この色はどこから?
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:工藤洋子 (ライティング・ゼミ6月コース)
目の前にあるのは、ふわりと柔らかい感じのピンク色の液体。
ピンクといってしまうにはいささか薄い。
桜の花の色よりは少し濃いめか。
かといって、春のツツジの赤紫色よりははるかに薄いようだ。
「これは何だと思いますか?」
友人の酵素ドリンク手作り講座の場でのことである。
「きっとこれが分かる人はあまりいないでしょうね」
いや、確かにこれは分からん。
一体、何だろう?
酵素ドリンク、一時期流行っていたので自分も家で手作りしたことのある人もいるのではないだろうか。素材を砂糖で発酵させるもので、初夏の季節に作る「梅ジュース」が一番知られているだろう。簡単なのは梅やその他季節のフルーツを使う方法だが、素材が手に入るようなら野草で作るのが一番面白い。
何が面白いのかって?
野草は生命力が強く、成分がよく抽出される上に思いもかけない色が出ることがあるのだ。先ほどの薄紅色もその類いだ。
「これはタケノコの皮を発酵させてできたものです」
ええー?
タケノコとはまた一体どこにそんな色素が入っているというのか?
食べるタケノコは白、せいぜい白っぽい黄色っていうぐらいではないか。
しかも、皮だけ?
みなさんももし直にタケノコの酵素ドリンクを見たら、きっとそう思うだろう。
初めて教えてもらったその日に私は言われた通りにタケノコで酵素ドリンクを仕込んでみることにした。幸運にも我が家は田舎住まいで、梅雨まっただ中なその時期はマタケ(真竹)がどんどん生えてくる頃だった。マタケは根元の太いどっしり型の孟宗竹とは違い、どちらかというと縦により長く、タケノコの時点で既に竹のような姿をしている。
実際、早く取ってしまわないと数日で「竹」になってしまう。「雨後の筍(タケノコ)」とはよく言ったものだ。雨を受けての成長が並みではない。
そのタケノコ酵素の作り方は、いたって簡単だ。
まずタケノコの皮を剥く。どの部分を使ってもよいが、タケノコの穂先を必ず入れること。穂先とは皮を剥く前のタケノコで一番尖っているところのことだ。槍ならばまさに先端の刃の部分、ロケットに例えるとちょうど先っぽのアポロチョコの宇宙船部分になる。
植物には成長点という部分が存在する。これから芽を出す部分や葉がどんどん伸びていく枝の先っぽを指す。この部分は植物にとって生長するためのエネルギーが集まっているところだ、という。その部分を酵素ドリンクに取り入れることで、ますます元気のよい酵素ドリンクになるとのこと。
その穂先をよく見て気が付いた。
「タケノコの穂先って、ピンクじゃん!」
確かにそうだった。
端午の節句でチマキを包む皮のような茶色い部分を取り除いて、先の方をよくよく見てみると、なるほどトウモロコシのヒゲのごとくボサボサと飛び出した辺りがほのかに紅色を帯びている。
「ははーん、この色が溶け出すんだな」
やっと私も納得した。
タケノコはその身のうちにピンク色という色素をきっと持っているのだ。以前、染織家の方が花の咲く前の桜の木の樹皮から、桜色の染め物を作るという話を聞いたことがあったが、きっとそれに近いことに違いない。だから、これを砂糖水に漬ければ、ピンクの色がどどーんと抽出されるのだろうと思った。
そのまま指示通りに仕込んで一週間。
おやおや?
まだまだ仕込んだ液体は透明なまんまだな?
それからさらに一週間。
少しは色が付いたようだが、まだピンクと言えるほどではない。
何か間違ったかな?
いや、ニオイを嗅いでも腐ったような感じはしないし、カビなど生えてる様子もない。とにかくもう少し置いてみようと、もう一週間置いてみた。
すると、まあ。
なんだか唐突に薄紅色がくっきりと現れてくるではありませんか!
「よかった〜、失敗じゃなかった」
発酵、というと、なんだか液体がブックブクするような気がするが、このタケノコの場合はそんなこともちっともなく、ただただ静かに発酵が進み、色彩も皮から抽出されていくようだった。
さて。
飲むために作っていたのだから、やはり味見をしてみなければならない。
出来上がった、と思われる液体を炭酸で割って飲んでみる。
第一印象は……酸っぱい!
かなりの酸味がある。
味としては塩気こそないものの、発酵の進んで白菜漬けのような感じ。といっても、お酢のように鼻を突くような強烈な酸味を感じるほどではない。酸っぱい、っていうと、これはひょっとして乳酸菌だろうか。
調べてみると、タケノコはそもそもが乳酸菌が豊富な植物らしい。
だから、表面に酵母が付いていて発酵するリンゴやブドウなどの場合と違い、発酵は極めて静粛に、そして味は酸味が強い、ということらしい。そもそも酵母が付いていたら、それはお酒になってしまう。リンゴはシードルやカルバドス酒、ブドウはワイン、と言われてみれば世界で作られている代表的なお酒ではないか。そんなものを過程でぶくぶくやっていたら、違法醸造になってしまうかもしれない。
初めてタケノコ酵素ドリンクを作ってみて以来、この梅雨の季節には毎年仕込んでいる。梅雨の気温は上がるが湿度も高く蒸し蒸しする気候にこの酸味は心地よい。
おまけにこの美しい薄紅色。
料理は舌だけでなく、目でも味わうもの、というのを聞いたことがあるが、まったく同感だ。タケノコ酵素ドリンクは目に優しく、舌に美味しい。さらにいえば乳酸菌でお腹の中まで喜ぶ、という三拍子そろった飲み物だ。
もしもマタケが皮付きで手に入ることがあれば、作ってみるとよいだろう。
え? そんなの、失敗したらどうするかって?
どうせ棄ててしまう皮しか使わないのだ。
少なくとも中身は美味しく食べられるのだから、問題ない。
***
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