、周囲との比較から生まれたもので。自分自身とだけ対峙していたら、きっとその「暗さ」や「濃さ」も自分の一部として愛着を持てていたかもしれない。
そう考えたら、なんだか憑き物がとれたみたいに、少し気持ちが軽くなった。
簡単に気分を華やかにしてくれるカラコンは、今も使いたいときに愛用している。それでも、私にとっての不可欠ではなくなった。
起きて顔を洗って、鏡の中のまだ眠そうな自分と目が合う。今日もおそろしく暗いけれど、これぞ私の色なのだ。
***
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