メディアグランプリ

閉経するかもと告げられて

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:エミーオ(ライティング・ライブ京都会場)
 
 
「痛みはどうですか?」
手術の翌朝、執刀した医師がカーテンを開けてやってきた。6人の患者のベッドが並ぶ、婦人科病棟の大部屋。
「手術はうまくいきましたよ。癒着もあって少し大変でしたが、左の卵巣は無事摘出できました」
傷はまだまだ痛むけど、これで一安心……。
「ただ、右の卵巣はほとんど残っていませんでした。閉経してしまう可能性が高いと思います」
術前の説明で聞いていた通りの内容。
「わかりました」と私は答えた。
医師が部屋から去り、白いカーテンに閉ざされたベッドの上で気づいたら片目から涙が流れていた。
頭では理解していても、心と体は何か喪失感のようなものを感じていた。言葉にし難い複雑な哀しみ。
 
先月、卵巣のう腫の腹腔鏡手術を受けた。のう腫というのは卵巣にできた袋状の腫瘍だ。良性だった。のう腫部分だけを除去すると時間もかかり、傷も大きくなってしまうというので、既に2人の子どもを産んでいる42歳の私は卵巣ごと摘出するという選択をした。
「右側は、もしかしたらもう機能していないかもしれませんね」
手術前に受けたMRIの検査結果として言われていた。12年前に受けた同様の手術で大部分を切除していたためだ。
「年齢的には早いですが、閉経してしまうかもしれません」
少し迷ったが、再々発の可能性を断つため、いずれは訪れる閉経が少し早まるだけだと腹を決めた。今はホルモンを補う治療も進歩しているらしい。
「卵巣ごと摘出してもらって構いません」
 
卵巣は沈黙の臓器と言われている。排卵や、ホルモン分泌という、複雑かつ重要なはたらきをしているにも関わらず、胃や腸のようには存在感を感じられない。痛みも生じにくく、異常があっても自覚症状が出にくい部位だそうだ。一昨年、腹部に硬いものがあるなと感じて婦人科を受診した時には既に手術を薦められる大きさに腫れていた。
「大きくなって捻転してしまうと緊急手術になりますよ」
卵巣自体は痛みを感じないが、お腹の中で捻れると気を失うほどの痛みに見舞われるそうなので、1年迷った後に手術に踏み切ったのだった。
 
閉経……。多くの場合、ポジティブな響きの言葉ではないと思う。
女性に生まれたら10代の初めに初経を迎えて、それから毎月生理のサイクル、お腹のご機嫌と付き合っていくことになる。大小さまざまなトラブルにも見舞われながら、また人生の大きなイベントもお腹とともに乗り越えながら歩んでいく。
そして、生きていればいずれ閉経の時を迎える。にも関わらず、更年期症状という不調とセットで語られることが多く、何だか負のイメージが強い。女性としてのある種のアイデンティティを失ってしまうような、何かが終わってしまうような、そんな印象を私も持っていた。それが手術を延ばし延ばしにしていた理由の一つだったかもしれない。
 
病室のカーテンの中で声を出さないように泣いた後、考えてみた。一体何を喪失したと感じたのか。
もう一人子どもを産む可能性? 女性としての値打ち? 若さ? どれも少しずつ当てはまっているようで、だけどしっくりこなかった。
卵巣を失って閉経することで、本質的に私の何かが変わってしまうだろうか?それは大きな問題だろうか?
むしろ、毎月のサイクルに振り回されることがなくなる、良い変化と捉えることもできるんじゃないだろうか。心身の揺らぎも少なくなって、どっしり安定していけるかもしれない。新しくどんな自分になるのか、楽しみにしたっていいんじゃないだろうか。
 
その日は晴れていた。私のベッドは窓際で、窓から青空と京都タワーが見えていたのも良かったのかもしれない。泣き切ったらこんな考えが浮かんできた。
「閉経は人生のターニングポイントかもしれない。お祝いしたっていいんじゃない?」
 
人生100年時代、閉経はまさに女性の人生の折り返し地点。新しく生まれ変わる節目と言ってもいい。ホルモンに支えられた美しさから、経験と内面からくる美しさへ。これまでにはなかった魅力を発揮できるようになるかもしれない。
 
閉経は、12ヶ月間月経がないことで確定するそうだ。つまり、1年後になって、あれが最後だった、とわかるものなのだ。私もまだわからない。わずかに残った右の卵巣が機能する可能性だって0でははない。もしそうだったら嬉しいのか……。それもよくわからない。少し嬉しいかもしれないし、やっぱり面倒だとも思いそうだし、複雑だ。痛みなどを感じにくい卵巣への感情は、掴みどころがないものなのだろうか。
だが、どちらにしても今ならポジティブに捉えることはできそうだ。
 
生理について語られることが随分と一般的になった。閉経についてももっと語られるようになれば良いと思う。ネガティブな側面ばかりが情報として流れ、何となく隠しておきたいこと、大きな声では言えないこととして扱われているが、実際、更年期症状がほとんどない人も多くいるようだ。むしろ元気になって行動的になったと話す人もいた。
女性の誰もが経験する閉経。おおっぴらにではなくとも、お赤飯よりもっと豪華なご馳走でお祝いして、これまではたらいてきてくれたお腹に感謝し、複雑な感情にピリオドを打ってみるのはどうだろう。閉じた、終わった、失ったと言えるなら、同時に別のものが開いて、始まって、得たとも言えるのだ。目を背けたいようなことではなく、その節目を楽しみにできるくらいにボジティブに受け止めたいものだ。
 
 
 
 
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2023-02-01 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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