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メディアグランプリ

“許せない”自分をさらけ出したら、新しい拠り所が見つかった。


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:南雲小夜花(ライティング・ゼミ10月コース)
 
 
「いやいやいや(笑) 誰がしゃべってんのかと思ったわ(笑)」
そんな言葉をかけられて、私は一瞬呼吸が止まった。大学2年生。サークルの部屋の外で親からの電話に出たのだが、どうやら部屋の中にも私の声が聞こえていたらしい。
 
「方言も使うんだね。何言ってるのか1ミリもわからなかったけど」
「え! 先輩って新潟の出身なんですか⁉︎ 東京の人かと思ってたー」
押し寄せる質問たち。ああ、やってしまった。友達が「誰がしゃべってんのか」耳を疑うくらい、上京後の私は方言を一切使わず、地方出身だということを隠して生きてきたからだ。
 
生まれは新潟県の奥深く。
「となりのトトロ」でメイとさつきたちが暮らしていた村を思い出してみてほしい。あれの道路が舗装されているバージョンが、私の住んでいた場所である。スローライフを送るような「田舎」ではなく、細々としたライフラインが途切れれば簡単に生死をさまようような田舎具合だ。
 
最寄り駅やコンビニまでは10㎞。
米農家なんだから、ファストフードなんてもってのほか。
土日は否応なく農作業で、友人と遊びに行けた記憶はほとんどない。
小学校6年間、教室に女の子は私だけ。誰に気持ちをぶつけたらいいのかわからない。
冬は4メートル近くの雪で閉ざされるような現代版トトロの村は、所々映画以下の生活環境だった。
 
家族仲もそんなによくなかったし、期待に添えない結果になった時に浴びる冷ややかな目は今でも思い出す。何かにつけて「だから言ったでしょう」と言われるたび、心が少しずつ少しずつ、削られた。
 
外の世界には何があるんだろう。どんな人がいるんだろう。
知りたい。その一心で、大学進学を機に上京した。
 
大学ではいろんな人に出会った。そして、いろんな家族の形があることがわかった。隣の芝は青く見えるからだろうが大半は「羨ましい」という気持ちになるような家庭環境で、いろんな家の在り方を聞けば聞くほど「ああやはり、私の家はなんだかおかしかったのだ」と否定する気持ちは正当化されていく。
 
バイトの初任給で買ったのはマクドナルドだった。はぐ、とかぶりついた瞬間に、自由を勝ち取ったんだと思った。帰省も何かと理由をつけてほとんどせず、いつの間にか地元や実家は私を苦しませた「許せない存在」になっていた。
 
 
「やっぱりさ、同棲する前にご挨拶行った方がいいよね? ていうか、行かせてよ」。
付き合って2年になる彼の言葉に、また呼吸が止まる。
 
まだ結婚するわけじゃないし、今すぐに家族に会わせなくてもいいのだろう。しかも私が家を出てからと言うもの、家族仲はますます悪くなっているようだし。でも、行かなきゃ行かないであとあと面倒なことになりそう……。何度も何度も脳内討論を開催し、渋々了承した。
何度も深呼吸をして親に帰省を伝えると、「ほおん」の一言。いや、逆に怖い。
 
家具を買い揃えたり内見を重ねたり、新生活に向けた準備は着々と進んでいく。
それと同時に、帰省の日が近づいてくる。
 
彼にはこれまでも、私の身の上話や地元がいかに息苦しかったかを打ち明ける瞬間があった。けれど、好きな人には嫌われたくない。そんな思いから全ては明かせなくて、上澄みの中の上澄みくらい、マイルドに伝えてきた。
もし、私の家族が彼にひどいことを言ってしまったらどうしよう。それが原因で彼に嫌われてしまったら今度こそもう家族のことを許せない。そんな不安で、心の中の雲はますます濃くなっていった。
 
 
結果から言ってしまうと、私が心配するようなことは起きなかった。
家族は自慢のコシヒカリや山菜などでおいしい料理を振る舞ってくれたし、彼のコミュ力の高さも相まっていろいろな話で盛り上がっていた。「日本酒でも飲むか?」と彼に提案する父は、今まで見たことのない表情をしていた。
 
楽しい時間だったと思う。だからこそ、余計に複雑な気持ちになった。
だって本当の姿ではないから。「家族ごっこ」をうまい具合に演じてくれただけだから。
帰りの新幹線で、私は泣いた。言葉が追いつかないまま、涙が溢れてきてしまった。
 
上京したことで、私は自由を勝ち取ったと思っていた。でも、家族と向き合うことから逃げていただけだった。私が本当に許せなかったのは、現実から逃げている自分自身。そのことに気付いてしまったのだ。
変な家族でごめん、しか言えない私の肩をさすって、彼は言う。
「あなたが帰りたいと思える家に帰ればいいんだよ。で、帰りたいと思う家がこれから一緒に住む家だったら俺は嬉しいよ」。否定も強制もない言葉のあたたかさは、許せないと思っていた家族や自分自身との雪解けをも予感させた。
 
帰りたい家と、帰りたくない家の違いはなんだろう。
おそらくそれは、自分の気持ちを受け止めてくれるという安心感があるかないかだと思う。
 
彼を紹介したからと言って家族仲は相変わらずだし、むしろ新たな問題が勃発していよいよ実家そのものが無くなりそうだ。それでも、「実家に帰ってよかった」。そう心から思えたのはこの時が初めてだった。自分の気持ちを家族にぶつけ、受け取ってもらえたわけではないけれど、苦しかった今までの気持ちを理解してくれようとする彼の存在に帰省を通じて気付けたからだ。
 
許せない自分と許せない家族をさらけ出した私は、新しい帰る家を見つけ出すことができた。それは実態を持つ家のことでもあるが、それ以上に価値のある心の拠り所だった。私の拠り所が誰かの拠り所であるために。必要だったのは、心の奥の奥、一番人に見せたくないところをさらけ出すことだった。
 
仕事終わり、期間限定のバーガーを2つ買う。
あの頃自由の象徴だったマクドナルドは、今では2人のなんでもない日常の一部になっている。
 
 
 
 
***
 
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