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15歳の武者修行


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:千々岩 康治(ライティング・ライブ福岡会場)
 
 
煩悩まみれ、欲望まみれの私だが実は僧籍を持っている。私はお坊さんなのだ。
しかもただのお坊さんではない。武僧、いわゆるモンクである。
私は学生時代武道を習っていた。中国拳法、中国嵩山少林寺の少林拳である。
アクションスターのジャッキーチェンやジェット・リー、漫画のキングダム等をイメージしてもらえるとわかりやすい。
私は高校1年生の時2週間だけ本場の嵩山少林寺に留学し、僧籍を貰ってきたのだ。
 
当時私が中学を卒業したころから少しずつ中国経済の発展してきていた。その関係で門外不出の嵩山少林寺の門戸が開き始め留学生の受け入れが行われることになったのだ。
私はその1期団の中にいた
 
 
 
本場の中国の修業はいろいろな意味で私にショックを与えた。
正に色々な意味で修業だった。
 
 
 
中国の空港に着くと経済発展の煽りからか空港は非常に綺麗だった。タイガーバームの香りがしたのを今でも覚えている。
 
私は生まれて初めての海外にウキウキしていた。
 
……だが楽しいのはここまでだった。
 
その夜、私は布団の中で帰りたい帰りたいと呪文のように唱えていた。
 
 
 
いやもうほんと色々言いたいことがあるが、まずトイレだ。
野原に見えないように囲いがあるだけだった。
中には側溝に水が流れていた。その側溝にトイレをするのだ。
側溝の行先には汚物にまみれた豚がいた。豚に汚物の処理をさせるらしい。
しかも利用料日本円換算10円!!
トイレと言えるのかわからない設備の利用にお金を払うのだ。
 
ちなみにここの地域では犬猫はいない。豚がペットの代わりらしい。
犬猫はペットではなく食料。ここでは犬猫を食べるのだ。
 
食事は三食米飯と味付けのまったくしていないもやしの炒め物だった。
調味料の代わりに砂と石とレンガの欠片が入っていた。
現地の修行僧は普通に食べている。2週間全部これだった。
犬猫を食べさせられるよりずっとマシだがあんまりだろう。
 
シャワーはシャワーで錆色の水が出てきてお湯がいきなり水に変わった。
 
 
 
何から何まで本当に泣きそうだった。
練習は見たこともない武器の使い方などを教えてもらい非常に有意義なのだろうがはっきり言って練習どころではない。
 
 
 
 
 
中国にきて1週間ほど経っていた。残り半分だ。
 
 
ここにきて私に文字通り千戴一隅のチャンスが訪れる。
疲れからかケガをしたのである。歩けない。
中国人ガイドの人が「これは骨折してるかもですね。近くの病院に行きましょう」
こう言った。
どうやら左足を骨折したようだった。
 
 
私は痛みに呻きながら心の中でガッツポーズをした。
骨折しているなら残りの1週間は入院だろう。周辺に病院らしき建物はない。必然的に都心部の病院だ。都心部の大きな病院なら清潔なベッドとまともな食事にありつける。砂まみれのもやしも冷たいシャワーもおさばらだ。
都心までここから2時間ほどかかるが今までの事を考えると骨折の痛みなど我慢できた。
 
私の心は晴れやかだった。
 
だが……
 
私は
 
ここで極めて重大な事柄を見落としていた。
 
 
 
 
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15分後……
 
 
 
私は廃屋にいた。
いや廃屋ではない。ここは病院だ。
 
そう……
言ったのだ。
 
ガイドの人は「近くの病院」と。
都心の病院に行くとは一言も言っていない。
 
私はこの廃屋にしか見えない病院に連れてこられていた。
私の目論見は脆くも崩れ去っていた。
 
 
中に通されると診察台のみ、本当に何もなかった。
そして医者らしいその人は私の足をみて奥の部屋に通した。
中にはどう見ても年代物のレントゲン装置が置かれていた。錆だらけである。
放射能は大丈夫なのだろうか? 不安しかない。
 
レントゲン撮影後再度診察室に呼ばれ診察台に寝かされた。
日の光に撮影写真をかざして見ている。素人目に見ても見事に折れていた。
 
先生とガイドが何事か話している。
 
そしてガイドは引率してくれていた道場の先生や同輩に
「今から治療するそうです。暴れるでしょうからしっかり押さえてください」
そう言ったのだ。
 
 
 
は? 何言ってるの? 暴れる?
疑問より先に私は周りの人間に押さえつけられた。
 
次の瞬間
 
私は
 
 
 
 
痛たたたたたたたた!!
痛い痛い痛い!!!!
痛たたたたたたたたたたた!!
 
 
無意識に絶叫していた。何が起こっているのか理解できない。
 
 
 
 
左足を見ると
 
 
 
なんと医者らしき人が私の骨折した部分をグリグリ動かしていた。
いやいやいや。何してるのこの人。おかしいでしょ。正気じゃない。
 
私は渾身の力で周りの人間を振りほどこうとするが鍛えた人間4人がかりだ。
絶対に勝てない。
私は最終手段で周りの人間を殴ろうとした。
 
 
 
……と
 
 
 
唐突に先生が離れた。
 
 
そして……
 
左足の痛みはなくなっていた。
痛くないのだ。
いや、痛いことは痛いのだが痛みは打撲位に落ち着いていた。
歩ける。
 
 
そのまま再度レントゲン撮影すると私の骨の隙間はなくなっていた。
綺麗に元の位置に戻っていたのだ。
もはや医者じゃない。職人か何かだろう。
 
そのまま頼りない添木をあてられて返された。
治療代は日本円換算で420円! 私の骨折治療はビックマックより安かった。
 
 
 
 
 
その日はそのまま部屋で休まされ次の日には普通に練習に参加した。
普通骨折完治は2~3か月かかる。
正に驚愕である。
そして泣きそうだった。普通にこのまま留学続行である。
だって動けるんだもん。
帰る理由はどこにもない。
 
 
その後無事に留学期間を終え僧籍の登録をした。
 
 
当時は苦痛でしかなかったが今考えると非常にいい経験をさせてもらった。
出発の前日に親に「外の世界を見てこい」と言われたのを思い出す。
 
ちなみに帰国後すぐに骨折状態を見るために病院に言った。
診察結果は「ほぼ治りかけてます。なにもしなくていいですね」だった。
治癒まで1か月かかっていない! まさに中国4000年の歴史と技術を感じた。
 
 
 
 
***
 
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