メディアグランプリ

大切なお客さまと感じていただきたくて


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:六車優那(ライティング・ゼミ2月コース)
 
 
お客さまの思わずもれた声が電話越しに聞こえた。
 
「すごい……」
 
さすがに、こんな風にストレートに褒められたのははじめてで、ちょっと照れくさくて苦笑い。
私にとって、電話の取り次ぎを褒めていただくことはよくあること。
だけど……うん。
やっぱり何度褒められても嬉しい。
私の想いがぶれていないと確認できる。
 
私の仕事は、証券会社の法人事務。
入社は営業職で、支店に配属されて1か月ほどで体調を崩し、1年後には難聴になり聴力は快復したもののめまいが起こるようになりメニエール病との診断を受けた。
約2年、営業として踏ん張ってみたものの身体がついてこなくて離脱。
今でも不思議なのだけど、そんな出来の悪い私のことを、当時の支店長は「計算が早い」と褒めてくださっていて、「営業が無理なら事務へ行くか?」という支店長のひと言のお陰で、転職せずに事務の部署へ異動することができた。
 
事務の仕事を覚えはじめた頃、営業経験があるというだけで、法人部専任の事務に指名されたのが、現在の法人事務の仕事のはじまり。
法人部へ配属されたばかりの頃は、「営業をやめた仕事ができない人」というレッテルをはられていたみたいだけど、逆に一から徹底的に業務を教えてもらえたから有難かったなと思っている。
というのも、事務とは名ばかりで、ほぼ営業事務に近いのではないかと思うような業務内容だからだ。
さすがに、商品を提案することはないけれど、雑用から事務的業務だけでなく、問い合わせ対応やお客さまからの注文を受けるところまで幅広い業務をこなしていて、部署に1人で留守番をすることも今では当たり前になっている。
 
そんな私が1番大切にしている業務は受電。
あ、もちろん、お金に関わる仕事だからミスをしないということは大前提なのだけど……。
なぜ受電を大切にしているかと言うと、日々の業務の中で、事務の私が唯一、お客さまと接する機会だから。
 
受電は、お店に入るときのドアを開ける瞬間に似ていると思う。
お店のドアを開く瞬間って緊張しませんか?
ドアを開けた先に、どんな人がいるのか、どんな空間が広がっているのか、緊張しながらドアを開けると思う。
緊張しながら、お店のドアを開けて、「いらっしゃいませ。あ、いつものでいいですか?」「いつもの席あいてますよ」と言われたら、きっとほっとしますよね。
覚えていてくれたのか、ちょっとした特別扱いに嬉しくもなると思う。
そして電話は、対面と違って顔が見えないからこそ余計に緊張するような気がする。
だからこそ、私にとっての受電は、お店でいう「常連さん」や「行きつけ」的な感覚を味わってもらうことを大切にしている。
 
「あ、いつも○○(営業担当者の名前)が大変お世話になっております」
 
たったワンフレーズだけど、大切なワンフレーズ。
1番重要なのは「○○(営業担当者の名前)が」という営業担当者の名前を伝えるところ。
担当者の名前を言うことで、あなたのこと存じておりますと直接的に伝えられ、お客さまとの距離をぐっと近づけてくれるように感じる。
 
さらに、「あ、」は、さりげなく声をもらし、あなたのことに気づいたよ、を間接的に伝え、「いつも○○が〜」から声をワントーン上げて、親しみを込めて言うのがポイントだと想っている。
このワンフレーズで、「いらっしゃいませ。いつものですね!」と同じ雰囲気を作るのだ。
すると、緊張していたお客さまの声が柔らかくなり、話しやすくなっているのがこちらにも伝わってくる。
 
電話の取り次ぎを大切に想い、丁寧さを心がけるようになったのは、法人部の仕事が……いや、きっと法人部の仕事だけでなく、どんな仕事にも言えることなのだろうけど、今があるのはこれまでいろんな人が築き上げてきたのだと教わったからだ。
個人営業をしていた頃は、私のお客さま、上司のお客さま、先輩のお客さま……と言った感じで、個人ごとのお客さまという感覚でいた。
ところが、法人部へ配属されてみると、法人対法人のため、誰のお客さまではなく、会社のお客さまなんだと教えられた。
最初の営業担当者がお客さまとの繋がりを築き、その関係を引き継いだ営業担当者が関係を深めて、そしてその関係が引き継がれ続けてきたから今があるんだよと言われたとき。
私1人のミスが、これまで築き上げてきたものを壊すことに繋がるのかと、これまで以上にミスできないと感じた瞬間でもあった。
 
そんな中、これから褒められるようになる電話の取り次ぎのきっかけが訪れる。
それは尊敬する先輩の受電。今、私が愛用している「いつも○○(営業担当者の名前)が大変お世話になっております」というワンフレーズが聞こえてきた。
そのワンフレーズを聞いたとき、素直に「お客さまの会社名で営業担当者がすぐに出てくるなんて!すごい!」と思った。
 
だけどそれは、その先輩だけではなくて、法人部の営業の皆さんは、この会社は誰が担当している、あの会社へはこの商品を案内している、と自分の担当のお客さま以外のお客さまも把握していて、チームで仕事をしていた。
それに気づいた頃、上司から1人で留守番ができるようになって欲しいと言われた。
その時はじめて、私の考えていた法人事務というポジションと、上司が求めているポジションが大きく違うことに気づかされ、それがどれだけ大切なポジションで、そんなチームの要になる存在になれるのか……と想ったのをよく覚えている。
それと同時になりたいとも思った。
尊敬するこの営業の人達が築き上げていくものを、一緒に守っていきたいと感じていたから。
 
今はもう同じ部署に、そう感じさせてくれた当時のメンバーは誰一人としていない。
けれど、ずっと変わらないお客さまもいらっしゃれば、現在の上司から「こちらのお客さまは今までどうしてた?」と聞かれるようにもなった。
今の私は、配属された頃の上司が描いていた、チームの要に少しは近づけているだろうか?
時々、内線でお話しする度に、ふと考える。
そしてタイミングを見計らったかのように、お客さまや上司から電話の取り次ぎを褒めていただく機会が訪れる。
「これまでの営業の人達の想いをちゃんと守れているよ」そう教えてくれているかのように。
 
 
 
 
***
 
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2023-02-22 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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