夢で終わらせたくない夢
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記事:鈴村文子(スピード・ライティング特講)
「あ、夢だったのか」
目が覚めて、とても残念な気持ちになる。夢の中で、私は、気持ち良く走っていた。もう二度とこんなふうに走ることはできないかもしれないな、そう思うと悔しい気持ちでいっぱいになった。
今から1年ほど前、私はランニングを始めた。小さな頃から運動が苦手で、走ることなんて一番やりたくないことだったのに、テレビでホノルルマラソンの番組を観て、走っている人たちの楽しそうな様子に、私も、この輪の中に入りたいと思ってしまったのだった。ずっと、心の中にしまってあったけれど、ぽろっと夫にこのことを話したところ、夫は、「じゃあ、ランニンングをマンツーマンで教えてくれる先生を頼もう」と言い出し、私は夫と二人、ホノルルマラソンを目指すことになったのだった。のちに、ホノルルでは、ハーフマラソンも開催していることを知ったので、目標はホノルル・ハーフマラソンの出場となったが、とにかく、ランニング、というものを始めたのだ。
ランニングを始めたばかりの頃は、本当にひどいものだった。最初に、先生のレッスンが皇居であったのだが、皇居1周5キロなんて、夢のまた夢だった。300メートルくらい走っただけで、あとは諦めて歩いていた。レッスンの後、先生から、「週に1回でよいので、3分歩いて、3分走ることを3セットやりましょう。慣れてきたら、3分歩いて4分走る、というように、走る時間を少しずつ、延ばしていきましょう」とアドバイスをいただいた。そして、「毎週続けていたら、半年くらいで、皇居1周5キロ、走れるようになりますよ」と、言ってくださったので、私は、まずは半年で皇居1周5キロ走れるようになることを、当面の目標とした。
それから先生に言われたように、週に1回、ランニングをするようになった。初めは3分歩いて3分走ることの繰り返しだったが、徐々に走る時間を長く、歩く時間を短くしていった。すると、2ヶ月くらいで、1キロくらいは、続けて走れるようになったのだ。一度続けて走れるようになったら、あとは距離を伸ばすだけだ。1週間前に自分が走った距離よりも少しでも長く走ることを目指して、少しずつ、走れる距離を伸ばしていった。1キロ、2キロ、2.5キロ、3キロ……、とうとう、半年で、5キロ走れるようになった!
横浜マラソンに7キロコースが新設されたという広告を見たのは、ちょうどその頃だった。7キロかあ、まだ5キロしか走れないけど、と少し悩んで、先生に相談したら「開催まであと3ヶ月くらいありますから、大丈夫だと思いますよ」と言ってくださったので、エントリーすることを決めた。
初めて大会に出るということで、ランニングにますます熱が入っていった。わざわざ、走るために、近場の旅行に行くくらいである。旅先で6キロ走れるようになった時は、本当に嬉しかった。
ところが、横浜マラソンまであと2ヶ月となったある日のこと、私は、右足首を捻挫してしまったのだ。ランニングの練習中でもなく、会社の中を普通に歩いている時に、である。松葉杖を使うことになり、走るどころか、歩くこともままならない生活になってしまった。医者からは、全治6〜8週間と言われていたので、なんとか横浜マラソンは間に合うかと思っていたが、捻挫は一向に良くならず、結局、横浜マラソンは欠場することになった。
本当に、悔しくて仕方がなかった。300メートルも走れなかった私が、頑張って練習して、やっと7キロの大会に出られるところまで来たのに、と思うと、涙が出た。それはまるで、楽しみにしていたデートを、直前でキャンセルされたような気持ちだった。元々自分に自信がなくて、やっとの思いで告白して、デートしてもらえることになったから、服もカバンも靴も新しく買って、ネイルやヘアメイクも完璧に準備して、さあ、デートに出発だ、というときに、ごめん、今日行けない、と連絡が来るような気持ちだ。なんで? どうして私がこんな目に合うのか。これまで一生懸命、努力してきたのに。
走っている夢を見たのは、ちょうどその頃である。まだ歩くことも不自然で、走るなんて無理だった。夫に、「走っている夢を見たよ」と言うと、「捻挫が治ったら、また走ればいいじゃない」と、なんでもないことのように言われた。ああ、この人は私の悔しい気持ちを何にも、わかっていない。残念に思ったが、同時に、そうかもしれないな、とも思った。医者から一生治らないと言われているわけでもないし、きっと捻挫が治って、走れる日が来る、そう信じようと思った。夫の前向きさに、救われたのだ。
それから1ヶ月後、私は、ランニングをまた始めた。捻挫のせいで、足がパンパンに腫れていてもう履けない、と思っていたランニングシューズを、また履くことができた。それだけでも、とても嬉しかった。まずは1キロ走ることから始めてみよう。大丈夫、昨年と同じように、少しずつ距離を延ばしていけば、また、走れるようになる。そう思いながら、毎週、走り続けて、今は4キロ走れるようになった。諦めなくて、本当に良かった。今年こそ、横浜マラソン7キロコースに出場したい。そして、いつか、ホノルル・ハーフマラソンに出場するという、夢を叶えたいと思っている。
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