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神様からのお告げではなく、自分の未来を自分で占うおみくじをひいたら夢が叶った話


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:平沼仁実(ライティング・ゼミ4月コース)
 
 
「いつかハワイに行くこと!」
迷うことなく彼は答えた。
 
私は医師として、彼が暮らす家を定期的に訪問し診療している。
彼は治療法のない病気のために手足が不自由で、日常生活動作の全てに介助が要る。
日常的にヘルパーの介助を受けながら、一人暮らしをしている後期高齢者だ。
 
彼の家で訪問診療をしていたある日のこと。
診察を終えると私は、小さな木箱を彼の前に差し出した。
 
その木箱の上面にはちょうど手が入るくらいの大きさの丸い穴が開いていて、中にはおみくじのように折りたたまれた紙が何枚も入っている。
 
「何ですか? それ」
不思議そうな顔をしながら、木箱の穴から中を覗き込む彼。
 
「おみくじみたいなものです」
 
手の不自由な彼は、その木箱の中に手を入れることはできない。
 
「代わりに私がひいてもいいですか?」
私は木箱の穴に手を入れ、中から1枚の紙をひいた。
折りたたまれたその紙を開くと、そこにはいくつかの質問が書いてある。
 
「これは神様からのお告げが書いてあるおみくじではなくて、自分の未来を自分で占うためのおみくじなんです」
 
私は医師として患者と関わる際に、病気だけではなく、価値観や考え方などその人全体を知りたいと思っている。
けれどきっかけがなかったり、話が広がらなかったりして、診療の場でそういった話をするのはなかなか難しいことが多い。
 
そんなことを話していた時に知人が貸してくれた、このおみくじ(のようなもの)。
くじに書いてある様々な質問の答えを考え、周囲の人と話すことで、互いをより深く知るための対話のきっかけになるように作られたものだ。
 
「どんな時代に生まれた?」
「愛するものは?」
そこに書いてある質問に、次々と答えていく彼。
 
「願い事は?」の質問に、迷わず「いつかハワイに行くこと!」と答えた。
 
正直私はとても驚いた。
彼の訪問診療をし始めてから何年も経つが、そんな夢をもっていたなんて全く知らなかったのだ。
 
日常生活の全てに介助が必要な彼。
国内旅行はおろか、近所への外出でさえも、同伴者や移動手段の確保などハードルは高いだろう。
その彼が、飛行機に乗って海外旅行に行く。
どうやって行くんだろう……。誰と行くのかな……。
様々な疑問が頭の中に浮かんだ。
 
けれど迷いなく答えるその姿に、彼の強い気持ちを感じた。
そしてその夢を打ち明けてもらえたことが嬉しかったし、そのような夢をもつこと自体が素敵なことだと思った。
 
「素敵な夢ですね」
そう伝えると、にっこりと笑顔を見せた。
 
「車椅子で乗れる飛行機があるんですよ」
「行くとしたら、自費でヘルパーさんと行きます」
具体的に誰とどんな方法で行けるのかまで調べていたことを知り、さらに驚いた。
 
「行ってもいいですかね?」
「もちろんです! ダメな理由なんてありませんよ! 行けるといいですね!」
 
彼の本気を感じた私は、その夢の実現を心から願いながら、出来る限りのポジティブな言葉で彼の背中を押した。
 
「それ、もらってもいいですか? 今度ヘルパーさんともやりたい」
ひいたおみくじを机の上に置いて、私は彼の家を後にした。
 
その訪問診療から2週間後。
彼のケアマネージャーから電話がかかってきた。
「ヘルパーと一緒にハワイ旅行に行くことになりました。可能かどうか、医師に確認したい」
 
……まさか本当に行くことになるなんて!
あの日置いてきたおみくじをヘルパーさんともやって、ハワイ行きを決めたのだろうか。
彼の強い意志と覚悟、そしてその決断力と行動力には驚かされるばかりだ。
もちろん私の答えはYes一択。
 
「ぜひ! どうぞ行って来てください!」
無事に行って来れるといいな……そう願いながら、返事をした。
 
それから3週間後。
6日間のハワイ旅行を無事に終えた彼は、皮が剥けるほど日焼けして帰ってきた。
 
「先生にお土産!」
と言って、くれたのは一粒のチョコレートだった。
 
本当にハワイに行って来たんだな……。
英語の文字が書かれたそのパッケージを眺めていると、どこかでまだ信じがたかった彼の夢の実現が、実感に変わる。
その過程を共有できたことが嬉しくて、喜びが込み上げて来る。
口の中に広がるチョコレートの甘さとともに、私は幸せな気持ちでいっぱいになった。
 
日常生活に介助の必要な一人暮らしの高齢者が、海外旅行に行く。
決して低くはないその夢のハードルをひょいと越えて、「いつか」を「今」にしたのは、おそらくあの時ひいたおみくじが大きなきっかけになったのではないかと思う。
 
おみくじをきっかけに、心の中で思い描いていた夢を口に出したこと。
そしてそれを聞いた周囲の人たちが、彼の背中を押したこと。
そうすることで夢の実現が一気に加速したのではないだろうか。
 
あの時口にしていなかったら、彼の夢はずっと「いつか」のままだったかもしれない。
 
どんな夢でも口に出すこと。
口に出すきっかけを作ること。
それが夢を実現させるための第一歩となるのだ。
 
「ハワイに行けるのはこれが最後かもしれない」
少し寂しそうに言った彼の次の夢は何だろうか。
これからも何度でも彼に問いかけ、背中を押し続けたい。
 
 
 
 
***
 
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