メディアグランプリ

311、その日私は

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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:うえひらまさ代(ライティング・ゼミ12月コース)
 
 
2011年、3月11日。
当時私は、スカイツリーからほど近いところにある会社に勤めていた。オフィスの窓からは建設中のスカイツリーが見えていて、あと1年後くらいに完成するらしいと聞いていた。
 
14時46分ごろ、今まで経験したことのないような大きな揺れを感じた。
建設中のスカイツリーのてっぺんから吊り下げられた、長い鋼板のような建設資材が、左右に大きく揺れていた。
 
仕事中に社内で流れていたラジオの番組は生放送中だったのだが、その瞬間、女性のパーソナリティが絶句し、急に音楽に切り替わった。
そのあとも彼女が番組に戻ることはなく、延々と耳ざわりの良い音楽がひたすら流れ続けたことを覚えている。
 
私の自宅は、会社から電車で30分弱の場所だったため、私はどうやっても帰れるだろうと判断され、社長に定時まで働くよう言われた。
電車が動いているか分からなかったので、私は社長の自転車を借りて帰ることにした。
その自転車はしばらく使っていなかったそうで、タイヤの空気が抜けていて、ハンドルもサドルもほこりまみれだったから、乗れる状態になるまでかなりの時間を費やした。
 
結局、自転車で会社を出たのは、19時過ぎだった。
社長からだいたいの道順を聞いたが、私は超方向音痴で、道路にも詳しくないから、ほとんど頭に入ってこなかった。
当時使っていたドコモの携帯電話は、スマホでなかったこともあって精度が悪く、また利用者が集中していたためほとんどつながらなかった。
仕方がないので、歩いている人に道を聞きながら、途中何度も迷いながら、でも脇道を使ったり、近道を探したりなどはせず、ひたすら国道を走った。
 
帰宅途中に見た光景は、ちょっとしたパニック映画のようだった。
歩道をぞろぞろと歩く、たくさんの帰宅難民たち。
どの信号機もまったく点いていなくて、車が延々と連なり、1センチも動く気配がない。
牛丼屋には長蛇の列。
コンビニの食べ物や飲み物、携帯電話の充電器の棚はすっからかんで、レジとトイレには長々と列ができている。
 
国道に面した会社の社員が、帰宅難民たちに水を配っていた。
「トイレ使ってください」と張り紙をした喫茶店もあった。
お金やテレホンカードの貸し借り、水や食べ物を譲り合うという場面も幾度も見かけた。
地震が引き起こした混乱の中で、人々が助け合う光景は今でも忘れない。
 
錆びたチェーンの自転車のペダルを3時間半必死に漕いで、私はどうにか自宅にたどり着くことができた。
一番心配していたのは、飼い犬の状態だった。
私は一人暮らしだったけど、自宅には犬が一匹いた。
当時8歳で、心臓病を患っていた。
あの地震でグラスが落ちて割れて、それを犬が踏んで足をケガしてたらどうしよう、いやそれより、もしも火事になってたら、それとも地震に驚いて心臓麻痺とか……、などと悪い妄想ばかりが頭をよぎる。
だから帰宅して、何ごともなかったような顔で「おかえりー!」と出てきたのを見たら、私は柄にもなく犬を抱きしめてしまった。
いつもより時間はかかったが、私はその日のうちに帰宅できたし、犬も無事だった。
私は心の中で、亡父や先祖に感謝した。
 
それから私は、家の中を一通り見て回った。
念のためトイレや台所で水を流してみたが、大丈夫だったことに安心した。
ガスは止まっていたが、ガス漏れもなく、自分ですぐに復旧させることができた。
我が家は築年数がとても古いマンションだったけど、地盤のしっかりしたエリアだったせいか、ベッドサイドに積んでいた本の山が崩れただけで済んだ。
 
家の中に異常がなかったことを確かめてから、私は帰宅後のルーティン、犬の散歩に出かけた。
自宅を出てしばらく歩くと、どこまで帰るのか、帰宅難民の人たちが、まだたくさんいることに驚いた。
途中で何度か道を聞かれたが、方向音痴ゆえ全く答えられなかったことがとても歯がゆく、後日地図を購入し、2年くらいずっと持ち歩いていたものだ。
ぼけっと歩いてるだけではいかんのだ。
 
311の当日は金曜日で、私は週明けには通常通り出勤していた。
会社は通常運転だったし、取引先で被害が出たところもほとんどなかった。
強い余震は数えきれないくらい続いていたし、夜中のJアラートに飛び起きたり、原発に関するおかしなチェーンメールにイライラさせられたりしていたが、自身の生活の中に基本的な部分の変化はあまりなかった。
ただ、あの非常時に、人の強さや優しさを確かに感じたから自分もそうでありたいと思ったし、方向音痴とか言ってられない状況が現実にあったことを踏まえて、日ごろから情報収集や持ち物の精査、連絡手段の確保など、自分なりの備えを考えておくようになったのだ。
 
 
 
 
***
 
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2023-03-16 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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