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刺身を買うならサクで買おう


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:工藤洋子(ライティング・ゼミ2月コース)
 
 
5月。
といえば私にとっては初ガツオのシーズン。
ちょうど行き付けの魚屋の近くに用事があったので、寄ってみた。
 
「お! 久しぶりやねぇ。今日は何にする?」
 
大将が早速声をかけてくれる。
 
実はこの店は料理屋など玄人も仕入に来る魚屋で、店頭には、あの魚といえば、の有名人、さかなクンのサインも置いてある。スーパーの鮮魚コーナーとは段違いの品揃えで、魚好きの私としては多少遠くても近くにくれば是非寄りたい場所だ。
 
早速今日のオススメを聞いてみる。
 
魚屋では、いや本当は肉屋でも八百屋でも、専門家の話を聞くのはじつにためになるものだ。ここの大将もときどき店頭にいる大将のおかあさんも聞いたら色々教えてくれる。私にとってはプロしか知らないような魚の知識をあれこれと仕入れることができる貴重な場所だ。
 
「今日は暑くなりそうだから、何か刺身が食べたいんだけど、何かある?」
 
「それならさっき料亭さんが買っていった酔いブリの半身、買っていかんね?」
 
おおー!
酔いブリ!!
 
酔いブリとは今流行りのブランド魚のひとつで、私の住む大分県南部にある佐伯市やその辺りで酒粕をエサにもらって養殖されたブリだ。以前もこの店で買ったことがあるけど、脂がのっているのにしつこさは全然なく、かえって旨みが際立つような大変美味なブリだ。
 
「じゃ、それちょうだい。他になんかある?」
 
ブリの半身だけで十分ではあるのだけど、この魚屋に来たからにはもう一種類ぐらい食べたいところだ。ブリはご存じ青魚。だから合わせるならやはり白身の魚がいいか、それともアジにするか。
 
そう迷っていると、大将から声がかかる。
 
「それなら、このタイがいいよ。これも他の料理屋さんが買っていった半身だから、安くしとくよ」
 
ふ。
うまいな、相変わらず大将は売るのが。
私が結構な魚好きで、しかも違いの分かるオバサンだと知っているのでなお押しが強い。スーパーでパックの魚や他の食品を買うのに慣れた人の中には、こういうやりとりで、「じゃあ、これもどう?」と言われると、断れないからイヤだ、という人もいる。実際、私もここの魚屋をずいぶん多くの人に勧めているけど、慣れていないとなかなかこの押しの強さに慣れないようだ。
 
私みたいな常連でも、今度は魚屋の大将の方が「この客はひと味違うものを買っていく人だ」と思われているから色々なものを勧めてくる。何しろ顔を出すと、「今日は変わったところでスズキのいいのが入ってるよ」と、開口一番話しかけられる。たまにしか来れないけど、私が上客であるのは間違いない。
 
結局、料理屋さんの買ったタイの半身も刺身でいただくことにする。タイは大きい方がやはり味がよい。アジは大きすぎると味がぼやける感じがするが、タイは小さいものは身に旨みが少ない。真鯛の大きめサイズは値段も相応だけど、半身でしかもアラまでもらえるなら、悪くない。
 
「分かった、じゃあ、タイももらおうかな。ところで……カツオはないの?」
 
青魚は酔いブリを買ったのに、やはりこの時期はカツオが気になる。
 
「ん? カツオ? もちろんあるよ。さっき半身をさばいたところだから、これも持ってく?」
 
なんだあるのか、あるなら勧めてくれよ。
いやまあ、初ガツオというにはいささか時期が遅めでもあるから、仕方ないか。
 
「これは鮮度抜群だよ。臭みも全然ない。タタキにするのももったいないぐらい。刺身を断然オススメするねえ」
 
なんと鮮度のよいカツオとな?
そいつは捨て置けない。
 
カツオ、と聞くと、青魚の苦手なタイプの人は、「結構臭うんでしょう?」と嫌がることもあるが、鮮度のいいカツオ、しかも初ガツオとくりゃ問題ない。青魚は味も特徴があるけど、苦手な人はたいてい少し鮮度の落ちた青魚の脂が酸化したニオイを嫌がっていることが多い。
 
しかも初ガツオ、ときたもんだ。
 
カツオは回遊魚で春に太平洋から黒潮と共に日本南岸を北上する。北から流れる親潮と出会ったら、豊富なプランクトンに寄せられてくる他のお魚で美味しくお食事をしてからUターンして戻ってくるらしい。その往路である春の時期は身に脂がそこまでのっていなくてスッキリした味わい。逆にたらふく食べて戻ってくる秋の戻りガツオの時期は、脂がノリノリで濃厚な風味となる。
 
江戸の昔は初物を食べると寿命が伸びると言われて、江戸っ子は嫁を質に入れても初ガツオ、と言ったそうだが、ここは九州だし、私はどちらでもよい。サッパリしたカツオも脂の乗ったカツオも等しくカツオだ。平等に扱わねばカツオに失礼ではないか。
 
という訳で今晩の夕飯は刺身三種盛りとなった。
 
タイの身は柔らかくてほのかに甘味がある。白身のクセのなさでその甘さが引き立つ。酔いブリは以前にも食べたことのある通り、少しコリコリ感のある鮮度のよい身の食感が心地よい。
 
そして初ガツオは予想通り臭みは皆無。ブリと見た目の色は似ているが、食感は柔らかめで口に入れると独特のカツオの風味が広がる。カツオはタタキにしたりして薬味をたっぷり入れて食べるべし、とよく言われるが、ここまで鮮度よく、しかも適切に血合いが処理されたものはただただ醤油と少量のわさびで食すのが一番カツオそのものの味を楽しめると思う。
 
刺身を存分に味わいたければ、切る前のサクの状態のものがよい。刺身のパックを買うより鮮度をギリギリまで保つことができる。しかし何よりもよいのは、サクで買った方が価格的にかなりお得なので心ゆくまでたらふく刺身を楽しむことができる。
 
魚好きの人も、またパックの刺身しか食べたことがない人も、一度サクで買ってうちで食べる食前に切ってみて欲しい。その味の虜になる人もきっといるだろう。
 
求む、同志!
 
 
 
 
***
 
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2023-05-17 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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