メディアグランプリ

人生何周目? そんなこと言ったってしょうがないじゃないか


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:mumi(ライティング・ゼミ12月コース)
 
 
どうしよう。目の前で泣いているAちゃんを見て体が固まってしまった。
でもわたしは悪くないもん。積み木は順番に使ってねって先生が言うからちゃんと待ったんだし。わたしの順番になったからAちゃんに貸してって言ったら「やだ」と言って急に泣き出した。
どうしよう。このままだとわたしが泣かせたみたいになっちゃう。
そうだ、向こうが泣いてるんだからわたしも泣こう。それでおあいこのはず。どうせならAちゃんよりも大きな声で目立つように。
だって大人は迷わず泣いている子に「大丈夫?」と駆け寄り、それと同時に泣いていない子を一瞬にして「泣かせた悪い子」に仕立て上げてしまうから。
 
「で、mumiは小さい頃どんな子だったの?」
友人の声で意識が現実に引き戻される。
私がひとり思い出に浸っている内に話はだいぶ進んでいた。
熱すぎるカフェラテが少しだけ冷めるのを待っていただけなのに、気がつけば私以外のみんなはとっくに飲み干していることに驚き、すっかり冷え切ったカフェラテを一気に流し込んでみる。お店に入る前はいつも「冷たいもの飲むぞ!」と心に決めるも、いざ店内に入ると想像以上の冷房の効き具合にびびってしまい、結局はホットを頼んでしまうのは私にとって夏の恒例行事だ。
そんな一斉に鳴かなくても、と言いたくなるようなミンミンゼミの声が、ほんの一瞬途切れたのを見計らって口を開く。が、息を吸い込んだその瞬間にSさんが話し始めてしまい、私の声は誰に届くこともなく消えていった。
「中身が今の自分のまま、子どもの頃に戻れたら上手くやれる自信あるよね。めちゃくちゃ可愛がられると思う」
私を除く3人が満場一致で盛り上がっているところに、さっきまで脳内再生されていたエピソードを4、5歳頃のことなんだけどねと伝えたら果たして信じてくれるだろうか。
……とりあえず別の話にしよう。
 
「正直言うと、私小さい頃から可愛げがない上に計算高い部分があったんだよね。だから根本的には今とあんまり変わってないかも」
「何それ(笑)例えば?」小腹が空いたのか、メニューを眺めていたMさんがすかさずツッコむ。
「例えば、お母さんと買い物に行くでしょ? その時にお菓子売り場で欲しいものをじっと見つめるんだよね。でも自分から欲しいとは言わない」
「えー、よく我慢できるね! それ何歳くらいの話?」
聞き上手なYさんが続きを促してくれる。
「4、5歳くらいかなあ」
話しながらスーパーマーケットに母と買い物に行った日の情景を思い浮かべる。
母が私の視線に気づいて「好きなものひとつだけ選んでいいよ」って言われるのを待つ私。母の買い物が一通り終わるまでに欲しいのを決めることになるが、そこでは決めない。すると、そろそろ家に帰りたい母は「まだ決まらないの? 何と何で迷ってるの?」と聞いてくれる。
そこで2つを手に取り「これとこれ。決められないの」ともじもじ母に差し出す。
ここでポイントとなるのが値段。ついでに買って良いと思えるような金額でないといけない。
案の定、母は値段を見て「じゃあ、どっちも買っていいよ。今日だけだからね? あ、お兄ちゃんとお姉ちゃんにも内緒だよ」と言って2つともをカゴに入れレジに向かう。
やった、狙い通りだ! ふふ。母の背中に隠れて喜ぶ私がそこにいる。
 
思い出したまま一気に話してしまった後に、はっと我に返り3人の顔を見る。
「やば。人生何周目?(笑)3周くらいしてんじゃないの?」
Yさんは大爆笑したのちに身を乗り出して言った。
「末っ子だから上の兄妹を見て学んだところもあると思うけどね」とひとまず返す。
「ってことはさ、今の人生をわりと上手く生きられる術をすでに身につけてるってことなんじゃないの?」Sさんは更に深堀りしようとしているようだ。
うーん、上手く生きている方ではないと思うけどなあ、と頭によぎるも、思い通りにことが運ぶように自然と策を講じている部分はあるかもしれないと思い直す。
 
 
 
例えば恋愛。私は基本的には誘ってほしいし、告白もされたい側の受け身人間だ。
とはいっても、ただ待つということはしない。
いいなと思っている人とのデートは序盤から、時には始まる前からそこかしこに次回のお誘いにつながる「かけら」を散りばめておく。
それはちょうどヘンゼルとグレーテルが、歩いて来た道に白い小石を落としたように。
最近気になってるお店の話は特に最適だ。「一緒に行こうよ」と言うきっかけにもなりやすいからだ。その他にも友達が個展を開いただの、見たい映画だの相手と自分の興味をすりあわせた小石をどんどん落としていく。あとは帰りまでに相手がどれかひとつ小石を拾ってくれるのを待つのみだ。
 
その際に大事なのは決して嘘をつかないこと。
相手の好きな話題をふると、嬉しそうにしゃべり始める。話したいことを聞かれたのだから当然だ。興味がないなりになんとか質問を見つけ出すこともできても、「ああ、本当は興味ないんだな」なんてのはすぐに分かってしまう。
全く関心のない分野の話であったとしても、そこから話が派生していく中で必ず自分の興味につながる部分を見つけるようにするのだ。
例えば私は数学が大の苦手なのに、デート相手が数学教師だとする。数学そのものの話は聞いていて眠くなるし、話の広げ方もわからない。でも、数学教師あるあるや日常生活に役立つ雑学よりの話なら素直に聞いてみたいと思える。ピント調節のように数学に焦点をあてながら私の興味にぶつかるところを探していくこの作業はなかなかに楽しい。
 
 
要領が悪い私でも自然にこなせているということは、Yさんの言う人生3周目というフレーズはあながち間違っていないのかもしれない。妙にしっくりきた私は「人生3周目……」と呟いてみる。
頬杖をつきながら話を聞いていたMさんは
「でもさ、その割にはいっつも大変そうな恋愛ばっかりしてるよね」と呟いた。
終わった。しっくりきた! という満足感に浸る時間はあっという間に終わってしまった。
そうなんだよなあ。酒癖の悪い男、女癖の悪い男、時間とお金にだらしない男、モラハラ気質の男……。ああ、もうこのへんにしておこう。
 
 
「確かにー(笑)人生3周目くらいじゃなかったの?」
そんなこと言ったってしょうがないじゃないか。おっと、つい心のえなりくんが出てしまった。年上なのに、えなり「くん」と呼びたくなるのは幼い頃からTVで見ているがゆえの親近感だろう。
 
だってこの人生でする恋愛は初めてなんだもんと、口を尖らせる私。
頼むよ、来世の私。今度はそのへん上手くやってよね。
 
 
 
 
***
 
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2023-02-01 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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