メディアグランプリ

キッチンの「不動のセンター」炊飯器がわが家から姿を消した日


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:小野汐里(ライティング・ゼミ京都会場)
 
 
騙されたと思って試してほしい。この方法は、皆さんが普通にしている「あること」にほんの少し手間を加えて、私に1年のうちに700回ほどの幸せが訪れた話だ。
 
「ねえ、試してほしいことがあるんだけど」夫がキッチンで言った。
 
夫は料理漫画を愛読し、レシピ本を買い、料理動画をチェックして、おいしい食事のことを考えるのが好きなのだ。
実際に、料理を作ることは少ないのだが……
こうすればおいしい料理が作れるらしいなどという情報を仕入れてきて、要望を私に伝える。それがちょっとしたことならいいのだが、時には手のかかることを要望することもあり、ドキドキしていた。
 
三つ子の出産(過去に記事を掲載してもらったが、我が家は三つ子を育てている)で退職してしまった私の分まで、6人家族を養うために朝から晩まで働いている夫。家では体に良く、本人がおいしいと思うものを食べてほしいと願っている。なるべく願いは叶えたいと思っている。だが、絶対的に時間がなかった。
 
その頃の子どもたちは、魔の2歳児とも呼ばれる、イヤイヤ期真っ盛り。家に2歳児が1人いても手を焼くのに、それが3人もいる。さらに2つ違いの姉もいる。中でも、ワンオペで行う食事風景は地獄絵図だ。もう水分はこれ以上吸わないぞ!という顔つきのタプタプした台拭きでこぼれた麦茶や汁物をぬぐい、次々に落ちるフォークやスプーンを洗いに走り、床に散らばったごはん粒をよけながら歩く……
 
そういう背景があったから、夫の提案に、耳を疑った。
 
「ごはんを鍋で炊いてほしい」
 
ちょっと待ってくれ、と。流石にそれは無理ではないか。
鍋でごはんを炊くという響きが夢物語のように遠く感じられた。だって、鍋でごはんを炊く人は、インスタグラムや雑誌の中でしか見たことがない。「ていねいな暮らし」という言葉が似合いそうな、穏やかな表情で微笑む女性……私とは対極だ。
 
私は効率化や時短やテクノロジーを愛している。
お掃除ロボット・自動食器洗い機・自動洗濯乾燥機を『現代の三種の神器』として崇めている。
なんなら炊飯器ヘビーユーザーで、炊飯器でごはんを炊き、煮物を作り、芋を蒸していた。
特に愛しているのは、タイマー機能だ。お昼寝の間にお米をセットしておけば、夕方、ぐずりだす4人の子どもたちの対応に追われていても勝手にごはんが炊ける。
それを自ら手放すなんて、正気の沙汰ではない。殺生な。
ごはんがおいしく炊ける、それがなんだというのだろう。心の中は反発していた。
 
「絶対、おいしいから」夫は揺るがなかった。
 
躊躇したのち、言われるがまま、やってみることにした。私は素直がうりなのだ。結婚祝いで頂戴したまま、ほとんど使っていないフランス製のホーロー鍋を思い出した。久しぶりに取り出してみた。我が家に似つかわしくないその鍋は、重厚で、艶があり、鮮やかな朱だった。五徳の上に置いてみると気分が高揚した。
 
さあ、やるか。
 
お米は研いで30分程度、浸水しておく。
浸水した米は、水を切って鍋へ。
水は1合につき、200ml弱。我が家は、3合炊くので550mlの水を鍋に注ぐ。
鍋を強めの中火で熱し、沸騰して吹きこぼれそうになったら、弱火にして約12分。
火を消したら、そのまま10分ほど蒸らして完成だ。
蓋を開けると、ほわ〜ん。やさしい香りが部屋にただよう。玉手箱のような湯気の中から、白く輝く艶々ごはんが現れた。一粒一粒がツンと立ち、その表面はピンと張ってみずみずしい。内側から発光しているような美しさに思わず口元が緩む。
 
やられた。これ、絶対うまいやつ。
 
あれから約5年。ほぼ毎日朝晩、つまり1年で約700回程度、ホーロー鍋でごはんを炊いている。面倒くさくなって、すぐにやめるだろうと自分でも思っていたが、飽きることなく続いている。毎回白い艶々ごはんをみると、幸せを感じる。3合では足らなくなり、5合炊けるように大きなホーロー鍋も買い足した。
4人の子育てで時間がなく、基本的には効率化・時短・機械化を押し進めている我が家の中でも、ごはんだけは聖域だ。ごはんがそのままで美味しすぎるので、ふりかけをほとんど使わなくなった。おかずもシンプルになり、朝食は基本的に、味噌汁とごはん。家族は各自、ごはんに合わせたいものを食卓に持ち寄るというスタイルになった(梅干し・のり・生卵・納豆等)。あくまでごはんがメインで、おかずは添えるものだ。旅行で外食が続いたとき、家に帰って子どもたちに「食べたいものは?」と聞くと、「白いごはん」「うちの白いごはんが一番おいしい」という回答が返ってくるくらい、すっかり我が家の一部になった。
 
必要なものは、ホーロー鍋。それと、いつものお米と水。米は安いもので構わない。あとは、ほんの少しの勇気と、行動。それで毎朝晩、あなたにも白いごはんの幸せがやってくるはずだ。
 
 
 
 
***
 
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2023-02-01 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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