メディアグランプリ

絵の具のパレットでいつも同じ色を作れるだろうか


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記事:黒澤 優(ライティング・ゼミ2月コース)
 
 
思い出すのは、小学校の教室。
机の上に広げた画用紙に描いた下絵に沿って、絵の具を載せていく。
青と白の絵の具を目分量で混ぜて空に塗る水色をつくる。青と黄色を混ぜれば木々の緑ができる。
明日また同じ色の絵の具を混ぜたとき、今日と全く同じ色を作ることはおそらくできない。
今日の空の色、今日の木々の色は、明日の色とは少しずつ違う。それでいい。
 
それから20年以上を経て、私は民間企業に勤める会社員として、オフィスビルの高層階の会議室にいる。
真ん中には役員、私の右隣には上司、他部門の部長や課長もいて、ダイバーシティについて議論をしている。
ダイバーシティ経営とは、経済産業省の定義によると「多様な人材を活かし、その能力が最大限発揮できる機会を提供することで、価値創造につなげている経営」であり、「多様な人材」には性別、年齢、国籍や性的志向などに加えて、キャリアや経験、働き方などの多様性も含まれるとのことである。
最近では、「性的指向又は性自認を理由とする差別の解消等の推進に関する法律案」通称LGBT理解増進法が、テレビ・新聞やネットニュース等を賑わせている。
 
ふと私に問いかけられた。
「LGBTに対する理解を深めるにはどうしたらいい?」
性的少数者を表す単語としてLGBTを使っているとしたら、それは違うのではないか。
レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー以外にも、自分の性別を男性とも女性とも捉えていないXジェンダー、他者に性的感情を抱かないアセクシャルなど、さまざまな性的少数者がいるはずだ。だからLGBTではなくLGBTQ+を使ったほうが良い。「Q+」を付け加えることがダイバーシティを語るうえでは大事である。
そのようなことを意見したところ、思いがけない台詞が返ってきた。
「会社として適切なダイバーシティ推進施策を展開するために、当事者の意見が欲しい」
 
頭が真っ白になった。
ただ仕事を遂行するうえで必要な知識だから調べただけで、自分が当事者だとはこれまで一度も自覚したことがなかったのに、ボールペンを握りしめる手はじんわりと汗が滲み、私の視線は揺れ、視界が潤みはじめた。
右隣の上司が私にしか聞こえない声で、穏やかに囁いた。
「当事者にしか分からないことがあるから、会社のためにも、正直に話してほしい」
 
思い返せば大学を卒業してからこれまで、誰のことも心から愛すことができなかったことに気づいた。
異性とお付き合いした経験は人並みに重ねたものの、誰とも深入りすることができない。
どうしても、同じ寝室に入れない。
「僕のことが好きではないの?」と言われるのが悲しくて、インターネットで女性向けの大人向けショッピングサイトを探して怪しげな液体を複数購入して、大量に使用し、天井を凝視して羊の数を数えることで乗り切れると思った。
それも一時のことで、疲れているから、体調が優れないから、と何かしら理由をつけて避けつづけるうちに、自然と男性は離れていった。
 
昼下がりの会議室。雲ひとつない晴れ渡った日。眺望の良いオフィスビル。
これから話そうと思っている内容とのギャップが大きすぎて、より一層、口が重くなった。
普段から仕事でお世話になっており、軽口や陰口を言うような人柄ではないことはよく分かっている。
意を決して、発言した。
「社内の制度はすでに整っているので、私が唯一望むことは、雑談でもお酒の場でも『なぜ結婚しないの』と言われないことです」
 
一時、会議室が沈黙したような気がした。
その後のことは覚えていない。ただ、会議室を出るとき、その場にいた一人ひとりから「教えてくれてありがとう」「自分たちには全然気づかなかったよ」と、いつもより暖かい眼差しを向けられたことは覚えている。
 
それからしばらく経ったある日、LGBTについての全社e-ラーニングが届いた。
「性的少数者はLGBTだけではありません。性のあり方は、生物学的な性(からだの性)、自分の性別に対する認識(性自認)、好きになる性(性的志向)、服装や振る舞いなど自らが表現する性(性表現)、4つの要素で規定され、男性と女性どちらかではなく、グラデーションが存在します。性の多様性を表すために、LGBTQ+と表現することがあります」
教材に「Q+」が付け加えられたのを見て、瞼が熱くなった。
 
近年、ダイバーシティはダイバーシティ&インクルージョンと表されることが多くなった。
違いを受け入れてほしいということは言わない、受け入れることを他者に強要することは傲慢なように思うから。違いがあることを、その違いは百人十色かもしれないことを知ってほしい。
そう、青と白の絵の具を混ぜたらスカイブルーのような色ができる日があれば、青い絵の具の隣にあった黄色の絵の具が少し混ざってターコイズブルーのような色ができる日もあったように。
 
 
 
 
***
 
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2023-02-22 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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