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プロが気づかせてくれた、体の老いと思考の進化


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:田盛稚佳子(ライティング実践教室)
 
 
きっかけは「東京事変」の新しいアルバムのMVが解禁された日だった。
MVの始まりはある高架下。
ジャージ姿で現れた二人の女性が、大きなラジカセを抱えながら道を闊歩している。やがてラジカセを置き、おもむろに踊り出す。
一般のストリートダンサーの方かな。なんか双子っぽくて似てる……と思いながら、次の曲に切り替わった瞬間、私は背中に雷が落ちたような衝撃を受けた。
キレッキレな動き、画面から飛び出してきそうなダイナミックさ、まるで合わせ鏡があるみたいに恐ろしく息の合ったダンスに、思わずつぶやいた。
「やっば! めちゃくちゃカッコいい」
一瞬でこの二人に惚れた。そしてその日から、MVを何度も何度も繰り返し見た。
一体誰なんだ、このダンサーは?
 
そのMVを見たファンが同様に反応し「あの二人は誰? 気になる! かっこいい!」というコメントを書き込んでいた。
彼女たちは、SIS(シス)という大阪出身のダンサーで、双子ではなく姉妹だった。
幼い頃からダンスを始め、国内の数々の大会で入賞、優勝を果たしている。また世界最高峰のダンスコンテストでは2度もファイナリストとなり、特別賞も受賞。ダンス業界では知らない人はいないのだという。
2021年のTOKYO2020「パラリンピック閉会式」にもダンサーとして出演したので、ご覧になった方もいるかもしれない。
20代とはいえ貫禄があるし、何より踊ることが楽しいのがビシビシ伝わる。
会ってみたいと思った。でも会えるわけない、とも思った。
 
ところがである。
ある日インスタグラムに「あのSISが福岡にやってきます!」というワークショップの案内がアップされたのだ。
悩む時間は1秒もなかった。主催者にメッセージを送った。
「46歳のダンス初心者ですが、参加したいです。お二人を生で見たいです!」
すると「初心者でも大歓迎ですよ」との返事があり、すぐに申し込みをした。
持ってくるものは動きやすい格好、タオル、飲み物、そして楽しむ気持ちと書いてある。
もう楽しみしかない! と心が躍った。
あと一週間、あと3日、指折り数えてその日を待った。
 
いよいよ当日。
地下鉄の最寄り駅に降り、エスカレーターが上るのに比例して、気持ちもぐんぐん上がる。
ああ、ついにあの二人に会える! どうしよう!
マクドナルドのビルの3階にダンススタジオはあった。
その階段を一歩ずつ上りながら「落ち着け、私。騒ぐな、私」と言い聞かせる。
そうでもしないと、二人を見た瞬間に気絶するのではないかと思ったからだ。
「こんにちは……」
恐る恐るスタジオに入ると、すでに小学生から高校生、その親御さん方でごった返している。
ええっ! こんなに受講するの!?
圧倒されつつ主催者にお礼とご挨拶をすると、目の前にいきなりSISのお二人が現れた。
 
「!!!!!」
 
本物だーーーーー!!
驚きのあまり声が出ない。瞬きすらできない。
本当に憧れていた人に会うと、人間というのはこうも硬直してしまうものなのか。
3秒経って我に返った。とにかく、挨拶しなくちゃ。
「こ、こんにちは! よ、よろしく、お願いします……」
たどたどしい日本語。そんな自分が笑えてしまう。
「こちらこそ!」とお二人はとびきり素敵な笑顔で迎えてくださった。
 
13時10分。ワークショップが始まった。
SISのお二人が自己紹介をして、ストレッチと簡単なステップから始まる。
参加しているのは小学生から高校生、そして大人も含め約20名。最年長はきっと私だ。
初めは動きについていけた。しかし10分ほど経った頃、私の真上に暗雲が立ち込めてきた。
講師のお二人が教えてくれる動きが頭で理解できないまま、どんどん進んでいくのだ。
私の前で踊っている高校生はダンス経験者らしく、2回目にはもう振付をマスターしてかっこよく、そして水を得た魚のように踊っている。キラキラしていた。
ちなみにダンススタジオというのは前面が鏡張りなので、皆の動きがつぶさにわかる。もちろん自分の動きも。
わかっているつもりがわかっていない。明らかに皆と反対の動きをしている。しかも、大きくステップを踏むどころか、ちまちまとしか動けない。壊れた人形のようである。
頭と上半身と下半身がまるで別物で、自分の体なのに自分じゃない感覚だった。
昔、運動会でお父さんたちが一生懸命走っているのに転んでしまったり、足がもつれているのを見て爆笑していたが、まさに今日の私がそうだった。そして悟った。
「これが、老いるということか……」
 
ワークショップは休憩を交え、お互いのダンスを見ては歓声を上げて場を盛り上げていく。
学生に戻ったような気分で90分間を思いきり楽しんだ。終わってほしくないとも思った。
結局、私は最後の最後までSISのお二人が教えてくれた通りには踊れずに、ヘタクソなままワークショップは終わった。
でも不思議なことに「ダンスって楽しい!」という気持ちのほうが勝っていたのだ。
それは、間違いなくSISのお二人の踊る姿を手が届く距離で見ることができ、しかも一緒に踊れたという喜びが体中を駆け巡ったからなのだと思う。
せっかく教えてもらったのに、と苦笑いする私にお二人は
「初心者でも、がんばって踊ってたじゃないですか!」と声をかけてくださった。
思わず目頭が熱くなった。プロはこうやって生徒を育てていくのかと。
 
同じ90分間を過ごすことを「できない、つらい」と思うか、「何か一つでも学ぼう、楽しもう」と思うか。結局は自分次第なのだと、この年になって改めて気づかせてもらった。
老いても、ヘタクソでもたくましく生きてやる。
そう思うと、今まさに体のあちこちにきている筋肉痛すら愛おしくなった。
またいつかお二人に会える日が来るまで、少しでも踊れる自分になっていたい。
撮影したレッスン動画を見ながら、私は楽しむ気持ちと共に静かに闘志を燃やしている。
 
 
 
 
***
 
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