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トイレで英語が好きになった話~社交的でない子どもの英会話~


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記事:ネナムラ(ライティング・ゼミ4月コース)
 
 
「ハウ・トゥー・フラッシュ?」
 
これは、トイレの水の流し方を英語でたずねるフレーズだ。
 
はずかしながら、私にとっては思い出の言葉。
はじめて自発的に話した英語だからだ。
そのときようやく、英語って楽しいなと思えるようになった。
そう思うまでに、英語を習い始めてから4年近くかかってしまった……。
 
 
当時、英語の授業は中学から始まる時代だった。
私が英語を始めたのはそれより早くて、小学3年のとき。
学習と実践の二本立てだった。
 
学習のほうは、特別なものじゃない。
父が近所の本屋で普通の参考書を買ってきた。
「来週までに○ページまでやっておきなさい」と言われ、やっておかないと怒られる。
だいぶ強制的ではあったけれど、基礎的な単語や文法はこれでおぼえた。
 
実践の機会には、とても恵まれていた。
父が外国人の友人をよく自宅へ招いてくれたのだ。
数週間ステイした人もいる。
父は私のために、せっせと外国人とのコネを作ってくれていたようだ。
私が外国人の来訪を喜び、楽しく交流すると思っていたのだろう。
 
でも、現実は甘くなかった。
外国人が来ると私はその前に座らされ、「話してごらん」と言われる。
すると、私は貝になる。
かろうじて自分の名前と年齢を言い、あとは下を向いてしまうのだ。
私は、おしゃべりが苦手。
まして、はじめて会った大人の外国人との会話は、共通項がなくて話を弾ませるのは難しかった。
 
子どもなりに気を遣い、「お客さんと話さなきゃ」と思った。
父からも「黙ってちゃダメだ」と怒られる。
それでも、どうしても話せないので、泣いてしまったこともあった。
 
そんなことばかりだったが、父はめげずに何度も何度も外国人を連れてきた。
むしろ、英語にも外国人にも、苦手意識が高まる一方だったのだが……。
 
 
ところが、英語を始めて4年目、思いがけなく転機がやってくる。
冒頭で触れた、トイレでの出来事だ。
 
当時、私は小学6年。
家族ではじめての海外旅行をしたときだった。
到着した空港で、父に「1人で行ってこい」と言われて行ったトイレで、私は窮地に陥った。
 
水洗レバーのない、当時としては最新式のトイレだった。
この記事の画像のような手のマークと「アプローチ・トゥー・フラッシュ」という文字が壁にあり、そこに手をかざして流す仕組み。
絵と「フラッシュ」の語感で意味はなんとなく分かったけれど、私の手のかざし方が良くなかったらしく、水が流れなかった。
 
個室の中で1人、しばらく悩んだが、ついに人に頼ろうと決心した。
何かのやり方を聞く表現は「ハウ・トゥー・~」だと知っていた。
それに「フラッシュ」をくっつけてみよう、と。
 
個室のドアを開けたら、そこにいたのは厳しそうな修道女。
グレーのベールと丈の長いワンピースを身にまとった、険しい表情のおばあさんだった。
肝が縮む思いだったけれど、言ってみた。
 
「ハウ・トゥー・フラッシュ?」
 
すると、修道女さんが険しい顔のまま個室に入ってきた。
便器の中をジロッと見る。
そして、壁に手をかざし、水を流してくれた……!
 
ささいな出来事だったが、今も忘れられない。
おっかなそうな外国人でも、英語を使えば話を聞いてくれることを知った。
そのために、知っている表現や新しく知った単語で文を組み立てるのは、ゲームみたいで面白いと思った。
私にとっては、英語を学ぶ意味と楽しさを知った瞬間だったのだ。
 
 
この一件の後、私の英語への取り組みは、ゆっくりとだが自発的になっていった。
自ら親にお願いして英会話レッスンに通わせてもらったり。
洋楽の歌詞をおぼえて歌ったり。
海外ドラマを繰り返し見て、セリフをまねたりもした。
 
結果、受験でも就職でも、ありがたいことに英語が武器になってくれた。
今では、英語を毎日使う仕事に就いている。
 
それでも、相変わらず初対面の人とおしゃべりするのは苦手だ。
何を話したらいいか、本当に困ってしまう。
仕事となれば、いくらでもコミュニケーションがとれるのに。
 
 
私のようなタイプの子どもに英会話の機会を与えるときは、「交流」よりも「目的達成」を主眼にしたほうがいいのだろう。
特に、問題解決の状況がいい。あのトイレのような。
 
外国人がよく家に来る環境は、たしかに恵まれていた。
しかし、ただ「話せ」と言うのではなく、その外国人と私の2人で買い物に行かせるとか、一緒に料理をさせるほうが良かったんだろう。
そうすれば私はもっと早く、英語を習得する意義や楽しさを見いだせていたかもしれない。
 
とはいえ、「買い物や料理のほうが良かった」なんて、今だから言えること。
父が私のために英語を使う機会を作り続けてくれたことには、やっぱり感謝しておきたい。
もちろん、あのとき「トイレくらい1人で行け」と言ってくれたことにも。
 
 
 
 
***
 
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2023-05-17 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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