メディアグランプリ

おもちゃ屋で繰り広げる子どもとパパの攻防戦


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:久田 一彰((ライティング・ゼミ6月コース)
 
 
「また始まったか。これはいつまで続くんだろうか」
 
おもちゃ屋の前で泣き叫ぶ息子を見ながら、これが何度目だろうかと思う。炎のように激しく泣く息子、ショッピングモールの床に寝転び、足と手をバタバタさせながら、「おもちゃを買ってもらえるまでは、ここからは離れないぞ! 私の要求を叶えてくれ!」、という一種の固い決意を感じる。この風景も何度見たことか、そしてここから家に連れて帰るまでが長いのである。
 
我が家のルーティンとして、月曜日は私が息子を幼稚園に送り迎えすることがある。迎えに行った後は、車で近くのショッピングモールまで家族3人で、ピクニックのように買い物・食事を楽しむことが多い。
 
そこには、ちょっとしたスペースに木製の滑り台があり、ひたすら登って滑ってを繰り返せる。シンプルながらも子どもには楽しい時間なのだろう。汗びっしょりになるまで走り回り、水筒のお茶をすすり、タオルで汗を拭いてもらいながら、長距離マラソン選手のように延々と繰り返している。
 
ひとしきり遊んだ後は、満足げな顔と共に一息つき、私の元へと寄ってくる。こんなときはまだマシで、いつもは「帰るよ」と言っても、私の前を特急電車が通過するように走り去っていく。そんな時は、強粘着テープで貼られたシールのような息子を引き剥がすのに苦労する。
 
「おいしいもの食べるよ」と「おもちゃ見に行こうか」が今のところ、息子を引き剥がす呪文だ。
 
「おいしいもの食べるよ」に反応したときは、サッカー選手のようにフードコートへのドリブルが始まる。道行く人々を右へ左へと抜き去る。抜き去った後は、ゴール目がけて一直線に走る。その速さは3歳児とは思えない、F1サーキットをトップギアに入れたフェラーリのようで、私が走ってもなかなか追いつかない。到着した後は、「アイシュ」か「わ」、と言ってアイスクリームかドーナッツを要求する。
 
要求が通った後はなんとも言えない満面の笑みで、アイスクリームやドーナッツを頬張っている。まるで天国にいる天使の笑顔のようなほほえみだ。こちらまで幸せな気分になる。
 
そしてもうひとつ、「おもちゃ見に行こうか」に反応した後は、地獄のような展開が待っている。こうなるだろうな、と結末は分かっているのだが。
 
「今日はおもちゃは買わないよ、いい? 約束ね」と息子に言い聞かせて、おもちゃ屋へ入る。映画に出てくるような恐竜のオブジェが門番のように口を開け、入ってくるお客を迎えてくれる。
 
季節のおもちゃや、今流行りの戦隊モノ、ヒーローもののフィギュア。変身グッズに作品に出てくる主人公たちの武器や道具が並んでいる。さらに奥へ進むと、プラモデルやラジコン、そしてミニカーや電車のおもちゃが、「さあ、私たちを連れ帰ってくれ」と言わんばかりにディスプレーされている。
 
今流行りのアニメで登場するキャラクターや、乗り物、私も遊んだ小さなブロックのおもちゃなどもある。親も子も楽しめる空間としてのおもちゃ屋さんは、子どもだけでなく大人も欲しいと思わせるような魔法がかかっていて、どれも魅力的に見える。
 
息子は、次から次へと渡り鳥のように、おもちゃのサンプルで遊んでは移動するのを繰り返す。毎回来てもディスプレーの内容はそんなに変わっていないのに、真剣な表情でおもちゃ選びを繰り返す。おもちゃだけでなく学習用の知育玩具や絵本、プログラミング学習に必要そうな子ども向けパソコンのおもちゃまである。
 
ひと通り物色して満足した後は、ミニカーがびっしり並んでいる棚にくる。息子から見たら自分の背丈より遥かに高い場所まで、おもちゃが並んでいるのは、宝を見つけた海賊が喜ぶような気持ちなのだろう。どの財宝、ミニカーにしようかを上から下まで見ている。
 
上までよく見えない時は、「だっこして」と言って、私をクレーン車がわりにして高いところのおもちゃまで物色している。そして、「これもってる」とか「かっこいいな」と私に聞こえるように独り言のように呟き、ニコニコしながら買いたいミニカーを私に見せてくる。
 
「どこで覚えたんだ、その高等技術のプレゼン能力は」と思いながらも、息子に今日の約束を聞かせる。
 
「聞いて、今日はおもちゃ買えないよ。こないだ買ったでしょ。だから今日は見るだけだよ。入る時に約束したでしょ」
 
言った途端に、息子の顔色がみるみる変わる。
 
「やだ、買う」
「今日はだめ、また今度ね」
「いやだーーーー」
 
導火線に火がつき、30連発の花火が噴火するように、泣き叫ぶ息子。ボリュームが最大になったテレビをいきなりつけたような声が、おもちゃ屋に響き渡る。床に寝転がり、手足をばたつかせる息子。
 
「泣いてもダメだよ、今日は帰る」と急いで息子を抱き抱えるが、息子はスライムのように体をくねらせ、私から逃れる。
 
それでも逃すものか、と強く抱き抱える私。私のメガネを剥ぎ取り、マスクを引き離す息子。おもちゃ屋の中で繰り広げられる、綱引きのような喧嘩のような掛け合い。髪の毛は引っ張られ、メガネは投げ捨てられ、マスクはヒモが引きちぎれてはらりと床に落ちたとこで勝負がついた。
 
「分かった分かった、今日だけだからね」と言いながら、息子をなだめる。降参の白旗を挙げたのは、私だった。
 
今日だけ、と言いつつもこのやりとりを何度したことか。その度に「甘い親だな」と思いながら、今日も我が家にミニカーコレクションが1台増えるのだった。
 
 
 
 
***
 
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2023-06-29 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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