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殺人遊具をアーメンスタイルで攻略した話

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:上平恭代(ライティング・ゼミ12月コース)
 
 
「回旋塔が使えるのは6年生からになりました」
女性の担任がある日の朝礼でそう言うと、数人の男子が「えーーっ!」と不満げな声を上げた。でも私を含めたその他大勢は、そりゃそうだよね、と心の中で思う。だって、5年生で回旋塔が解禁されてから1ヶ月くらいの間に、何人もの骨折者と、相当数のけが人を出したのだ。
学校側が規制をかけるのは致し方なかったと言える。
 
若い人たちはもしかしたら知らないかもしれないが、回旋塔とは小学校の校庭に設置されていた遊具のひとつで、平面だと子供のころ黒板に描いた相合傘が一番イメージに近いように思う。傘の三角の部分が円錐状の鉄の骨組みになっていて、底辺の円形の棒がバーの代わりになって、それにつかまって円錐本体を回すなどして遊ぶのだ。2人以上で使うことができ、3人以上でバランス良く回ることができる。
 
上級生がこぞってそれで遊んでいるのを、4年生の私たちは毎日、教室の窓から見ていたから、5年生になった時、回旋塔を使えるようになったことが一番うれしくて、昼休みになるとみんなダッシュで校庭に飛び出していったものだった。
ところが、回旋塔初心者の私たち5年生と、2年目の6年生が一緒に遊ぶ場面になると、6年生が容赦ないスピードで回したりしたことで5年生にケガ人が続出したため、使える学年が6年生からになってしまったのだ。
 
回旋塔の遊び方で一番ポピュラーなのは、何人かで棒につかまって、同じ方向にくるくる回る方法だ。回転スピードが最高潮になると、体が地面と平行になる。そのスピード感と浮遊感とスリルに、私たちは夢中になった。もしかしたらケガしちゃうかも、の危機感は、日常では得難い高揚感の前にひれ伏す。
ただ、体が地面と平行に浮くぐらいになると、つかまっているだけでもとてつもない握力が必要で、さらにその状態ではすぐ降りられるようなスピードでなくなっているため、子どもの握力ではすぐに限界に達し飛んでいってしまうのだ。
ウルトラマンが飛んでくる実写を逆再生しているようなその姿は、軽く済んでも通院が必要なくらいの擦過傷、最悪の場合は骨折コースをたどることになる。
 
あとは、私はやった記憶がないけど、1人を棒につかまらせて、反対側から複数人で棒を押し上げて極限まで浮かせ、押していた方が一斉に手を離すという遊び方。これは持ち上げられた1人が急降下するが、着地したあたりの数歩で踏ん張って支柱にぶつかるのを回避するというかなり危険な遊び方で、今から思えば肝が冷えるレベルだ。
 
そして回旋塔は、飛ばされる以外にも危険があった。
回転してる途中でぶら下がるのから抜けた場合、降りるのと同時に少し離れたところまで全速力で駆け抜けなければならないのだ。そうしないと棒にぶら下がって勢いよく回っている人とぶつかり、自分も相手も大ケガしてしまう。
自分の握力の限界を常に意識して、降りるタイミングを見計らい、降りてからも少しの間はまだケガの可能性があるという認識が必要で、そういう意味では子どもながらに、体力や知恵や思考をなかなかにめぐらしていたと思う。
 
そして私は痛いのが心底いやだったから、スピードが出ても飛ばされない方法を考え抜いた。そしてたどり着いたのがアーメンスタイルだ。
要は手を離さなければ飛ばされないわけなので、けが人が出始めた当初、学校では、上から5本指で棒を握るのではなく、親指は必ず下を通すように指導していた。つまり親指と人差し指で輪を作る握り方だ。もちろん逆手でもOK。しかし私が実際にやってみたところ、この方法は悪くはないけど、さして良くもなかった。上から5本指で握るのと大差なく、わりと早くに限界が来るし、限界が来たあとは容易に飛ばされる。
なので私は、両手で棒を挟むように握って指を組む、アーメンスタイルを編み出した。この握り方だと、簡単には指が外れないので飛ばされることもない。ただし、回旋塔が回転中は体の向きが定まりにくいので、体が上下にくるくる回って、もしかしたら危なっかしく見えたかもしれない。
 
今回この課題を書くにあたり、「かいせんとう」の漢字が分からなかったのでググっているうち、数年前に回旋塔が危険な遊具として認定されたため、都内の校庭からはほぼ撤去されているらしいことが分かった。しかも「殺人遊具」、「けが人製造機」なんて不名誉な呼ばれ方もしているらしい。
そんなこと言い出したら、鉄棒だって、うんていだって、ジャングルジムだって危ないと思うんだけどな。
 
50メートル走はいつもビリ、逆上がりは補習クラスの運動音痴だったけど、回旋塔ではほとんどケガしなかった私は、握力、腕力、スピード感、運動センスなんかをこれで培うことができていたのかもしれない。
だとすると、回旋塔含め、少しの危険と紙一重の遊具は、子どもに必要ないろいろを育める手段だったのかもしれないのにな、と考える今日この頃である。
 
 
 
 
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2023-01-18 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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