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命をつないだもやし生活


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記事:吉田哲(ライティング・ゼミ6月コース)
 
 
「お前、もやしみてぇだな」
 
大学生になりたての時に、同級生に言われた言葉が妙に印象に残っている。誰にも話しかけられないように、教室の最後列の端の席に座っていると、長い髪にパーマをかけた男が「ここいい?」と馴れ馴れしく隣の席に腰をかけた。そして、初対面にも関わらず、明らかな嘲笑と悪意を込めて「お前、もやしみてぇだな」といじられたのだ。当時の私は、不健康に痩せ細った体にひょろひょろと細長い手足を伸ばした、いわゆる「もやしっ子」だったので、指摘は決して間違っていない。ただ、そのパーマ男は「こんなに根暗にも話しかけられるコミュニケーション能力を俺は持っているんだ」という、横柄な自己満足を満たすために私に話しかけたように感じた。(これは、きっと私の卑屈に満ちた偏見に違いない)
 
大学で全く友達ができずに、一人ぼっちをを拗らせている「ぼっち大学生」だった私からすれば、同級生に話しかけられること実はかなりありがたいことだった。パーマ男のいけすかなさに拒否反応を起こしたとしても、回答次第では友達が増え、ぼっち大学生から卒業できるかもしれないと思った。ただ、その考えとは裏腹に無性に腹が立った。「誰がもやしだよ」と小さい声でツッコミを入れて愛想笑いを浮かべたが、唇の端が震えていたのではないだろうか。当時はなぜあそこまで腸が煮え繰り返ったのか。それはきっと、当時の私の主食がもやしだったからだと思う。
 
当時の私は、親からの仕送りで家賃を払い、バイトで稼いだ金を本や服に使ってしまう典型的な金欠大学生だった。そのせいで、1カ月にかけられる食費が1万円以下であることもざらにあった。本当に金に困った時は、1週間もやしだけを食べる生活で切り盛りしていたのだ。ほとんどの体の成分がもやしで構成されていたので、もやし由来の体内細胞が立ち上がり、パーマ男のあの言葉に、怒りが込み上げたのだと思う。「俺たちもやしを舐めるなよ」と。「俺たちは嘲笑の例えに使うような、安易な食べ物ではないのだ」と。
 
ネットで「もやし 健康」と調べると、「もやしには栄養が全くない」「実は、もやしは栄養たっぷり!」という二つの趣旨の記事が同時に出てきて、多くの読者は混乱するだろう。ただ、一週間もやし生活を実践していた私からすると、もやしは雨傘のようなものだ。
 
突然豪雨に見舞われた時には役立つが、それ以外は全く役に立たない雨傘と一緒。絶望的にお金がない時には役立つが、決してそれ以外の時に役立つことはない。ただ、死なないためだけに食べているもので、決しておいしくはないし、健康的であると思えなかった。それでも、もやし生活を続けていたのには3つの理由がある。
 
まず、一つ目は圧倒的に節約できるからだ。野菜は基本的に、天候の状況によって生産量が左右されるため値段の変動が激しい。しかし、もやしは緑豆や大豆などの豆類を水につけるだけで発芽するため日光が必要なく、一定の生産量を保てるのだ。私が大学生の頃からずっと、一袋30円程度で売られているため、食費の計算がしやすい。一週間分のもやしを買ったとしても、630円。ドレッシングなどを買ったとしても1,000円程度。1カ月の食費が1万円だとしても半分以上のお釣りがくるのだ。
 
そして、二つ目は、「太らない」。もやしは、ビタミンC、ビタミンK、カリウム、鉄分などの栄養素を含んでいるため、最低限の栄養は摂取することができる。食物繊維も多く含んでおり、体内の余分な水分や毒素を排出するデトックス効果もあり、排便も促進してくれる。その上、肥満の原因とされる糖質・脂質の含有量が少ないので、もやしだけを食べていたらほとんど太ることがないのだ。
 
三つ目は、日常のご飯に感謝できるようになるからだ。もやしは味覚を潤すことはほとんどない。“どう頑張っても”だ。最初の一口目はおいしいかもしれないが、1週間もやしを食べるなら味には期待しない方がいい。ナムルにしたりスープにしたりゴマで和えたり、どんなことをしても基本的にはあのシャキシャキとした食感で、1週間続けるとその食感がだんだんゴムを食べているような嫌悪感に変わってくる。もやしを見ているだけで食欲が失せるようになる。ただ、もやし以外のものを食べる時は、魂が飛ぶようにうまい。それが、久々に実家を訪れた時の母親の料理だったり、酒の席で先輩に奢ってもらうつまみだったりすればなおさらだろう。生産者や料理人の顔が具体的に浮かんでくるほど、圧倒的な美味を感じることができ、それは感謝につながるのだ。
 
以上3つの点から、私は大学の時もやし生活を続けていた。
 
それから10年近く経ち、それほど貧困でもなくなり、もやし生活はやめてしまった。「もやしみてぇだな」と馬鹿にされることはなくなったが、体重は当時と比べて10キロ以上増えた。今になって思うと、あの生活がなければもっと食物を粗末に扱っていたかもしれないし、もっと太っているかもしれない。節約とダイエットと食への喜びを取り戻すために、たまにもやし生活を取り戻してみようと思う今日この頃である。
 
 
 
 
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2023-07-19 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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