本当にあった怖い話 〜大自然痴漢冤罪編〜
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:井上遥(ライティング・ゼミ10月コース)
――これは、私が体験した、本当にあった出来事ですーー
数年前のある夏の日、私は友人たちとキャンプの計画を立てていた。
「富士山を見に行きたい!」という友人の鶴の一声で目的地は静岡県に決まった。となると、次に決めるべきは宿泊地である。ここはどうか、あそこはどうかと皆で話し合っていると、別の友人から「ここはどう?」と、あるキャンプ場のURLが送られてきた。
そのキャンプ場には露天風呂が設置されていた。お世辞にも立派とは言えない規模だが、24時間利用でき、何より無料で利用できる。「いいじゃん、いいじゃん!」と満場一致で決まり、すぐさま予約を入れた。
その決断が後に引き起こされる“混沌”の引き金になるとは、その時は誰も予想していなかった。
キャンプ当日の夜、事件は起こった。
大自然に囲まれ、バーベキューと露天風呂を堪能した私たちは「少し早いけど、そろそろ寝ようか」と寝る支度を始めていた。私も歯磨きをしようと水洗い場へ向かう。
今思えば、この時一人で行動したのが失敗だった。
水洗い場で歯を磨いていると、何だか視線を感じた。
視線を辿ると、男性3人・女性3人の男女グループが、私の方を見て何かヒソヒソと話している。何か気に触ることでもしてしまっただろうか? ちょっとガラの悪そうな彼らの姿に内心ビビりつつ、気づかないふりをしてちゃっちゃと歯磨きを済ませる。
そして同時に、パトカーのサイレン音が近づいてくるのが分かった。「何か近くでトラブルでもあったのかな?」などと考えながらテントへと戻ろうとする。
すると、女性の一人がズカズカズカズカと凄い勢いで私に近づき、その勢いのまま言い放った。
「絶っ対こいつ! 間違いない!!」
えっ。
「こいつだよ! 私たちの風呂を覗いてた覗き魔は!!!!!」
えっ。えっ。
「お兄さん、ちょっとこっち来てくれる?」
気づけば、私は警察官にがっしりと腕を掴まれていた。
そう、私は静岡県の大自然の中で、痴漢冤罪に巻き込まれてしまったのである。
その後、警察官と男女グループによる私への詰問が開始された。
「xx時xx分、あなたはどこで何をしていたの」
「スマホの画像フォルダ、見せて」
「ここに住所と名前、連絡先書いて。あと、会社名も」
警察官と男女グループは、どうやら完全に私のことを犯人だと思っているようだ。騒ぎを聞きつけてやってきた友人たちは心配そうに私を見守っている。
しかし、私はその時、全く焦っていなかった。
なぜか。神に誓って、覗きなどしていないからだ。
正義は我にあり、である。
私の行動は、それはもうテキパキとしたものだった。「私はやっていません」と何時何分に何をしていたかを事細かに説明する。スマホは即座にロックを解除して渡した。友人たちも「こいつは俺たちとずっと一緒にいましたよ」と証言してくれた。
それでも、男女グループは納得してくれない。「友達とだったら口裏合わせることぐらいできるだろ」「撮った写真、クラウドにアップしてんじゃねえの?」と、とにかく私を犯人に仕立て上げたいようだった。
それでも、粘り強く自身の潔白を訴えるうちに、少しずつ風向きが変わっていった。
警察官の疑いの眼差しが、今度は男女グループに向けられるようになったのだ。
警察官は「本当に、この人だったんですか?」と彼らに質問を投げかける。彼らの返答も「そうだと思うんだけど……」「暗かったし、見間違いかも……」と最初の勢いがない。
その時、ふと私は思った。
「あのー」
勇気を出して彼らにその疑問をぶつけてみる。
「何で、僕が覗き魔だと思ったんですか?」
そうなのだ。そもそも、疑われる理由を聞いていない。
友人たちからも「確かに」「そういや、何でだっけ?」という声が上がる。
すると、女性の一人が私に向かって言った。
「アタシ、覗き魔見たんだよ」
なるほど。ということは、そいつの特徴が私に似ていたのか。
では、そいつはどんな奴だったんだ?
「そいつはさ……」
私たちは、固唾を飲んで、彼女の言葉を待った。
「……眼鏡で」
――眼鏡でーー
「……猫背で」
――猫背でーー
「……なんかオドオドしてるやつだったんだよ」
――なんかオドオドしてるやつーー
「絶対あんたじゃん」
ここで一つ、読者の皆さんに問いたい。
皆さんは、見ず知らずの女性にここまで罵倒された経験はあるだろうか。少なくとも、私はそれまでの人生でそんな経験をしたことはない。これからもないと信じたい。
だが、彼女から放たれたホップ・ステップ・ジャンプのスリー・ド辛辣ワードたちは、今も私の魂にしっかりと刻み込まれている。
「……それは、完全に僕ですね。アハハ〜」
私にできたことは、そう言って力なく笑うことだけだった。
その言葉を聞いた彼女が「おい! こいつ自分が犯人だって認めたぞ!!!」と再び激昂し始めたので、私は「違います違います違います」と慌てて弁明する。
友人たちの方を見ると、地べたや虚空をじっと見つめていた。よく見れば、口元がふるふると小刻みに震えている。笑いを堪えているのだ。何なんだこいつらは。
警察の方々はというと、もうだいぶ前から面倒臭くなってきているようで、「とりあえず、責任者の方と話をつけてきましょうか」と責任者がいる建物の方に向かって行く。
まさに“混沌”という言葉が相応しい状況であった。
その後、「キャンプ場覗き魔事件」は「施設管理者に問題があった」となり、男女グループの宿泊費を無料にすることで決着となった。
無事、私の覗き魔の疑いは晴れたのである。
男女グループから「疑ってスマセンした」という軽〜い謝罪の言葉を受け取り、私たちはテントへと戻っていった。
テントに戻ったところで、どっと疲れを自覚した。
やれやれ……と寝袋を広げたところで、友人の一人が私に言う。
「お前、本当にやってないよな?」
「やってねえええええええええよ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
その雄叫びは、キャンプ場に響き渡った。
そして、寝袋に潜り込んだ私は、そのまま泥のように眠ったのであった。
だが、事件はここで終わらない。
翌朝。
私たちは早々に起床し、帰り支度を進めていた。
散々な目にあったな……などと思いながら焚き火の後始末をしていると、「なあ」と友人に肩を叩かれる。
「あれ、見て」
そう言われて、キャンプ場の一角にある建物の2階に目をやった。
私と似た背格好の男が、こちらをじっと見つめている。
一瞬、窓に自分の姿が写っているのかと思った。
しかし、そのシルエットは背格好こそ似ているものの、服装は全く違う。
しばらくの間、私たちはじっと見つめあっていた。
お前か?
瞬間、バサバサッという音がキャンプ場に響き渡った。
驚いて振り返る。どうやらカラスか何かの鳥が羽ばたいていったらしい。
再び視線を建物に移す。
すでに、2階に人影はなかった。
「……早く帰ろ」
友人の言葉に頷いた私は、再び帰り支度を始めたのだった。
――私が体験したこの話。信じるか信じないかは、あなた次第ですーー
***
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