英語が話せても話せなくても、私は私
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:あこ(ライティング実践教室)
洋画の影響なのかどうかはわからないが、幼少期からなぜか「英語を話せること」に妙な憧れがあった。
それは私だけでなく、結構多くの人が持っているものではないだろうか。
例えば会社で、電話に出た隣の同僚が急に英語をペラペラを話し始めたら、その瞬間から同僚の株が爆上がりすることはないだろうか?
私はある。
「英語が話せるようになりたい」「海外に住みたい」「海外で英語を使って働きたい」と思っていた私は、大学で英文学を専攻するのだが、英文学を学んだところで話せるようになるわけもなく、普通に日本企業へ就職を決め、学生最後の春休みを迎えるのである。
特に必死で努力をするわけでもなく、漠然と「英語が話せるようになりたいなぁ」と思っていただけなのだが、英語とは無縁の未来を目前にして、一層憧れが増したのかもしれない。
学生最後の春休みに、私は突然カナダへ1カ月の語学留学を決めた。
人生で初めての海外旅行である。
飛行機に乗るのも初めてだった。
バンクーバーの空港に降り立った時に思ったことは、「本当にカナダってあるんだ」だった。
地図やテレビでは見たことがあるけれど、本当にあるんだ! という、初海外旅行者らしいことを思った。
1カ月はホームステイをしながら、語学学校に通うというスケジュールになっていて、私のホストファミリーは父親、母親に3歳と1歳の娘、犬のドーベルマン1匹という構成だった。
「本当にカナダってあるんだ」の次に受けた衝撃は、「本当に日本語が話せない人っているんだ」だった。
日本で受ける英語の授業では、英語で授業が行われたとしても、実は外人の先生も日本語がわかっていたり、どうにかして日本語で助けてもらえたりしたが、このホストファミリーは日本語が話せないので、本当に会話ができず、このどうにもならない状況が衝撃だった。これが語学留学の醍醐味なのだろうが、本当に辛かった。
辛すぎて、毎日ドーベルマンに日本語で話しかけていたほどだ。
毎日通う語学学校では、自分がこのクラスにいることが不思議になるほど、周りの生徒が英語が話せるクラスに割り振られた。クラス分けのテストを頑張りすぎたせいだろうか。語学学校に来る必要など無いように思える生徒に囲まれていた。
同じクラスに日本人はいない。
20年以上前の出来事なのに、今でも鮮明に覚えている。
授業中、隣の人と組になって何かを一緒にやらなくてはいけないことがあったのだが、先生の説明が全く聞き取れず、とりあえず「こんな説明してた気がする」と思ってやっていると隣の子に「What are you doing?(何やってんの?)」と呆れられたのである。
もっと優しくしてくれてもいいのにと思いながらも、言葉が出てこなくて、言い返すことも言い訳をすることもできなかった。
別の日には、朝教室に入ってきたクラスメイトのアレックスに、勇気を振り絞って「Good morning, Alex」と声をかけてみた。すると優しいアレックスは「Good morning, Ako」と返してくれるのだが、その後に続けて何かを言うのだ。私の顔を見ながら。
挨拶以外に何か言うのは止めて欲しい。
何を言っているのかわからないから、見つめられても返せない。
とりあえず微笑むが、きっとそれは答えになっていない。
その日から、挨拶の後ろに名前を付けるのを止めた。
優しくされたらされたで、辛い。
慣れとは怖いもので、もう少しで1カ月が経とうかという頃、相変わらず英語は聞き取れないが開き直っている自分がいた。
授業中クラス全員でゲームをやらなければいけない場面もあったが、ブツブツと日本語で「えー、全然わかんないんだけど」と独り言を言ったり、全然わかっていないけど、とりあえず手を挙げてクイズに答えたり、図太さを身に着けたのだ。
「コイツわかってないのに手挙げてる!」と先生に言いつけるクラスメイトもいたが、気づかないふりをした。そんなことで怯んでいたら、勝負に負けてしまう。
そんな風に毎日を過ごしていて思ったことは、英語が話せるということは手段に過ぎないということだ。
英語が話せれば、コミュニケーションを取れる範囲が広がるし、世界も広がるだろう。
しかし、英語が話せれば人より偉くなるわけでも、すごいわけでも、最強になるわけでもない。英語が話せるという「武器」を手に入れるだけなのだ。
話せたとしても、それをどう生かすか、どう使うかが問題であって、結局は自分という人間にかかっている気がしたのだ。
英語が話せるようになることに憧れ、話せたら人生が180度変わるのではないかと思っていた私の価値観は、そんな風に変わったのだった。
ホストファミリーの1歳の女の子も、私の1カ月の滞在の間に少しだけ会話ができるようになった。
私が「Good morning」と話しかけると、「あ」とか「お」で返事をしてくれたり、「Do you like it?(これが好きなの?)」と話しかけると「やぁ」とか「あぁ」と返事をしてくれるのだ。
私にとっては、これで十分「英会話」だった。
英語漬け生活を送っていると、ある日突然英語がわかるようになるということを聞いたことがあるが、残念ながら私にはそれは訪れなかった。
せっかくの語学留学も、私の英語力には大した成果をもたらさなかったが、少なからず母国語以外の言葉で意思の疎通ができることの充実感を味わい、何より「英語はただのツールに過ぎない」と気づけたことが大きな収穫だったと思う。
そんなことを言いながらも、いまだに憧れは抱いたままだ。
人間として成長した今、その武器を身に着けるために、そろそろ英会話教室にでも通おうかなと思っている。
***
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