抑えきれない衝動 <<心の処方箋>>
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:あき(ライティング・ゼミ2月コース)
「いま何時なんだろう?」
真っ暗な天井を見つめるのも日課となった。
気づけばどれくらい時間が経ったのだろうか?
眠れない夜は時間感覚を狂わせる。
いつしか暗闇に慣れた目には、うっすらと窓の外からの光が差し込んできた。
「どうしよう……」
眠れない。頭がぼーとする。
何日も繰り返しやってくる混沌とした思考は、不安や孤独、自虐や悲しみ、絶望など、あらゆるネガティブな感情を混ぜ合わせながら体の奥深くに我が家のように居座っていた。
時間は平等で、ときに残酷だ。1日のスタート、朝は必ずやってくる。
たとえ、新しい日を迎える私の心の準備がまだであっても……。
世界を優しく照らす素敵な朝を、汚い言葉で呪いながら私の心は底が見えない場所へと転がり続けていた。
そんな日が続いたある時。
体の内側からふつふつと湧き出てくる大きな、大きな衝動を感じた。
「……書きたい……書きたい……書きたい」
懐かしさとともに、大切な何かに導かれるように。
無性に食べたいものは、体に必要な栄養素なのだという話を聞いたことがある。
私にとって書くことは、心の処方箋だからなのかもしれない。
私の心と体は覚えていたのだろう。
書くことで、思考が整理され頭がスッキリした経験を。
書くことで、新しいチャレンジがしたくなる強い渇望を。
書くことで、世界の見え方が確かに変わった事実を。
実は、私がライティングゼミを受けるのは今回で2回目だ。
ちょうど一年前の1月だった。
4か月のコースを通して私は書くことの純粋な楽しさを思う存分味わっていた。
毎週の課題提出という締め切りは程よい緊張感で1週間を過ごす後押しをしてくれた。
書く内容が見つからなくなると自然と新しいものを体が求めた。
初めて行く場所、初めての経験、さらには過去や未来に対する新しい視点と発見。
ネガティブな体験や失敗も「書くこと」でコンテンツとしてネタにする面白さ。
人生のすべてを自由な劇場に変えることができるライティングの大きな魅力。
人生に悩んでいた当時の私は「書くこと」で物事を違う角度で見る視点を与えてもらった。
日々の生活を充実したものに発展させ、そしてそれを心底楽しむことができていたのだ。
そんな私も、もともと書くことは大の苦手だった。
小学校の読書感想文、皆さんは得意だっただろうか?
小学6年生まで私はずっと本のあらすじを書いていた。
「〇〇が面白かった」、「〇〇という出来事が悲しかった」などと、あらすじを要約しながら一言感想を所々に添えただけで400字詰め原稿用紙4〜5枚をいかに埋めるのかだけを考える作業だった。
ただ学校で表彰されるのは真逆の文章だったのを小さい頃から何となく気づいていた。
それは本の中の1つの論点に対して思考を広げ、問題の背景、個人の見解や今後の行動に結びつける学びなどを理路整然と発展させる文章だった。
それを肌で感じながらも……私は、やらなかった。
私にとって頭の中の考えや想いを人に知られることは、未経験でいきなりM-1決勝の生放送舞台で漫才を披露するようなものだった。
たまらなく恥ずかしく、想像しただけで思考が硬直して視野が狭まる。
何がなんでも避けたいと思うほどの、それはそれは恐ろしい対象だったのだ。
「書くこと」はそんな内面だけの思考を形に残して誰かの目に入ってしまう可能性があるもの。
どんなに本を読んでも、どんなに面白い文章を見ても、自分自身が「書く」側になることをこれまで想像すらできなかった。
まるで、テレビの向こうの世界。華やかで輝いて見えるけど、自分とは無関係のもの。
自分にできないと思い込んでるからこそ、心の奥深くでは惹きつけられる何かを「書くこと」にも密かに感じていたのかもしれない。
そんな私が大人になって出会った「人生を変える」と謳うライティングゼミ。
「人生を変える? そんな簡単なものじゃないよ」
どこか半信半疑で、それこそ何かで悩んで、苦しんで、もがいている人ほど最初にそう感じるのではないだろうか?
