美人ではないわたしが持つ特権
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記事:堀部佳野乃(ライティング・ゼミ2月コース)
わたしは美人ではない。
だが美人ではないがゆえの特権を持っている。
それは、「顔フィルター」というものだ。
顔フィルターとは、外見だけに囚われて相手の真実を見ようとしない嫌な人をろ過してくれる優れもの。
わたしがなぜ、美人ではない自分の顔に対してこのような名前を付け、ポジティブに捉えられるようになったのか。
それは、学生時代に経験した苦しみがきっかけである。
「ダイエットした方がいいんじゃない?」
わたしはこの一言に10年以上苦しめられてきた。
中学1年生の頃に言われたこの言葉をきっかけに、見た目を極度に気にするようになった。
人前で話すと顔が真っ赤になって「タコ」というあだ名が付いたこともあったし、写真を撮られることも嫌いになった。
小学生の頃は、バリバリ水泳をしていたためか比較的スラッとして、引き締まっていたわたし。
だが、水泳を辞めたとたん、思春期の女子特有のふっくらとする時期が訪れた。
まあ、人間の女の子の成長過程では当たり前のことなのだが。
わたしが通っていた中学校はとても田舎にあった。
生徒数も少なく、必然的に部活動の数も少ない。
なのに、部活動に入部することが必須の学校だった。
往復2時間かけて通っていたピアノと両立するために、たった1つしかない文化部である園芸部に入った。
まあ、実際は土日も練習がある運動部が嫌だったというのもあるけど。
わたしが入部したとき園芸部に入ったのは、約60人いる一学年のうちわたしを含めてたったの2人だった。
あと残りの人たちはみんな運動部。
毎日バリバリ運動している人たちと、お花を育てたり料理を作ったりする園芸部と、運動量に大きな差があるのは一目瞭然だった。
案の定、周りはどんどんスリムになっていく。
それに比べて、わたしはなんだか太って見えた。
標準体重だったのに!
そうすると、周囲の見る目も変わってきた。
小学生の頃は普通に友達として付き合っていた子が急によそよそしくなったり、ほとんど話したことのないような子に煙たがられたり。
だからわたしは、可愛くて目立つ子に近づくために、努力をした。
真面目なイメージを払拭するため、眼鏡からコンタクトに変えた。
少しでも目立つ子と同じように見られるために、スカーフの巻き方や、靴下の長さ、制服の着方など、見た目を必死に変えた。
目立つ子たちと仲良くなりたくて、目立つ子たちのグループに付きまとった。
すると、少しずつ目立つ子たちの輪に入れるようになり、目立つ子たちと友達になれた。
やっとわたしは、下から上に這い上がることができて、楽しい学校生活を送れるようになったんだと嬉しかった。
しかし、わたしの言動はそれだけにとどまらず、エスカレートしていった。
今度はクラスではあまり目立たない子たちの悪口を、目立つ子たちと言うようになった。
悪口を言っている相手が、ほかでもない、わたしの外見に関わらず友達でいてくれた子たちだったことに全く気づかずに。
時は過ぎ、中学3年生のときに県外へ引っ越すことになった。
自分を変えて、無理矢理繋ぎ止めた人間関係はそのタイミングですぐに途切れた。
だけど、ふっくらする前と後と、変わらずにずっとそばにいてくれた友達とは、今でも関係が続いている。
わたしの生涯の友と言っても過言ではない。
これらの苦しい経験を経て、ふと気づいた瞬間があった。
「わたしの顔が、嫌な人が寄ってこないようにフィルターの役割をしてくれているんじゃないか?」と。
今わたしのそばにいてくれる友達は、わたしの外見に関わらず、内面を見てくれていると感じる。
わたしがどんなに醜い姿になったって、わたしの味方でいてくれるだろう。
そんな素晴らしい友達に出会えたのは、やっぱりこの自分の顔だからだ。
この自分の顔で生きてきたからだ。
外見だけに執着し、本来の自分を見失って、人を上とか下だとかランク付けしていた、かつての自分が本当に情けないし、馬鹿らしいし、恥ずかしい。
外見だけで判断されることの苦しみを一番わかっていたのは自分であり、そんな人にはならないと誓っていたはずなのに、結局自分もそんな人間になっていた。
でも、その経験がわたしを成長させ、自分の外見を肯定的に捉えられる気づきを与えてくれたのは言うまでもない。
ありがとう、顔フィルター!
今日、街で見知らぬ男性に声をかけられた。
「可愛いね、ご飯行かない?」
人生で初めてナンパされたのである。
もちろん断ったが、ナンパとは無縁の人生だと思っていたから、予想外の出来事になんだか心がむずがゆい感じがする。
一方で、顔目的で近づいてくる人はいないと謎の自信があったためか
「あれ? わたしの顔フィルターの効力は……?」
と複雑でもある。
今回書いた一連の話を、今日街でナンパされたわたしが言うのは説得力が無いのだろうか……(笑)
***
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