メディアグランプリ

人生が変わるカレーの話


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:岩間愛(ライティング・ゼミ2月コース)
 
 
「いちごカレー」
 
この文字を見てどう思うだろうか。
いちごはスイーツ、甘いものの象徴。カレーは主食、生きるための栄養源としての役割がある。スイーツは食べなくても困らないものであり、気分を満たすための嗜好品と言えよう。
 
二つの並びを見て、皆さんは何を感じただろうか。
 
「いちごって苺?」
「想像できない」
「どういうこと?」
 
もっとストレートな言葉で言ってもらって構わない。
 
「ゲテモノ?」
「美味しくなさそう……」
「なんでそれを合わせたの?」
 
私がこの文字を初めて見たときは、とんでもなくワクワクしたのを覚えている。
知らない世界への扉が目の前に現れたような気がしたからだ。
 
近年、「スパイスカレー」という言葉はとても身近になった。
自分自身が進んで情報を集めているのもあるが、それだけではないはず。この日本にも、生活の中にスパイスが溶け込んできている。
コンビニでは名店コラボを頻繁に見かけるようになったし、カレーフェスと銘打って各地の名店を集める催しも見かけるようになった。そこには茶色くドロッとした姿だけではない。赤や黒、緑や白といった豊かなカラーバリエーション、サラサラしたスープ状から汁なしのドライなものまで目新しいカレーが多くある。
 
日本で根付いている「カレー」と呼ばれるものは、イギリスからやってきたところから始まる。植民地にしていたインドの影響を受け、自国の料理にスパイスを使い始めたところに欧風カレーの原点がある。
カレーとスパイスカレーの差は、学校給食で出されるカレーとは違う、と表現した方が分かりやすいだろうか。「カレーとは何か」についてもまた、説明するのに多くの言葉を要するため「カレーは茶色くてドロッとした、万人がイメージするアレ」と思っていただきたい。
 
私がスパイスカレーに興味を持ったのは、「スパイスを食べる」という食体験から始まる。
あれは本当に衝撃だった。見た目はキーマカレーなのに、ひき肉の中に種の状態のスパイスが大量に仕込まれており、噛むたびに気持ちよく口の中で弾けた。スパイスを直接的に感じさせるカレーが世の中には存在するのだ。
 
「これがカルダモン……!」
 
スパイスは食べられる。
「可愛いは作れる!」くらいの、当たり前のようでハッとさせられる感情が沸いた。コショウだって粒のままではなかなか口にしないだろう。
スパイスの中ではわりと知名度を上げつつあるカルダモンだが、そうは言っても「わかる〜」とはならないスパイスのひとつだ。スパイスの女王なのに。そのカルダモンとやらを初めて直接的に感じられたカレーだった。
 
スパイスを知ることができた喜びはもちろんあったが、それ以上に、私は新しい世界に踏み込んだ感覚にたまらなく心地よさを感じた。つい先ほどの、食べる直前まで知らなかった世界。たった一口が鍵となってそれは開かれたのである。
今までなんとなく消費していたカレーのことが突然気になり始めた。どうしてカレーが美味しいのかさえ疑問を持つようになった。
 
かつて、古代ギリシャの哲学者ソクラテスはこう主張した。
「無知であることを知っていること」が重要である。「知らないこと」よりも「知らないことを知らないこと」の方が罪深いのだ。
 
私はカレーの知らなさを自覚したことで、罪深さから逃れた。大袈裟な考えに至る自分の気持ち悪さはさておき、直接的なカルダモンキーマカレーで私は覚醒した。
 
それから数年経った今でもカレーは正直よくわからない。
わかることはひとつだけ。このような衝撃を与えてくれるカレーの表現者がいる世界に、幸運にも私は生きている。
 
いちごカレーもまたそのひとつだった。
ちなみにとんでもなく美味しかった。ココナッツミルクをベースとしたカレーはスパイスが効いたシチューのような仕上がりで、主食として成立していた。甘味は旨味に、酸味はアクセントになり、美味しさに振り回されているうちにカレーは消えている。
どうしてそんな組み合わせを思いついたのか、自分にはない発想に悔しささえ覚えてしまう。いちごとカレーがこのように合わさるならば、すべてのものは手を取り合って生きることもできるのではないかという、壮大な仮説さえ打ち立てられる。
 
人生は簡単に変えられる。このように、簡単に切り替わってしまう。
新しいことに挑戦しようとはよく言ったものだが、簡単にできないから困るのだ。ハードルがある、余裕はない、諦めもあるだろう。先が見えないことへの挑戦ほどそう感じさせる。
 
ではもっとハードルを低くして行こうではないか。
生きていく上で避けることができない「食」で提案したい。これほど情報が溢れていて、手軽に、身近なところから探索できるジャンルはそうないだろう。一人で始められるし、時間も奪われにくいのもいい。食べるという行為には、変わらない世界を簡単に切り替えてくれる可能性が秘められているのだ。
 
頑張らなくていい。知らない世界が身近にあることを感じるだけでも、今の人生に奥行きは生まれる。もちろんカレーじゃなくてもいい、あなたが好きな何かは、実はその後ろに更なる世界を広げて待っている。目に見えているものがすべてではないのだ。ただそれに気づけばいいだけである。
 
まあ、できることならカレーの世界に入ってきて欲しいとは思うけれど。
 
 
 
 
***
 
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2023-03-09 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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