福岡県人のラーメンについての告白
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記事:久田一彰(ライティング・ゼミ2月コース)
困ったことに、口の中に口内炎ができてしまった。右下唇のあたりで、食べ物を口に入れるときにちぎったり、噛んだりするときにはよく使う位置だ。しかも、飲み物飲むときもコップやペットボトルが絶対に触れてしまい、当然のことながらしみてしまう。水ならまだしも、塩気やしょうゆ、酸っぱいものでも触れようなら、間違いなく悶絶してしまう。
これでは、楽しい毎回のご飯は、苦痛が続く拷問のようではないか。しかも生きていくにはご飯は必須。どうしても避けられない。こうなると途端に食欲は失せてしまうし、いっそのこと一食は抜いてしまおうかとも思う。
しかし、この口に食べ物を入れてどんなにしみようとも、たとえ地獄の苦しみを味わおうとも、今目の前にある一杯のラーメンだけは絶対に食べたいものだ。そう、ラーメン店、天下一品のこってりラーメンは、どんな状態にあっても必ず食べたい。それほど好きなのである。
さらに白状してしまうと、私は福岡県人だ。ラーメンの認識は、生まれてきたときから、豚骨ラーメンしか知らなかった。
大学に入るときに、福岡から東京へ上京したが、周りから好きなラーメンはやっぱり豚骨でしょ? と認識されていたし、社会人になってからも、東京のうまい豚骨ラーメンのお店知らない? って聞かれてしまう。転勤で福岡に戻ってきたときも、出張で来る会社の人からも、屋台のラーメン食べたいんだよね、とか、飲んだ後に〆で食べる豚骨ラーメンのおいしいお店連れて行ってよ、と言われる。
つまり、福岡県人=豚骨ラーメンというラベルを貼られている。
だが、わたしは違う。密かにこの天下一品のこってりラーメンが好きなのだ。
ああ、とうとう白状してしまった。
もしかしたらこれを読んでいる福岡県人がいたらどうしようか。世が世なら、裏切り者と呼ばれているだろうか、もしかしたら、八つ裂きや火あぶりにされてしまうかもしれないし、追放されて島流しにあっているかもしれない。福岡県人に踏み絵のように、「この天下一品のこってりラーメンの絵を踏んでみろ」と聞かれたらどうしよう。
だけど、好きなものを好きという気持ちに嘘はつけない。
天下一品のこってりラーメンは、見た目は豚骨ラーメンに似ているが、ベースは鶏ガラと十数種類の野菜が溶け込んでいる。発祥は京都だ。すこしどろっとしているスープは、麺によく絡みつく。
付け合わせの具材は、ネギとメンマ、そしてチャーシュー。色合いといい、味わいといい、シンプルながらもお互いがお互いを補完していて、正に三位一体の様相を呈している。
出されるラーメンの丼には、天下一品のロゴがバランス良く配置してあり、龍の絵柄が何人たりとも寄せ付けない、味に文句はいわせない、と威風堂々として描かれている。
食べる時は、必ずスープをすする。
しかし今日は、口内炎がある。どれほどしみるかは未知数だが、好きな食べ物の前に、口内炎の痛さなど比ではなかった。しみるのが分かっているので、下唇をすこし巻き込んでスープが直接口内炎の部分に当たらないようにする。
まずはスープの一口目、ゆっくりれんげにのせたスープを観察する。この色んなものが溶け込んだ黄金スープ、今日も間違いなく輝きを放っている。こってりとはいうものの、スッズッとすすると、さほどどろっとしておらず、むしろこの少しエキスが溶けきれていないからこその、麺とスープの抵抗感が心地よさを感じる。レンゲにスープをすくい、麺を一口分載せ、メンマ、ネギ、チャーシューを載せると、ミニラーメンが出来上がる。これを一気に食べるのが、とてつもなく幸せを感じる瞬間なのだ。
こうなったら、もう箸は止まらない。
麺を口にほおばり、スープをすする。具も先に全部食べきってしまわないように、量を調節しながら少しずつ食べていく。途中食べ方をしくじって、口内炎の部分に麺やスープが当たってしみてしまうが、なにするものぞ。こちらはおいしさを身体全体で感じているのだ。どうってことはない。
大方食べていくと、当然ながらスープの位置はだんだんと下がっていき、丼の壁から徐々に何かの文字が浮き出てきていく。
なんだ? と思いながらも麺も具材も食べて、スープをレンゲですくって飲んでいくと、文字全体が現れる。
「明日もお待ちしております。」と書かれているではないか!
これには毎度のことながら、嬉しい気持ちになる。どの食べ物を食べても、どの飲み物を飲んでも、口内炎がしみてやるせない気持ちになるが、今日のこのメッセージはどうだ。決して声にはならないが、こうもあたたかく包んでくれるような文字は、流石としかいいようがない。スープを飲み続けた者だけが、この文字を見ることができる。まさに、海賊船の船長になって、宝探しで財宝を見つけたような気にもなる。
こちらこそごちそうさま、また来るね、と心の中で返事をしつつ、会計をしてお店を出た。これでまた、午後の仕事を頑張れそうだ。
***
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