「く、悔しい……」
憎たらしいほど言葉どおり、私は書くことの魅力にライティングゼミの4ヶ月間取り憑かれた。
真っ白なキャンパスに向かい合う子どもの頃のワクワクがそこにはあった。
そして、魅力と同時にもう1つ、とても重要なことを学んだ。
本当に人生を変えたいのなら、何より必ず「継続すること」が大事なんだと。
そう、あれだけ楽しい毎日を過ごしたはずなのに……。
私は「書くこと」に対して、自然と自ら離れていったのだ。
はっきりと覚えている。去年の1月末のこと。
ライティングゼミ受講が終わり、この一年を最高のものにしようと強く決意し、計画も立てた。
その上で、もちろん書くことも続ける「つもり」だった。
「書くこと」で心と体のバランスを取り戻した当時の私はエネルギーに満ち溢れていた。
リモートワークで自宅で1人という環境の中で、自分を奮い立たせ続けられた。
仕事で数字という結果に何より徹底的にこだわった。
繁忙期に誰よりも追加残業して自宅で1人で働いた。
業務で必要な英語力を伸ばすために、また能力開発の一環としてプログラミング学習のために業務後や休日に1人で勉強した。
その結果、上半期の成績優秀者として昨年の夏に会社から大きく評価された。
だけど、だけど……。
私はいつも焦っていた。いつも不安だった。
自分の弱さを、自分の能力を誰よりも私自身が一番知っていたから。
私の心は知らず知らずのうちにすり減っていた。
どんなに空高く一所懸命に漕いだブランコも、下がっていくのが運命付けられているかのように私の気持ちは抗えない力で落ちていく。
そして疲弊した心が体を乗っ取るかのように、私は壊れていった。
気づいた時には戻り道がわからない真っ暗な場所に取り残されていた。
「何のために、こんなに頑張ってるんだろう?」
「誰のために、毎日頑張ってるんだろう?」
僕は、ずっと孤独だった。
何をどう頑張ったらいいのか、自分にとっての幸せが何なのかすらわからなくなっていた。
街を歩く人が、みんな輝いてみえていた。
気づいたらいつからだろう?
「書くこと」が心の処方箋だったはずなのに、私は書くことをとっくの昔に止めていた。
大丈夫、目の前の仕事を頑張っていれば、全部うまくいくと思っていたんだ。
幸せになれる。自分に自信がつくものだと。
それは、間違いだった。
私にとって1番必要だったのはライティングゼミで学んだことだった。
それは「書くこと」で日常を劇場に変えるように人生を楽しむ余裕と心の視点。
「書くこと」を継続する習慣だった。
そして、何より自宅で1人で仕事して、1人で勉強するより、新しい体験を求めて違う世界に飛び込む行動力だった。
「書くこと」を続けていたら同じ毎日だとネタがすぐに切れてしまう。
たとえ動機がそれであってもいいじゃないか。
新しいチャレンジ、違う場所、いろんな人との交流を脳が自然と求めるようになる。
失敗しても、恥をかいても、ネタにして笑ってもらったらいい!
失敗を繰り返しても最後に上手くいったらサクセスストーリーを書くのも面白いじゃないか!
「……書きたい……書きたい……書きたい」
体の奥底からの強い衝動。
楽しそうだからやってみたいという純粋な秘めた想い。
脆くて儚い心の弱さを、奥深くに秘めた好奇心や野望を。
今の私は心底『書くこと』を追い求めている。
大丈夫、あなたなら、書ける。
大丈夫、あなたなら、行動できる。
大丈夫、あなたの世界はきっと、もっと魅力的な場所だから。
***
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