評価の低い病院に飛び込んだら、新たな楽しみを見つけた
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:くろねこ(ライティング・ゼミ4月コース)
その日、私は焦っていた。
なんせ午後から面接が立て続けに4本。
受ける方ではない。面接官側だ。
なのにくしゃみが止まらないうえに、鼻から流れだそうとする水分も止まらない。目は赤くなりかゆみも強く、取り出して水道でじゃぶじゃぶ洗いたい! と思うほどだった。正体は花粉症だ。
このご時世で面接はオンラインだったが、こればかりは隠しようがない。画面にいきなり鼻にティッシュを詰め込んだ面接官が映し出されたら、どんなに入社意欲が高くても志望度はガタ落ちだろう。それどころかこの失態をネットに書き込まれてしまうかもしれない。それだけは絶対に避けなければならない。とにかく早く専門家に助けてもらおう。
時間がない。会社から一番近い内科にかかることにした。
スマホで検索してダッシュで向かう。ちらっと見ると口コミの評価が5点満点で2.2点。普段、口コミ信者な私は一瞬ひるんだが、背に腹は替えられない。思い切ってその病院に飛び込んだ。
待合室には誰もおらず、受付を済ませるとすぐに診察室に呼ばれた。
待っていたのはサバサバとした感じのお医者さんだった。
私が症状を伝えると、
「あーほんとだねぇ。目が赤いし、鼻も真っ赤。そのうち喉もかゆくなって赤くなるよー」
と嬉しくない予言をしてくれた。
去年服用していた薬を伝えると眠くなりにくいという別の薬を提示される。それは助かる。
推薦された薬を選択すると先生は、はーい、お大事にー。と返事をしてくるりと私に背を向けてパソコンに何やら入力し始めた。もう待合室に戻っていいよ、ということらしい。
その後受付で薬を受け取り、会計をして病院を出た。院内に足を踏み入れてからわずか10分ほどの出来事だった。こんなに早く通院ミッションをクリアしたのは人生で初めてだ。いい病院だったな、と思いながら会社に戻った。薬を服用したおかげで(目薬ももらった)、数々の症状はいくぶんやわらぎ、落ち着いて面接に参加することが出来た。
先生への感謝もすっかり頭の片隅に追いやられたその日の夜のこと。私は来週の飲み会のお店を検索していた。口コミの評価が高い順番に並べて上から順に比較検討してみる。何件か電話をしてみるも、高評価のお店は最近どこも満席続きだ。どうしようかな、と悩んでいる最中にふと、あの病院の口コミは評価が低かったことを思い出し、気になって口コミの中身を見に行ってみた。
「先生の診察が30秒もなかった」
確かに。すごく早かった!
「会話が短く、親身になって話を聞いてくれる雰囲気がなかった」
「事務的で冷たい印象を受けた」
「背中を向けて、すぐに出ていけと言われているように感じた」
……なるほど。
実際の文言は異なるが、上記のようなニュアンスの記載が多数あった。
きっとこのような口コミをした人たちは、不安な気持ちを抱えて病院に行ったのだろう。悪い病気なのかな、どうしたらいいんだろう、先生にじっくり相談したい、そんな気持ちがあったのかもしれない。それが叶えられず、悲しい気持ちになって、もしかしたら怒りに変わったりして低評価につながったのかもしれないと想像する。私も同様の状況であれば、体をこちらにむけて目を合わせながらじっくり話を聞いてほしいと思う。総じて低評価な病院だったが、今回の私の判断基準ではなによりもスピードが上回っていた。ただそれだけなのだが、結果として私にとっては良い病院だったという評価になった。
そもそも口コミはその人の主観によって判断された書き込みだ。
大事にしたい価値観が満たされなかった時、ネガティブな印象となる。逆をいえばその観点が特に重要ではない場合には、その出来事はマイナスにはならない。ときにはプラスに転じることさえある。同じ人ですら状況に応じて評価基準が変わったりするのだから、人が変われば言わずもがな。結局は「良い」の判断を他人に委ねるのではなく、自分にとっての「良い」の基準を持つことが幸せな選択につながるのだろう。
そこまで考えて、途中で放置していた飲み会手配に戻る。
飲み会の同席者は気心の知れた元同僚だ。世の中の食べ物は「美味しい」か「すごく美味しい」の2択しかない! と言い切る幸せな舌を持つ彼だが、お酒はちょっとだけ良いものを使ってほしいらしい。ただ水のように飲むのでお値段は控えめが嬉しいというタイプ。さらによく通る声なので落ち着いた静かなお店はやめたほうが良さそうだ。
……みつけた。口コミを見てみると低評価の内容が「安いが、料理はそれなり」「店内がうるさくて会話しにくい」ちょうど良さそう。今回はここに決めた!
結果的に彼は大満足だった。気軽に入れるお店だけれど、割りモノに使うお酒はほんの少し良いものを使っている。ただお料理が安いのでお手頃なお会計となった。マイナス情報も使いようなんだなという学びになった。
あれ以来、低評価の口コミから情報を読み取ることが楽しくなった。
その中からおっ、と思う掘り出し物のお店や施設を見つけることもある。
正直に言えば大失敗することもあるが、大抵は失敗を一緒に笑える友人とともに行くのでそれはそれでネタになって楽しい。高評価のお店しか行かない! という方もたまには悪い口コミのその先を想像して検証する旅にでるのはいかがだろうか。いつもと違うワクワクとドキドキが訪れること間違いなしだ。
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