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恋人と一緒に紡いだ物語 -天狼院書店プレイアトレ土浦店閉店によせて-


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:平井 理心(ライティング・ゼミ実践教室)
 
 
今の私、心の座りが悪いのです。
いつもそこにあったものが、「ない」ことで至る感覚。悲しいとか、寂しいとか、そういう言葉に置き換えられそうで、でも、しっくりしません。
敢えて言うなら、急に恋人から「さよなら」を告げられた気持ち、です。
 
その恋人とは、天狼院書店プレイアトレ土浦店。
JR常磐線の土浦駅改札口から1階降りたフロアにあります。ちなみに、土浦駅とは茨城県の南部に位置し、上野駅から各駅停車で70分ほどの距離になります。大きくない駅です。そこは私の自宅から徒歩圏内でした。ですので、その恋人たる書店には会いたいときにいつでも会いに行けました。
 
店舗は高校の教室くらいかな。それほど広くはありません。でも、隣接するパン屋さんや酒屋さんとの仕切りはなく、開放感のある空間です。その店舗のいちばん目立つところに位置するのは、文豪コーナー。太宰治をはじめ文豪たちの作品が、文豪にまつわる作品が、堂々と並べられていました。愛おしい……。文豪好きの私の趣味を、価値観を、大事にしてくれていると感じました。
 
そんな、相性抜群の書店。ずっと居てくれると思ったのに、1月末日に閉店となりました。
 
一方で、隣町に高校の体育館より大きい大型書店がオープンしたのは、数か月前になります。
友人が私に「本好きにはたまらないでしょ」と言うのですが、分かってないなぁと思います。店舗が大きければ、本の数が多ければ、良いっていうものでありません。本好きには、自分と相性のあった書店があります。店舗の佇まい、書店スタッフさんのこだわり、本への愛情……そういったものを五感で受け取り、自分の好みの書店を探すのです。
 
天狼院書店プレイアトレ土浦店は、まさに私のストライクゾーンど真ん中の書店でした。本を買って帰る人をあたたかく見守ってくれる、本を読むことを精一杯応援してくれる、そんな書店でした。
 
書店スタッフさんは、いつも声をかけてくださいました。私の好みを知ったうえで、
「この本は参考になりますよ」
「これはもう絶版なんですよ。いい本なのに残念です」
「これ選んだんですね! 見つけてくれて嬉しいです」
私だけをみて、私だけに発してくれた言葉、それを受けての私の気持ち。それが物語を紡ぎました。文庫本1冊に、その物語が追加され、百科事典並みの重さになりました。
 
たとえばこんな物語。
本2冊をレジに持って行ったとき、スタッフさんが
「この本、私が紹介しているんです」
「あなたのPOPなんですね。それ見て購入して、とっても良かったから、同じシリーズの買ったんです。すごくドキドキして……」
対話は尽きませんでした。その後、書店のSNSにタイトル「『乙女の本棚』を買ってくださったお客様」との記事で「30代女性の方だったんですが」「私も大共感して2人で盛り上がってしまいました」と綴られていました。投稿をみて心躍りました。同じ気持ちでいてくれたんだということ、そして、私の年齢をかなり若くみてくれたこと。私の実年齢はひみつです。折しも、この時購入した1冊は、『秘密』(谷崎潤一郎著、マツオヒロミ絵、「乙女の本棚」シリーズ、立東舎)でした。
 
また、たとえばこんな物語。
「平井さんは、小説も書きたいんですか?」
「私、臨床心理士なんです。心理士ならではの視点で物語を書きたくて」
「そうなんですね、心理士さんが書いている本ありますよ」
「私、クライアントの話というか物語を聴くのが仕事だから、小説の書き方とかで、物語を分析して、自分も物語を書けるようになったら、今の仕事に役立つかなって思って。なんか、すべてが繋がっていくような気がするんです」
思いもよらず、私は夢を熱く語っていました。それを静かに聴いてくれるスタッフさん。その後、紹介してくれた本は『思春期をめぐる冒険 心理療法と村上春樹の世界』(岩宮恵子、創元社)でした。私にとってのエッセイも小説も、自分の中にどんなメッセージがあるのかを探し出すための、冒険そのものだと気づかされました。
 
これらの対話に基づく物語は、購入した本に付け加えられ、私だけの本として私の本棚に並んでいます。こうして物語を一緒に紡いでくれた書店がなくなることが、本当に残念です。
 
最後に書店への恋文をしたためます。そうすれば私の心の座りが直る、気がするので。
 
 
天狼院書店プレイアトレ土浦店様
私に読書の楽しみを教えてくれて、ありがとうございました。
そして、私の夢を応援してくれて、ありがとうございました。
あなたがそばにいてくれて、私は本当にしあわせでした。
もう、あなた以上の書店とは巡り会えないと思います。だからこそ、あなたと紡いだ物語を大切にして、本とともに愛していきます。
心を込めて、「グッド・バイ」。
 
 
 
 
***
 
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2023-02-09 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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